種族解説:トロール(およびその亜種)
トロールははるか昔から現在に至るまでハルクウーベンに棲まう怪物だ。それなりに研究も進んでいる。その生息場所によって細かく分類され、生態もかなり判明しているため、読者諸君にとってはかなり信憑性の高い資料となるだろう。
本稿に収載された情報の多くは、トロール研究の草分けである学者イブリースの編纂した『穴から伸びた影の秘聞』に依るところが大きい。なお、イブリースはサレクロフトにおける霜トロール捜索中、野人に襲われてその生涯を終えた。
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トロールに関する記録で最古のものは、上古の時代に記されたドワーフの年代記にしばしば登場する「トロル討伐」の記述群であろう。白鷺山脈からドーレニヒ山脈、シールシュゴルデ山脈を経て黒露山脈に至るまでの北部山脈群はかつてドワーフたちの一大勢力圏であり、現在もなお健在の砦町が数多く残る一帯であるが、かの地はかつて、トロルが数多く住んでいた場所でもある(ここで言うトロルとは、現在「穴トロール」と呼ばれる類で、いわばトロールの“原種”にあたる)。
トロルはドワーフ五人分の背丈を持つ巨人で、巨大な耳と尖った鼻を持つ。言葉を話すことはできず、唸り声や吠え声を威嚇に用いる程度だった。その四肢は長く痩せており、動きも素早い。トロルが地上に出てくることはまずなく、その一生を洞窟の暗闇の中で過ごす。つまりトロルの生活圏はドワーフと同じ地下世界であり、ゆえにドワーフは血眼になってトロルを探し、根絶しようとしてきた。
トロルの視力はひどく退化しており、ほぼ盲目に近かったが、暗闇の中にあって転倒したり壁にぶつかることもなく、まるで見えているかのように自在に動き回ることができた。おそらく、聴覚と嗅覚が異常に発達していたのだろう。ゆえにドワーフは坑道内で香草を焚きしめ、太鼓や喇叭を鳴り響かせて包囲することをトロル討伐の常套手段とした。
トロールの眷属は深手を負っても急速に自然治癒できる再生能力を持つが、記録に残るトロルの再生能力は、原種なだけあって非常に強力であった。ドワーフの年代記によれば、全身を切り刻んだトロルの死体を坑道外に処分しようと運んでいたところ、数時間のうちに胴体がつながり、手足が生え出してきていたという。ドワーフ戦士団の機転により、再生を始めたトロルを溶鉱炉の炎に投げ入れて消滅させることができた。そう「トロールの再生を止めるには炎が有効」という知恵は、白鷺山脈のドワーフから伝わるものなのだ。
ドワーフの寿命にして数世代にわたって続いた仮借なき追撃により、トロルはひとたび絶滅寸前まで追い詰められた。だが結果論として、ドワーフによる排撃がトロルの拡散と環境への適応という望ましからぬ事態を招いてしまったのもまた事実である。
エルフの学者らが忌々しげに語るところでは、上古以降に大陸各地に広まったトロールとその亜種は、もとを辿れば北部山脈群から逃げ出したトロル(穴トロール)の子孫であるという。悲しむべきかな、現在の北部山脈群は再び穴トロールが我が物顔でうろつく場所となり、ドワーフたちとしては噴飯やる方ないようだ。
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トロールはその背丈にして人間の二倍から三倍はある巨人であり、ごく一部の例外を除き、生涯のほぼすべての期間、単独で生活する。オークやゴブリンの部族がしばしばトロールを利用するが、これは別に彼らが種族として近しいからというわけではない。トロールは多くの場合暗愚であり、オークやゴブリンのお願いをすぐに聞き入れてしまうだけだ。
実際のところ、オークやゴブリンにとって、自分らの勢力圏内で見つけたトロールを懐柔し、仲間に引き入れ、常に満腹にしておくことは重要な課題である。近郊のトロールに敵とみなされたら最後、部族の存亡にかかわることを、彼らはよく知っているのだ。
トロールは繁殖力が旺盛なわけでも、多産でもなく、また群れを作ることもない。長い生涯のうちに一度か二度、たまたま出会った異性のトロールと本能的に交わる程度であり、事後はすぐに離れ、それぞれ単独生活に戻る。バグベアやノールは家族単位で群れをなすが、トロールは家族という考え方を持たず、育児をすることもなければ、子を守ろうとすることもない。また、男女に外見上の違いはなく、関係する時にのみ、男性器が外部に露出する。
トロールの妊娠期間は3年ほどと長い。そのため生まれた子供は、ゴブリンのように体が小さく頭が大きいことを除いては、成体のトロールとほぼ変わらない姿だ。興味深いことに、出産したトロールの母は直後に必ず気絶する。これは、母親が消耗しているというよりもむしろ、子の生存機会を担保する意味が大きい。母親が気を失っている間に、子は胎盤を少しでも早く平らげ、母親からなるべく遠くへ逃げなければならないのだ。もし母親が目覚めた時、近くにヨタヨタ歩く小さな生き物がいたら、彼女は何のためらいもなくそれを取り上げ、嬉しげに食ってしまうだろう。
人型の生物であるにも関わらず社会性を全く持たず、子育てにさえ不向きな種族であるが、この乱世にあってその数は減じるどころか、むしろ増える傾向にある。というのもトロールは長命であり、短くとも百年、長いものでは数百年にもわたって生き続けるからだ。
かつてトロルと呼ばれた穴トロールがきわめて高い再生能力を持つことは触れた通りだが、この異常な新陳代謝によりトロールの老化は極端に遅く、病にかかることも少ない。トロールは、再生能力が衰える老境の終末期になって初めて衰弱を見せるのだ。
トロールは放浪を繰り返す種族であるが、それは彼らが移動を好むせいではない。食事を求めてうろつくうちに、自分の寝ぐらがどこかわからなくなってしまうだけだ。しかしそれゆえにトロールの生息地は広がり続け、とうとう大陸の至るところにトロールの眷属が暮らすようになってしまった。
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その原因はどうであれ、トロールはあまねく大陸全土へと広がり、それぞれの生息区域に合わせた変化を遂げて現在に至る。驚くべきは他に類を見ない適応の速さで、世代を経ることなく、トロールは環境に適応した姿へと変じるのだ。トロールの環境適応力はまさに珍奇の極みであり、亜種は今もなお確実に殖え続けている。
ここからは、先ほど言及した穴トロール(トロル)に加え、その後大陸各地で確認されている亜種を可能な限り紹介するとしよう。
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