猫目じじいが俺に教えてくれたこと(後編)
「おじさん、どうしてこうえんの絵をかいてるの? すごい、じょうずだけど、ここは、こうえんじゃないよ」
猫目じじいは答えない。
その時、鳥が空を横切った。猫目じじいはそれをふいと見上げてコクリとうなづくと、何本かの筆を矢継ぎ早に取り、板切れ(それはパレットではなくほんとうに板切れだった)に出してある数色の絵の具をペシペシとキャンバスに載せた。するとどうだ。公園の空に、翼を広げて空に遊ぶ鳥が現れたのだ。やっぱり写真みたいで、それは本当に魔法のようで、俺は何が起こっているのか、全然理解できない。
筆を動かす間、猫目じじいは、俺のことを忘れたように集中していた。俺も、行き交う通行人の心配げな視線を忘れてしまうくらい、猫目じじいの筆先を見つめていた。
「ぼっちゃん」
俺がふと我にかえったのは、他ならぬ猫目じじいが、背中を向けたまま俺のことを呼んだからだ。
「あのね、ぼっちゃん。ぼくが、絵をかくのは、かきたいからだよ」
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