第三の男
The Third Man
キャロル・リード監督の1949年の名作です。
脚本はイギリスの小説家であるグレアム・グリーンさんです。
音楽はアントン・カラスさんがオーストリアの民族楽器のチターで奏でます。
主演はオーソン・ウェルズ監督の『市民ケーン』やジョージ・キューカー監督の『ガス燈』などで知られるジョゼフ・コットンさんで、共演はオーソン・ウェルズさんやアリダ・ヴァリさん、トレヴァー・ハワードさん、バーナード・リーさんなどです。
『第三の男』は、サスペンス映画の不朽の名作と称されている上映時間が105分のモノクロ映画です。
ストーリーは…、
アメリカの作家であるホリー・マーチン(ジョゼフ・コットンさん)は、旧友のハリー・ライム(オーソン・ウェルズさん)の依頼でウィーンにやって来ましたが、そこでは前日に交通事故で死亡したハリーの葬儀が行われていました。
マーチンは墓場で英国のキャロウェイ少佐(トレヴァー・ハワードさん)と知り合い、ハリーが闇取引の悪人だったと聞かされますが信じる気になれなく、真相の究明に奔走します。
ハリーは女優のアンナ(アリダ・ヴァリさん)と恋仲でしたが、彼女と知り合ったマーチンはハリーの宿の門衛(パウル・ヘルビガーさん)などに訊ねた結果、彼の死を目撃した男が3人いることを突き止めました。
そのうちの2人は判りましたが、3人目…“第三の男”だけはどうしても判明しません。
マーチンは何者かに脅かされ始め、門衛も殺されてしまいました。
ある日の夜にマーチンは街角で、死んだはずのハリー・ライムを見つけました。
後日、マーチンはハリーと観覧車の中で逢い、改めて彼の凶悪ぶりからやむなく親友を売る決意をします。
病院を視察してハリーの罪を目のあたりにしたマーチンは、囮になって彼をカフェで待ちました。
現れたハリーは警戒を知り、下水道に飛び込んで、地下での拳銃戦が開始され、追いつめられた彼はマーチンに撃ち殺されました。
そして“第三の男”の埋葬が行われた日、マーチンはアンナを墓地で待ちますが、彼女は冷徹な表情で彼の前を通り過ぎていきます。
…そこで映画は幕を閉じます。
冒頭からアントン・カラスさんのチター演奏をクローズアップして、弦の振動だけが映し出されるオープニング映像がとても印象的です。
映画の内容とは関係ないカットと音楽なんですが、それがなぜか作品への期待感を煽る結果になっています。
この1本の弦楽器だけで本編中もその独特な音色で映像とリンクしていきます。
オーソン・ウェルズさんが演じる映画史を代表する悪役のハリー・ライムの登場シーンは後半に僅かに計5分ほどしかありませんが、ふてぶてしい斜め横顔が暗闇の中で光が射した瞬間に映し出される初登場シーンや、名台詞を残す観覧車のシーン、そして、巨大迷路のような下水道での追跡劇など、すべてが印象的です。
この映画の中でもハイライトのハリー・ライムの観覧車での有名な台詞…、
“ボルジア家支配のイタリアでの30年間は戦争、テロ、殺人、流血に満ちていたが、結局はミケランジェロ、ダヴィンチなど…偉大なルネッサンス文化を生んだ。
片やスイスはどうだ?
麗しい同胞愛、そして500年の平和と民主主義はいったい何をもたらしたと思う?
鳩時計だとさ。”
…は、グレアム・グリーンさんが執筆した脚本にはなく、オーソン・ウェルズさんがその場で思いついた完全なアドリブと言われています。
第2次世界大戦直後のウィーンが舞台のフィルム・ノワールの名作です。
フィルム・ノワールは、フランス語で“暗い映画”の意味ですが、アメリカ…ハリウッドで主に使われた映画用語です。
虚無的、悲観的、退廃的なテイストを持つ犯罪映画や異常心理映画のことを言います。
ジョン・ヒューストン監督の『マルタの鷹(1941年)』がフィルム・ノワールの原点とされており、オーソン・ウェルズ監督の『黒い罠(1958年)』までの時期に作られた作品が対象とされることが多いです。
特徴としては、犯罪者など反社会的な思想を持つ破滅的な性格の男性が主人公で、夜間のロケーションが多く、光と影のコントラストを際立てた色調でほとんどがモノクロで描かれています。
そして重要なのが、魅力的だけど危険な女性が登場するのも大きな特徴です。
最後の永遠に続くような並木道を歩いてくるアンナと、声も掛けずに煙草に火を点けるマーチンの対比的な構図も映画史に残る名シーンです。
この映画を観終わった時に、何が心に残っているか…私の場合は、チターの音色とオーソン・ウェルズさんが登場する全シーン…そして、エンディングの並木道を歩くアリダ・ヴァリさんです。
観終わった後は、深い余韻に包まれて放心状態になってます。
公開から74年も経っていますが、良いものは何年経っても良いものです。
映画って本当に良いものですね…あぁ~ステキ♪
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