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💾 ハルクウーベン奇譚:レンデゴイル夜話(9) 日没

* 第9話 *
日没

通された広間は、都邑の統治者のものにしてはあまりにも質素だった。調度品はほとんどなく、古びた赤い絨毯の上に年代物のテーブルが置かれ、座り心地の悪そうな椅子が並ぶばかり。食事の内容も貧相で、塩漬の保存食を無理やり仕立てたものであったが、レンデゴイルの窮状を見るや、それも致し方あるまい。

給仕らが控えているせいか、話はなかなか本題に入らなかった。これだけ人がいれば、話せることは限られる。フロスガルもそこは心得ていたので、まずは腹ごしらえをすることに決めた。ハースフィンガーも人払いをする様子がない。アーレクは目の前のスープに手をつけぬまま、パンをひとかけ口に入れると、ワインに手を伸ばした。

窓の外では、楓色の残光が夕闇の藍に溶け、西の山稜に鮮やかな滲みを描いていた。卓上に置かれた燭台に灯が運ばれ、 皿を使用人たちが下げてゆく。広間から給仕らがいなくなったことを見届けると、しびれを切らしたとばかりに、フロスガルはハースフィンガーへ向けて坐り直した。薄いワインを手酌で杯に注ぐや、北方人はついに口火を切る。近衛長は相変わらず魔術師の後ろに控えているが、遠慮すべき相手でもあるまい。

「馳走になったな。もういいだろう。それで、今からどうすれば良いのだ。〈ヴァルゴイルの長〉よ」

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