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種族解説:闇トロール

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トロール。この巨大で愚鈍な種族には、実に数多くの亜種が存在する。今回紹介する闇トロールは、無数に存在するトロール民族の中でも、もっとも異質なたぐいと言って差し支えない。

他個体と離れた独居を好む他のトロールと異なり、闇トロールは集落をなして山間部に定住する。彼らはトロール族の中でもとりわけ長身で力も強く、動きも俊敏な上、若い頃から戦いの訓練を積む点でも、暗愚な従兄弟たちとは一線を画す民と言えるだろう。

闇トロールの名は、彼ら自身が自分たちをそう呼ぶことから来ている。彼らがトロール族の中で特に暗い色の肌を持つことは事実だ。ほとんど黒に近いものから、青みのかった灰色、水に濡れた泥のような色のものなど。肌の色こそ異なるが、その体形は穴トロールと近く、鷲鼻と長い手足、痩せぎみの胴を持つ。

闇トロールは別に暗所をとりわけ好むでも、光や炎を恐れることもない。また、一部で言われているような〈深淵〉の手先であるという指摘も当たらない。仲間を増やすために人の子をさらうことと、彼らを傭兵として雇う連中の多くが邪悪の徒であるため、一般に敵対的種族とみなされているだけのことだ。

もっとも、闇トロール自身は、別に人間と常に敵対しているという意識はない。むしろ種族の繁栄に必須な共生相手であり、様々な文化や教養を(一方的に)共有できる友人と考えているふしすらある。闇トロールは他種族との接触を避けようとはせず、トロールの中では社交的な部類と言えるだろう。同族同士で争うことはほとんどないが、歴史を紐解けば、集落間の争いがなかったわけではない。闇トロールは、相手を敵とみなしていない限り、かなり友好的な態度で他者と接することで知られる……たとえ相手が人間であってもだ。とはいえ、闇トロールの機嫌を損ねるのは“水面に波を立たせることよりも簡単”なため、闇トロールの友人で居続けることは、善良な者にはまず不可能であろう。

多くの種族がそうするように、闇トロールたちは雨露を避けるために洞窟に寝ぐらをこさえ、そこで眠るが、起きれば洞窟を出て、縄張りの方々を好きなようにうろつく。例外は魔術師…つまり集落の王で、何かのっぴきならぬ事情や火急の要がない限り、彼は洞窟から出ようとしない。

闇トロールは少なければ数人、多くても数十人からなる小さな集落をなすが、その長は常に魔術師だ。闇トロールの魔術師は、彼らの言葉で“すべてを見通す長”を意味する“ベル・ゾル・べーザ“と呼ばれ、集落の王として君臨する。王への忠誠が揺らぐことはなく、魔術師のためであれば、闇トロールは喜んで命を投げ出すだろう。

実際、共同体の運命は王次第だ。女性が存在しない闇トロールの社会で若子わかごの増やし方を知るのは王のみである。次に王となるべき者に伝える時を除いて、その秘密が他の誰にも知らされることはない。集落の者が知るのは、「人間の子供をさらって王の元へ連れて行けば、やがて若い闇トロールが集落に増える」ということだけである。その戦乱好きが祟ったか、往時に比べるとその数は減少の一歩を辿ってはいるものの、彼らが種族として死に絶えることはなかろう……彼らの不自然な増殖方法が続けられているうちは。

ケイポン国の魔術師たちは、闇トロールの王が行う儀式の数々に、上古かみふるに存在した〈黒の秘術魔法〉との奇妙な相似を指摘している。もっとも、上古にまつわる研究は全分野において途上であり、その時代を知るいくつかの種族は頑としてその知識を人間に分け与えようとしない。ここは、今後の研究が待たれるところである。

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