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#3 姉の心配事

母から経理を引き継いだ姉に臨時の仕事を頼まれたわたしは週に1回、
姉と一緒に親族(叔父)の会社に通うことになりました。

遠い記憶にある数人でやっていたあの頃の小さな町工場と違い、敷地面積も従業員数も4倍ほど増え機械も新しく大型のものが増設されていましたが、ほとんどが古めかしく昔のまま、ハード面もソフト面も昭和のままでした。
古参の従業員にはかつての幼かった私を知る人もいて、どこか懐かしく、
たまの手伝いでも自分にできることで何か少しでも力になれたらと思っていました。

久しぶりに一緒に過ごす時間ができた姉は話し相手ができてうれしいのか、通勤の道すがらに会社の話をいろいろとしてくれて、いまの従業員のこと、ここ数年の会社の出来事を時間をかけて事細かに教えてくれました。

私は「へぇ」とか「えぇ?!なんで?」とか初めて聞く話に盛り上がりつつあくまで第三者の視点で話を聞いては驚いたり共感したりアドバイスしたりしていましたが、1年もたつと、あまりに膨大な愚痴と相談事に疲れを感じ始めました。
そしていよいよ臨時の仕事も終わろうかという時期に、
「もしよかったらこのまま続けてもらえないかな?」と姉からの打診が。

その時に緊急の重大な悩みとして改めて相談されたのが
会社の後継者問題と社長の息子(私たちのいとこ)のことでした。


姉から聞く社長息子の様子

「実はいよいよ本当危ないするんだ・・・」

姉が思いつめた様子で話し始めた内容は、
・2年前まで製造部に在籍していたが、ある日突然、出社しなくなった
・都内のアパートに引きこもっていて、最近明らかに様子が変
・ガリガリに痩せこけて、お金もない、借金+家賃滞納しているはず

なぜこのような様子を知っているかといえば、面倒見のいい姉がアパートを訪ね、お弁当や保存食をコンビニで買ったり少額の現金も渡したりしているからだそうで、何度か話をしても一向に進展がないというのだ。
家賃支払いのためカードローンを重ね、ついには家賃滞納、ポストには督促状があふれ、携帯も止まって、今ではアパートに直接いかないと会えない。前回訪ねた時もドアにバリケードをしているのかすぐには開けられず、中の様子もわからない、とにかく異常なのだと。

姉としては、それなりに説得もしてきたつもり。でも何も変わらない。
「35にもなって働きもせず何をしているんだと腹立たしい気持ちもあるけど
もしニュースにでもなるような事態になったら…大家さんやよそ様に迷惑をかけてしまったら身内として本当に申し訳なくて…(☍﹏⁰)。
だから何度か社長にも
「本当に大変!命にかかわるかもしれない!」って相談したんだけど、
「『あんなやつは知らん!ほっておけ!』って怒り出しちゃうし、もうどうしていいかわからない…」(☍﹏⁰)。


私としては、
「親がほっとけって言うんだからほっとけばいいんじゃない?」と思うが、姉の言うこと(よそ様に迷惑かけてていいのか)は、もっともであった。

「それにね、会社に来る銀行員さんからも『社長の息子さん最近見ませんがどうしたんですか?』なんて探られるとドキッとして…はぐらかすのももう限界なんだよね…」
なるほど。急にいなくなりました~とは言えないわな。。。

「誰にも相談できないし、会社のことをわかってくれて、協力してくれる人がいないと、私ひとりじゃ本当にしんどいんだ…なんとかしなきゃ…」

姉に青ざめた顔で相談されたとき、
どれほどの事態なのか自分の目では確かめていないものの、これほどまでに思い詰めた話を軽んじることはできないと思い、
「大丈夫。わかったよ。わたしも協力する。」と返事をしていました。

それでも内心は、姉含め周りが甘やかすから逆効果なんじゃないのかとか、ちゃんと話せばわかるはずなのに、とか軽く思っていました。


姉の性格と今の状況


ちなみに、姉の性格は真面目で、非常に世話焼きで、とても記憶力がよく、気が弱く、本音が言えず、困っている人を放っておけない情に厚い人です。
私がドライなら姉はウェット、対照的な姉妹。

そして姉が深刻に会社のゆくえを案じているのは、
【親戚の会社だから】という単純な理由のほかにも理由があって、
実は、姉夫婦はそろってこの会社に勤めているのでした。
つまり会社の存続=自分たち家族の存続そのもの。”一蓮托生”です。


「私たち財源が同じだからさ…いっぺんに収入が止まっちゃうんだよね… この年でもう転職なんてできないし子ども二人が成人するまでなんとかなるのかなって…将来がすごい不安…」



まだこの時の私には会社の経営状態の問題はまったく見えていませんが、
たしかに後継者が宙ぶらりんのまま70歳を超えているというのは不安で当然と思うし、なによりその後継者に一番近い息子が危機的な状況だというのは
見過ごせない問題だと思ったわたしは早速行動に移すことにしました。