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Night Lights

本日の“こずや”のBGMは、ジェリー・マリガンさんの1963年の名盤『ナイト・ライツ』です。

私個人的には、幼少期から父に聴かされていたこともあり、デイヴ・ブルーベックさんの『タイム・アウト』やマイルス・デイヴィスさんの50年代の諸作品と同じぐらい自然に頭の中で流れている音楽です。

ジャケットのような雰囲気そのままの、物静かな透き通るようなトーンのアルバムです。

その中にボサノバがあったり、フュージョンのような感じのものを先取りしていたりで、実はバラエティに富んだ作品です。

マリガンさんは1940年代末に、マイルス・デイヴィスさんの後に『クールの誕生 』としてまとめられたビッグ・コンボに参加し、中心メンバーとして活躍した人物です。

バリトンサックスでの演奏や「ジェル」、「ミロのヴィーナス」などを作曲しました。

1952年にカリフォルニア州に活動拠点を移し、トランペットのチェット・ベイカーさん達とピアノレスカルテットを結成しジャズの世界に衝撃を与えました。

ジャズの世界では、ドラムとベース、そしてピアノなどの鍵盤楽器を含めてリズムセクションが成り立つと考えられていました。

その中で、ピアノレスの編成で活動を始めたのでかなりのインパクトだったようです。

この動きがアメリカ西海岸におけるウエストコースト・ジャズの顕在化に繋がりました。

マリガンさんのカルテットのデビュー・アルバムである『ジェリー・マリガン・カルテット』は、「バーニーズ・チューン」などが収録されていて、大ヒットしました。

マリガンさんはウエストコースト・ジャズの中心的人物として西海岸に拠点を置きつつ、デイヴ・ブルーベックさんやセロニアス・モンクさんといった人たちと交流を深めていきました。

ジャズの世界ではサックスはトランペットと同じくメインを張る楽器です。

マリガンさんが演奏するのは、そのサックスの中でも、バリトンサックスです。

アルトサックスやテナーサックスよりも巨大なもので扱いづらいとされています。

そのバリトンサックスを自在に操り、ソロ楽器として確立したのがジェリー・マリガンさんです。

マリガンさんは、バリトンサックスの地位をジャズ界に根付かせた張本人ですが、『ナイト・ライツ』では、1曲目でピアノを弾いてますし、他の曲のバリトンサックスを吹いている場面でも派手に吹いているわけではありません。

なので、バリトンサックスがメインだから聴いてみたい…という場合にはマリガンさんのそれこそ、『ジェリー・マリガン・カルテット』などの別の作品を聴いた方が良いと思います。

でも、ジェリー・マリガンさんの最高傑作はこの『ナイト・ライツ』ではないでしょうか。

それまでのデイヴ・ブルーベックさんにも通じるプログレッシヴな作風とは真逆の物静かな作風で、参加メンバーの誰もが自己主張するのではなく、最高の音楽を作り上げようとしているかのようです。

メンバーは、アート・ファーマーさんがトランペット、ボブ・ブルックマイヤーさんがトロンボーン、そしてジム・ホールさんがギター、ビル・クロウさんがベース、デイヴ・ベイリーさんがドラムです。

アルバムを通して全体の統一感が素晴らしいです。

ジャズドラマーには、アート・ブレイキーさんやマックス・ローチさんのように自己主張の強いタイプと物静かで控えめなタイプの人がいますが、デイヴ・ベイリーさんは物静かなタイプです。

自分の作品でも基本的にソロをプレイしません。

子どもの頃から飛行機乗りに憧れていたこともあり、大人になって空軍に入り少尉にまで上り詰めましたが、その後、軍を去り、音楽学校に入ってドラムを覚えたという経歴があります。

ミュージシャンとしてはかなりの遅咲きだったようです。

ベイリーさんのドラミングはかなりシンプルで、ソロを取らずにリズムキープに徹っします。

そんなベイリーさんは、『ナイト・ライツ』に適任でした。

マリガンさんは、作曲家・編曲家として素晴らしく、演奏者としても素晴らしいという二面性がありますが、この『ナイト・ライツ』では前者で聴く人を圧倒します。

クールジャズ(=西海岸のイメージ)と言われながらも、バリトンのアドリブをやっている時は東海岸的にガンガン吹いたりします。

バリトン奏者と言われながら、実は作編曲家としての能力も凄いわけで、この二面性がマリガンさんの魅力です。

01.ナイト・ライツ
02.カーニヴァルの朝
03.ウィー・スモール・アワーズ
04.プレリュード:ホ短調
05.フェスティヴァル・マイナー
06.テル・ミー・ホエン

07.ナイト・ライツ(1965年バージョン)

1曲目の「ナイト・ライツ」では、普段はピアノを好まないマリガンさんが、自らピアノを弾いています。

それも物凄くムーディーで透き通るような音色でこの上なく美しく繊細な響きになっています。

2曲目の「カーニヴァルの朝」はルイス・ボンファさんが作曲したボサノバの名曲、4曲目の「プレリュード:ホ短調」はショパンさんが作曲した「24の前奏曲 第4番」をマリガンさんがボサノバにアレンジしたものです。

世界的に大ヒットしたスタン・ゲッツさんとジョアン・ジルベルトさんのアルバム『ゲッツ/ジルベルト』が発表されたのが同じ1963年なので、『ナイト・ライツ』もボサノバの大流行の火付け役になりました。

ジェリー・マリガンさんはこの作品の以前からボサノバを取り入れていました。

アルバム全体を通して、リラックスした雰囲気です。

“夜の灯り”という通りに、アルバム全編に渡って夜のムードが漂っています。

ウィスキーをストレートではなく、オン・ザ・ロックで飲みたくなります。

氷の溶ける音とセッションさせたくなります。

ボーナストラックである7曲目の1965年に録音された「ナイト・ライツ」では、マリガンさんはクラリネットを吹いており、なんと、ハル・ブレインさんがドラムで参加しています。

ザ・ロネッツの「ビー・マイ・ベイビー」、エルヴィス・プレスリーさんの「好きにならずにいられない」、ビーチ・ボーイズの「グッド・ヴァイブレーション」、バーズの「ミスター・タンブリン・マン」、フランク・シナトラさんの「夜のストレンジャー」、サイモン&ガーファンクルの「明日に架ける橋」、カーペンターズの「遥かなる影」など、参加した楽曲は3万5000曲以上という伝説のセッションドラマーです。

その中のおよそ150曲が全米トップ10入りしたという凄い記録を持っています。

2000年にはスタジオミュージシャンとして初めてロックの殿堂入りしました。

このボーナストラックも含めて、いろいろと話題になる作品です。

心に染み入る美しい音楽…あぁ~ステキ♪

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