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種族解説:オーク

🔰序章&項目一覧

オークは人間にとって不倶戴天の敵であり、両者は現在もなお続く永年の闘争のただ中にある。オークの起源を知る者はいない。この世界に人間が現れ、火と石を使い始めた太古の昔にはすでにオークたちが大陸の至る所にはびこっていたと、エルフたちは伝えている。

太古より綴られてきたドワーフの年代記には、幾星霜におよぶゴブリンとの戦いが記録されているが、オークについていえば、エルフの史書でしばしば言及されてきた。ドワーフがゴブリンと対峙し、エルフがオークとの対決を強いられていたのは、彼らの生活圏が似通っていたことに起因するものだ。

エルフやドワーフはその数を減じる一方、代わりに勃興した我ら人間がオークやゴブリンと生存圏を争うようになって久しい。

我ら人間が著す様々な記述においてオークとゴブリンはしばしば併記されるが、これは彼らが種族として同類なのではない。オークとゴブリンが、我ら人間の発展を妨げる差し迫った脅威だからだ。オークとゴブリンは辺境の荒れ野はむろん文明諸国の領内においてさえ我が物顔でうろつき、変わらぬ暴虐を繰り返し続けている。しかもその数たるや、人間よりも多いのだ。

オークとゴブリンは体つきこそ違えど似たような顔つきをしており、その肌色や社会構造も似てはいるが、それらはあくまで表層的な観察にすぎない。学びを深めれば、オークとゴブリンは似て非なる種族であることがわかるだろう。

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オークは古典的な部族社会を持ち、有史以来ほとんど変容していない。その意味でオークの社会は、辺境で後進的な暮らしを営む野人らのそれによく似ている。すなわち、オークの部族を治めるのは族長であり、部族において最も勇猛な戦士がこの地位につくのだ。部族の呪術師は精神的指導者として部族の権力者らを補佐する役目にあり、部族の最長老は、たいてい呪術師である(なぜそうなるかは後述する)。

オークの部族は少なくとも数十人、多ければ数百もの民を擁し、その7割は男だ。部族の最小単位は複数の家族が寄り集まったものだが、彼らがそのまま孤立して生活を営むことはまずない。オークの族長は、近隣の他部族を吸収して傘下につけるか、あるいはより強い部族の下につくことで、自勢力をより大きく、強くすることに執心するからだ。

こう書くと、まるでオークが栄誉を求め、社会的な成功を熱望する種族に思えるかもしれないが、それは誤解だ。彼らが大集団をなそうとするのは、外敵の侵攻を防ぎ、生き残るために自勢力を強めるといった、生存のための知恵でもない。彼らが常に自身と味方を強大にしようとするのは、より刺激に溢れた戦いの日々に身を投じるためである。

この平穏ならざる時代にあって、我々は生きるために戦いを強いられてきたし、これからもそうであろう。だが、オークは違う。彼らは生きるために戦ってなどいない。戦うために生きているのだ。オークは、生き物であれば虫けらでさえも備える自己保存や防衛の本能を完全に欠き、よき戦いのみを求める稀有な種族なのである。

とはいえそれは、彼らが恐れ知らずの白痴であることを意味しない。オークは必要に応じて退却もするし、それが明日のよりよき戦いにつながるならば、自分より力のある者に従属することも厭わない。オークは、自分と相手に等しく死ぬ可能性があってこそ死を恐れなくなる。すなわち「同じ死ぬでも、わけわからん無駄死にはみっともねえ」ということだ。

一部の愚か者が誤解しているようにオークは暗愚な兵ではなく従順でもない。彼らには彼らなりの流儀があり、死に対する美学めいたものがあるからだ。オークならば通すべき筋を通さぬ者が偉ぶり、おめおめと命を差し出せと言えば、オーク兵は命令を聞くどころか、あらゆる手段を尽くしてその勘違い野郎をブチ殺すだろう。

オーク部族内における出世争いは苛烈で、その点をもってゴブリンとの類似を指摘する者もいたが、動機がそもそも違う。オークが部族内でより格上の立場を目指すのは、ゴブリンのような保身や怠惰のためではない。単に「より高い立場になると、より良い装備でより強い奴と自由に戦える」からなのだ。

オークは大体10歳ほどで成人し、ほとんどが25歳を迎える前に死ぬ。元々長命な種族ではないが、平穏な死を迎えられる者はほとんどいない。かくも短命で自己保存の認識に欠けた種族であるにも関わらず、なぜオークは減らないのか?

