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「四月になれば彼女は」を観て(ネタバレあり)


「四月になれば彼女は」を観てきました。

数日間頭から色んな考えが離れないので、せっかくだから感想を書き殴ろうと。

どうも、田中です。


ゴリゴリにネタバレするんで、少しでも興味がある人はこの記事を閉じて、劇場に足を運ぶことをおすすめします。

まずは一言。


「ペンタックスお疲れさん」


まじでこれに尽きるよね。

夜通し運転して目的地ついて、帰りは一人で同じ時間をかけて戻るって...

俺は同じ事を誰かに出来るだろうか?

いーや、誰もできないな。

ペンタックスよ 永遠に。

言うてますけども。

良い映画だったなー。って


世間的な評価は割と二分化しているそうで。

批判的な意見に多いのが、

・行動心理が読めなくて感情移入しにくい

・景色が綺麗なだけ

・無理やりな感動展開

・親の顔より見た不治の病による死

などなど。たしかに言いたい事は分かる気もする。

けどな、

映画やねん。

なんなら、そういう所が良かった映画やねん。

だからこそ二分化する。

多くを語らないし、回想も多めだし、時系列も追いにくい。

その作風が肝なんよ。

てか映画ってのはそう在るべきなんよ。

なんでもかんでもナレーション入れて、全て説明されたら幅が狭くなるし、粋じゃないやろ?

と、誰かと戦ったところで、良かった点へ。


・カットが美しい

写真がテーマになっているだけあって、マジで画角が良い。

ウユニをはじめとした海外の映像はもちろん美麗だったけど、

感動したのは藤代と春が別れた後の電車内からエスカレーター。

扉が閉まって、電車内に藤代、ホームに春。

寂しそうな春を目で追うように流れるカメラワーク、からの藤代の切ない顔。

上りのエスカレーターで堪えきれず泣き出す藤代。

佐藤健がめちゃくちゃに演技が上手いのもあるけど、計算された画角が妙で引き込まれた。



・脇役が半端じゃない

藤代の大学時代の友人 ペンタックスを演じる中島歩、行きつけのバーの店主 タスクを演じる仲野太賀、サイコ毒親 竹野内豊、弥生の妹や藤代の同僚。

まずはペンタックス。

ラストに海まで送ってくシーンで、

「なんで追いかけなかったの?」ってセリフ

染みたなー。

それまで陽気なやつでしかなかったのに、

あ、こいつ全部分かってたんだなって。

分かってて見守ってたんだなって。

ほんで置いていかれてな...

帰り道、事故らんといてな...

ほんでタスクね。

もうほんま仲野太賀好きやわ。

「お前は気楽でいいよな」

って言われてからの目よ。

タスクはゲイかバイなわけやけど、

もう良い大人だし、自問自答も百万回繰り返したし、その上でこのスタイルを選んだわけだし、消化しきれない内なる感情をグッと飲み込んで、アホの常連の戯言に送る目線。

最高やね。

その後の「覚悟を決めただけですよ」

ってセリフも味わい深くて刺さるね。藤代にも刺さったはずよね。


そして春の父親。

こいつはマジでやべえ。

これキャスティングミスやと思うねんな。

褒め言葉ね。

竹野内豊がすごすぎる。

が故に、それ以降は一切登場せえへんのに春の顔見ると竹野内豊がフラッシュバックする。

旅行を強行できんかった藤代の気持ちが痛いほど分かる。だって殺されそうやもんな。

あそこまでの狂気が、監督の狙い通りやったらお見事やけど、たぶんあれはカメラ回したらエグくて圧倒されたパターンよな。


まあみんな演技派で粒ぞろいやったよな。あの暗いトーンで間延びせんかったのは俳優の貢献度がでかいと思う。



・多くを語らない

与えらた情報量だけで想像して、仮定して、紐づける。

俺はこれが楽しいから映画を観る。

だから今回の作風は結構ツボやったんよね。

弥生が失踪したのは見え透いた飾りの愛情にうんざりしたのと、セックスレスと、今日まで築き上げた観念に押しつぶされてキャパを超えたからやと思うんやけど、

ここまではみんな理解できる。

弥生はこれを手に入れてしまった代償やと考えているわけね。

じゃあなんで施設で働いてまで、春に会いに行ったか。

ここに引っかかる人が多かったけど、これも実はかなり簡単で、

弥生も弥生がヤバいやつって自覚があったからなんよな。

弥生と藤代が出会うきっかけになったのは、弥生が診断表目当てで精神科に訪れたからやねんけど、

診断表が欲しかったのは仕事を休みたかったからで、

仕事を休みたかったのはその当時の彼氏と成り行きで結婚を目前に控えて、逃げ出したくなったからで、

逃げ出したくなったのは手に入れてしまったからなんよ。

それは弥生にとっての愛の終わりで、この先の関係性は悪化の一途を辿るだろうなって想像するから逃げ出したくなったんよね。

で、また藤代からも逃げ出すのか?

それはあまりにもヤバくないか?

このままでは良くはないなって弥生も自覚してたから、何かを変えたくて真逆の感性を持った春に会いに行ったんだと思うわけです。

あくまで俺なりの解釈ね。



・愛を終わらせない方法は?

俺は「関心を持ち続けること」だなって、

映画を観終わって思った。

最後の「パンダのしっぽの色は?」

ってセリフが一番好きで、

中盤の回想で動物豆知識を聞かれた弥生が

「本当に興味ある?」と返すシーンがフリで、

リップサービスや小手先で関心のある姿勢を演じていた藤代が、終盤に本気で弥生へ関心を持ちなおすことで関係修復へ。

注意して見ていないと答えられない「パンダのしっぽの色」を聞いたのは、

表面的ではなく細部に関心を持ってねという弥生のメッセージで、

それに微笑んで応える努力をする藤代も良い。

そして世のカップルが一緒にいる意味は、こういう何気ない会話やほがらかな雰囲気の一コマに集約されているんだなって思ったわけです。



さいごに

恋愛関係のみならず、家族、友人、お隣さん、赤の他人にも、

現代に足りなくなってきたのは「関心」なんじゃないかと。

俺も他人に興味がない方なんで、人の事を言えたタチじゃないけど、

関心を持つ事を怠らなければ救われる未来って多々あるよな。

人間は怠惰な生き物やから、それってすごく難しい事やけど、

この映画はそういう事を伝えたかったのかなーって。

個人的にはすごく好きな作品でした。

藤井風まじで最高。

おわり!


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