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2024年8月6日広島にて もうすぐわしも、そっちに行くけん。

https://youtu.be/RsenDTwnd0A?si=D6gJumUD_Euf7I9Z
あっという間に過ぎていってしもうたのう。忘れたことは一度もなかったんよ。
あの朝、家を出た父ちゃんの背中、姉ちゃんの横顔。
もうすぐわしも、そっちに行くけん。明日までは持たんらしい。74回目のあの日までは。

もう母ちゃんとは、そっちでおうたかな。随分、痩せてしもうたろう。あれから、ずっとずっと苦労して、わしらを大きくしてくれたけん。
父ちゃんは上から見とったかもしれんけど、それ以上に苦労しとったんよ。
会えとったら嬉しいのう。わしももうすぐそっちに行くけん。

あの朝、大きい戦闘機が広島に飛んでいくのが見えたんよ。
母ちゃんと妹、弟で防空壕に逃げたんよ。防空壕の外が、ピカっと光ったんが見えたわ。その後、ぶちすごい風が吹いてきて、その音に抱き合うて震えとった。

その夜、父ちゃんも姉ちゃんも帰ってこんかった。それから、ずっと帰ってこんかった。

みんなが言うとった。ピカドンじゃいうて。

夜になって焼けこげた姿で、這うようにして帰ってきた人がおったわ。でも喉が渇いたいうて、水を飲んで、そのまま息を引き取った。

広島は地獄じゃ。そう言うて、逝った。

お父さんとお姉さんがおったところは何も残っとらんかった。光と共に消えたいうて、後から聞いた。でもわしは、ずっと信じられんかった。母ちゃんも、妹も、弟も、誰も信じんかったけん。

でも、もう73年経ってしもうた。
もうすぐわしも、そっちに行くけん。

日本は、経済は発展し裕福になったけど、結局、世の中は何も変わらんかった。日本では戦争が起こっとらんけど、よその国には、まだ戦争に苦しむ人がおる。核爆弾もあれから、どんどん作られた。広島、長崎で落とされて、それから核爆弾は落ちとらんけど。まだまだ、核爆弾は、ぎょうさんある。

娘には、姉ちゃんと同じ名前をつけたんよ。漢字は違うんじゃけど。息子は、父ちゃんから漢字を一文字もろうたわ。二人も結婚して、孫もずいぶん大きくなった。

孫たちが、核のない世界に暮らせるようになればええ思うんよ。若い人は、わしらの戦争を知らん。核爆弾のことも、話でしか知らん。でも核がどんなに悲惨なもんか感じて、核爆弾のない世界を作ってくれると信じたいんよ。

もうすぐわしも、そっちに行くけん。74年目のあの日に。
もうすぐわしも、そっちに行くけん。あれから過ごした長い時間の話をせんといけんな。
もうすぐわしも、そっちに行くけん。その時は、あの日まま、11歳のワシで。
もうすぐわしも、そっちに行くけん。戦争のない世界にいつかなればと願いながら。
もうすぐわしも、そっちに行くけん。暑い暑いの夏の日の縁側で過ごした日々を、また家族で。また家族で。

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