オークの性欲は暴力への渇望と同じように旺盛であり、多産な上に成人も早いからだ。オーク女は1年に4〜5回妊娠し、出産のたびに平均して5人の赤子が生まれてくる。ネズミのごとき増え方であるが、部族内の抗争や外部との戦争で命のやり取りばかりしているため、オークの総数は爆発的に増えすぎることもなく、また減りすぎることもない。

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オークは、大陸のあらゆる所に住み、終わりなき略奪と戦に明け暮れている種族だ。身の丈は野人のそれと同じかそれ以上に大きく、分厚い胸板とどっしりとした肩、丸太のように太い腕と短いが強靭な足のせいで、余計に大きく見える。

その肌はたいてい緑色だが、すべてがそうではない。地方によって様々な民族がいるらしく、灰褐色のものや黄色のかった茶色、薄紫やくすんだ赤茶のものもいる。顎や口吻の形状も差異が激しく、単に受け口のオークもいれば、下顎と同じように上顎も大きく前に張り出し、横から見れば猪のような顔をしたものもいるのだ。だが、顎の形状や大小は別として、赤く邪悪な目と尖った耳、恵まれた体格、そしてオーク固有の精神と感覚は共通している。民族の差異こそあれ、彼らがいずれもオークである以上、我らと宥和する事はできないし、する必要もない。

オークは、物事について深く考えたり、あれこれと予測することを無駄とみなす。彼らの脳みそがそうした複雑な思考を苦手としているのは事実であるが、トロールが時折見せるような愚かさは持たない。オークがあれこれと考えこまないのは、明快で単純な解決法…暴力の行使が常に最良の選択であると考えるからだし、オークの場合、実際にそうであることが多いのである。

他の種族は、何事をするにも損得や立場、あるいは行動のもたらしうる結果などを考えて迷うものであるが、オークはそうした回りくどい事を嫌う。欲しければ奪うし、気に入らなければブチのめすし、邪魔だったら壊すだけだ。

オークが他者の命令を聞く時は、相手が自分より(今のところは)強い場合だけであり、もし自分の方が相手より強ければ、言う事を聞くべきは相手である。力こそが正義であり、正義は力に宿るもの…この考え方は、オークが社会を維持する上で大切な規範の中心と言えるだろう。

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オークの社会においては、オークであること、そして個の力こそが尊ばれ、力のあるオークは常に優遇されるものだ。オークが二人いれば、そこには殴り合いによる序列の決定がまずなされる。力のより強い者がより弱い者を配下に置き、その競争はとめどなく続いていく。

部族を治めるのは族長だが、それには過去や血縁は全く重視されない。いついかなる時でも、部族内において、その時点で最強のオークが族長となる。つまり族長の椅子は盤石ではない。族長は自身が最強であることを配下にわからせるため、いついかなる時でも部族内の誰よりも強く優れていることを示しつづける必要があるのだ。

族長たるもの、いかなる戦においても最多の敵を蹴散らし、最強の敵を倒すことが求められる。平時においても、誰よりも声がデカく、一番たくさんの料理を平らげ、誰よりも酒が強く、誰よりも多く子をなさねばならないと言うわけである。

部族が大きくなってくると、族長だけでは目端が効かなくなってくるものだ。部族が大きくなるということは、必然的に他の部族を吸収したことを意味する。自分の血縁者が死者数を超えて爆発的に増える部族は、オークの場合まずない。なぜならそんな部族の族長は「戦から逃げている」と配下に思われ、族長の地位が危うくなるからだ。

吸収された部族の元族長は、新たな族長にブチ殺されていない限り、元々の自部族を支配し続ける。だが彼はもはや族長ではなく、新たな(より強い)族長の側近を意味する大兄貴おおあにきと呼ばれるのが大きな違いだ。

大兄貴は自分の率いた部族をそのまま自分の配下として用いるが、もはや族長ではないので、以前のような権力は持ち得ない。だが、族長であったころと同じく、自身の優越を配下に見せ続けることは必須だ。少しでも弱ったところを見せれば自分の配下に取って代わられるか、他の大兄貴にブチのめされ、自分の部族を丸ごと奪われかねない。大きな部族となると当然ながら何人もの大兄貴が居並ぶことになり、同輩間での序列も常に変動する。

複数の部族を配下に従えた大族長も例外ではない。自身の側近である大兄貴たちは、いずれもひとかどのオークであり、部族をより強大にする上で重要な連中ではある。だが、大族長の威光に翳りが見えたとなれば、側近たちはすぐさま王を見限り、真正面から戦いを挑んでくるだろう。こうして部族は離合集散を繰り返し、血と暴力に満ちた歴史を紡ぎ続けるのだ。

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このように、オーク部族においては、その時点での力こそが物を言う。年長者や経験豊かな者をたてる・・・文化はまったくない。こうした考え方はオークにそぐわず、社会的な害悪であるとさえみなされている。

たとえば、自分の格上を殺して地位を乗っ取る行為は“おむかえ・・・・”、同輩を殺してその配下を奪い取る行為は“ひっこぬき・・・・・”と言われ、どちらもオークの間では伝統的美徳とされているのだ。

このオーク文化をさらに強固にした事件がある。“アレ頭”ボルゲラッツの逸話だ。ボルゲラッツは生前誰にも負けぬ強さを誇り、誰にも殺されずに死んだ稀有なオーク族長である。だが彼が有名なのは圧倒的な強さからではない。他部族に戦争を挑まず、なおかつどこの配下にもつかぬまま単独で部族を肥大化させるという、オークの古き良き伝統に歯向かう不届者であったからだ。

彼は他の部族に戦を挑まず、人間の小さな村ばかりを狙って必要な糧食を奪い、二十年近く族長の地位を維持し続けた。その結果彼の部族は、単独で数百人規模にまで膨れ上がったのである。

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