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五輪戦士 セイナルファイヤー

 僕の家で聖火が一時的に安置されることになって半年が過ぎた。

 当初は何故僕の家が選ばれたのか皆目見当がつかなかったけど、ある日、いったいどこで嗅ぎつけたのか五輪開催反対の過激派集団が聖火の鎮火を図って侵入してきた際にその疑問は氷解した。

 (しもべ......しもべよ......我が呼びかけに応えるのだ......)
 頭の中に聞こえてきた声。
 だが僕はすぐにそれが目の前の聖火からの声だと理解できた。
 次の瞬間!

 「点火!セイナルファイヤー!!」

 謎の和洋折衷シャウトが僕の意思とは無関係に声帯から発せられた。
 気が付くと僕の全身は真っ赤な炎に包まれていた。
 しかし熱さは全く感じないし衣服が燃えている様子もない。
 魔法の炎か何かなんだろうか。すごいけどちっとも落ち着かない。
 それに、我が呼びかけに応えよとか言っておきながら、人の意思を無視して変身させるのはよくないと思う。

 とはいえこれはこれで変身ヒーローめいていて悪くない。
 まあ、新しい掛け声は早急に考案しなければならないが。

 (さあ我がしもべよ。貴様は聖火と肉体がリンクする400人に1人の選ばれし五輪の戦士。聖火をリスペクトしない無礼者どもに神のペナルティを与えるのだ!)

 また頭の中で声がする。400人に1人って僕じゃなくてもよくない?そこ『神罰』じゃダメなの?
 とりあえず、突然の怪現象に慌てふためく侵入過激派どもに怒りの右ストレートだ!

 フルフェイスヘルメットの側頭部に僕の拳が直撃!悲鳴!

 そう、悲鳴。”僕の”悲鳴だ。

 何これ拳が痛い!折れたかと思った!
 (素手でそのようなものを殴ったら拳を痛めるに決まっているであろう)
 頭の中の声!
 (何それ!なにか凄い力が身につくんじゃないのこれ?) 
 こちらも頭の中で文句を言う。
 (呼びかけに応えて無礼者を駆逐しろとは言ったが、力を与えるとか一言も言った覚えがない)
 (詐欺だ!)
 (欺罔行為が存在しないし、経済的な利益も得てないし不利益も与えてないので詐欺の構成要件を満たさない)
 (死ね!)
 (死なない)

 とか頭の中でやりとりしている間に、状況を飲み込めないまでも冷静さを取り戻した侵入悪漢は鉄パイプを振り上げて襲い掛かってくる!

 しかしそのとき!
 ガシャーーーーン!!! 
 窓ガラスをぶち破り80歳くらいの老婆が乱入! ここ2階なんだけど!
 老婆は息つく間もなく手にしたスレッジハンマーを悪漢の頭部に振り下ろす!
 ゴスッという鈍い音の直後、手にした鉄パイプが床に落ちる。
 え?死んだんじゃない?

 僕の動揺をよそに、老婆は返す刀で他の過激派集団へ襲い掛かる!
 過激ナイフによる反撃! スレッジハンマーが刃を粉砕! 2撃目!肋骨が粉砕!
 過激有刺鉄線バットのフルスイング!スレッジハンマーがバットを真っ二つ! 2撃目! 大腿骨こなごな!

 「てっ......転進!転進ーーーーーッ!!!!」

 一目散に逃走する過激派集団。そりゃそうだ。ここが自宅じゃなかったら僕だって逃げたい。

 老婆はスレッジハンマーを構えたままこちらに向き直る。

 (殺られ......ん?)

 よく見ると、老婆の全身がびっしょりと濡れていることに気づく。
 まるで池か何かに落ちた直後のように。
 しかし、僕の身を包む炎のように超自然のものであるのか、ぽたぽたと雫を垂らしているにも関わらず、床はまったく濡れていない。
 まあ人の家の床をびしょびしょにされても困るわけだけど。

 (聖火さん......聖火さん...知り合いなの?)
 頭の中で質問。
 (......。)
 頭の中で無視される。このやろう。
 もう一度質問しようとしたそのとき。

 「アンタ!今日こそは養育費耳を揃えて払ってもらうわよ!」

 老婆の怒鳴り声。
 えっ?養育費?
 戸惑う僕の意思とはまた無関係に声帯が音を発する。

 「ま、待て!あと1か月!いや2か月待ってくれ!」

 え? えっ?

 「それ3か月前にも聞いたんだけど!死ね!ごくつぶし!」
 養育費を払ってほしいのか死んでほしいのかわからない。

 だが振り上げたスレッジハンマーから殺意を感じずにはいられなかった。
 
 (聖火さん!聖火さんどういうことなの?)
 (いいから逃げろしもべよ!)

 間一髪スレッジハンマーをかわした僕は、老婆の割った窓から家の外へと飛び出した! ここ2階なんだけど!

(次回『私の家で聖水が一時的に安置されることになって半年が過ぎました』に続く)



        これはなんですか?




 
 

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