種族解説:ズノート
ズノートは醜く、見るからに邪悪な外見であるにも関わらず、上等な装備を身につけ、聡明に言葉を話す豚面の亜人種として人間の目に映る。人間よりもがめつく、エルフよりも秘密主義で、ドワーフよりも蓄財を好むこの種族は、薄明の時代において突如として広がり、ハルクウーベン全土で暗躍を始めた。
他種族から長らく「オーク豚」の蔑称で呼ばれ続けているこの種族は、確かにオークめいた体躯を持ち、豚のごとき顔をしてはいるが、実際のところオークとまったく無縁だし、豚とも一切関わりがない。この蔑称は、もともとドワーフが与えたものであるというが、エルフに聞けば、それはエルフが与えた名だと言うだろう。
その肌はくすんだ茶色や青灰色、灰みのある褐色や薄黄土色などが多いが、地域によっては赤や緑、黒っぽい肌の者もいるようだ。体格にもかなりの差異があり、オークほどの者もいればオウガ並の巨躯を持つものもいる。研究が進んでいないだけで、ズノートには無数の亜種がいるのかもしれぬ。
ズノートは自分たち以外の主人を持たず、また種族の垣根を超えて友を作ろうとすることもない。だが同時にズノートほど、他種族と先入観なしに交わる種族は存在しないだろう。ズノートは、相手が商売相手となりうるかぎり、誰とでも付き合うからである。
ズノートは、工芸と商いに秀でる種族だ。それゆえに彼らは一兵卒に至るまで上等な装備を持ち、外見から想像できぬ程に賢く、商人であるゆえその行動範囲は驚くほどに広い。彼らの作る武器や防具、工芸品や薬品の数々は、我々人間を敵視する多くの種族に供給されている。そして機会さえあれば、ズノートは人間とも喜んで取引するだろう。
オーク豚という明らかな蔑称で呼ばれようと、相手が顧客であれば、ズノートは平然と受け流す。無論、彼らが自身の尊厳と得られる利益を秤にかけ、利益の方が重たいうちはであるが。
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ズノートが欲するものは、常に経済的な利益だけだ。彼らは絆や友愛、義理や情けといった価値観に頼ることはない。にも関わらず、ズノートは口癖のように「誠実」「信用」「奉仕」を口にする。彼らの話術は巧みだ。必要とあれば、まるで慈愛と徳に満ちた善良な人物のように振る舞うことさえある。しかもそれが演技ではなく、彼ら自身が本当にそう信じているから始末におえない。目的が常に自分の金儲けに帰結することを除いて、彼らの行状に嘘偽りはないのだ。
そう。ズノートが真に恐ろしいのは、彼らが表面的な詐欺師やペテン師でない点にある。ズノートは、他種族では考えの及ばぬほどの長期的な利益を常に考えているのだ。彼らは取引相手に粗悪なものを掴ませたり、騙して金をせしめることはない。そうすればその顧客を失い、悪い評判が立つことを知っているからだ。商いが信用の上に成り立つことを、ズノートは他の誰よりも理解しているのである。
継続的に、そして長期的に儲けるためにこそ、彼らは良い物を作り、顧客をおだて、適正な価値交換で商売をする。彼らは顧客を心底大切に考えているし、実際顧客が期待する以上の取引をもって相手方を安心させ、喜ばせ、依存させるのだ。ズノートとの商いを続けなければ、相手方の暮らしが成り立たないまでに。
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実際のところ、ズノートとの取引がハルクウーべンに住まう多くの種族の間で日常になって久しい。ノールやバグベア、トロールやオグルといった粗野な種族がどうやって自分たちの体に合う武具を得ているかを考えたことはあるだろうか? オークやゴブリン部族の実力者がしばしば身につける、自分達では作れない程に高い品質の(そして彼らの体にぴったり合った)武具の出どころは?
こうした邪な者どもに武器や防具を支給しているのはたいていズノートだ。モンスターの寝ぐらに金品が隠されていることは少なくない。なぜなら彼らは金銀財宝の類をズノートに渡し、その見返りに品物を得ているからである。ズノートは他ならぬ経済と物流の力によって、無数の種族をその影響下に置きつつあるのだ。
いかなる種族であろうと、敵対する二つの陣営あらば、ズノートは別々の隊商をそれぞれに送りこむだろう。そして武器や物資を両陣営に提供し、自分たちは高みの見物としゃれこむ。戦争は儲かるものだ。自分たちの戦争でなければなおさらである。
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