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俺が紡ぐのは「勝利」だけ

マーダーミステリーとはなんぞや

 マーダーミステリーというゲームのジャンルがあります。
 簡単に言えば「探偵ごっこ」で、みんなでミステリーの登場人物になりきります。殺人事件に居合わせたプレイヤーたちが、自分たちの中の誰が犯人なのか侃侃諤諤の議論をする。証拠もいろいろ漁り、最終的には誰が1番怪しいかを投票で決めて警察に突き出す。その当たり外れで結末が変わる。
 基本的にdiscord等を使えばオンラインでも遊べるものなんですが、プレイヤーが直接卓を囲んで楽しむ形式もあります。もともと中国で流行っていたのが輸入されて、日本でもマーダーミステリーの公演を主催する店がぽつぽつ出てきました。3時間から5時間くらいで、店での公演に参加すると1人4000円くらい。
 冷静に高い。もっと大型資本が業界を束ねて価格競争の波で乱世を鎮めてくれ。

村に火をつけ点数を取れ

 で、そういう公演をやってる店は大抵が元々ボードゲームカフェだったりして、僕や身内は元々がボードゲーム党でした。正直僕としては今でも無限にテレストレーションとitoとJUST ONEで遊んでる方が楽なんですが、味変としては悪くないのでマーダーミステリーもちょいちょい摘んでます。ボードゲーム党がマーダーミステリーをやるとどうなるかというと、勝ちに行きます。
 タイトルにもよりますが、マーダーミステリーは割と勝敗がはっきり決まるゲームです。個々のプレイヤーに予め目標が決められていて、その達成の程度によって点数がつきます。「犯人を当てる」とか「犯人だとバレない」だけでなく、「高価な品物を集める」「生き別れの妹を探す」みたいな、色々な目標があります。基本的には目標を達成するように動けば自然と「そのキャラクターらしい行動」をするようになってます。そうじゃないのもあるけど駄作だから気にするな。
 だからマーダーミステリーの正解は「とにかく点数を取ること」で、殺人犯として吊るされる(マイナス5点)のを避けるためには、窃盗と脅迫についてバレる(マイナス2点)のもやむをえない、そういうシビアな判断が求められます。

紡績業としてのマーダーミステリー

 一方でマーダーミステリーには「点数なんて気にすんなよ!」という風潮もあります。キャラになりきること自体が至上目標であって、点数至上主義は日本の学校教育の弊害でしかない、みたいな。結果なんて気にするなよ、物語を楽しめよ……
 もちろん上に書いたとおり、各々が結果を追求することで物語が正しく成熟するのがマーダーミステリーの本来の在り方であるはずです。だから基本的に点数を取りに行かない奴は気が狂っています。いまこの場にいるお前は土曜日の午後に5000円も払って赤の他人と優雅に素人演劇を楽しむ若者じゃなくて、つい1時間前に射殺死体を見たばっかりで近くにその犯人がいてしかも自分の鞄の中には1000万円横領の証拠が入ってるおっさんなんだ。人生懸かってんだぞ、真剣にやれ。ロールプレイってのはそういうことだぞ。
 しかし残念ながら、どの店舗公演に参加しても、店員(GM=ゲームマスター、進行役)は言います。

「点数はあまり気にしないでくださいね」
「今日この場に集まった皆さんで紡ぐ物語を楽しみましょうね」

 紡ぐな紡ぐな。
 東南アジアの農村で藁葺き屋根の下で機織ってる少女じゃねえんだぞこっちはよ、ヒリつきてぇから高い金出して雑居ビルに集まってんだよ……
 とはいえ毎回毎回言われて、「紡ぐ」というワード自体が身内で鉄板ネタとして使い回されるうち、この注意事項告知が単なるエンジョイ勢礼賛=アンチ点数至上主義ではないことに気付きました。
 ひょっとしてこれは単に、犯人を引いた人に「しくじってもいいよ」と言っているだけなのか……?
 犯人、もしかしなくても、プレッシャーなのか……?

素人の追及、恐るるに足らず

 マーダーミステリーは殺人事件の犯人当てゲームなので、基本的にプレイヤーの中に犯人がいます。共犯は例外として、プレイヤーが7人いたら1人は犯人です。1人だけが犯人です。6人を敵に回して糾弾を逃れ、嘘をつき続けます。
 これ、我々がやりすぎてバグってるだけで、ひょっとすると普通は怖いのか……?
 マーダーミステリーのキャラクターは誰もが犯人でありえます。キャラクターを選択する時点でそれが犯人かどうかはわかりません。ゲーム開始、設定書を開くその瞬間まで自分が犯人かはわかりません。学級会が始まる時点で「給食費を盗んだのは俺かもしれない」とクラスの全員が思ってるわけですよ。スラムか?
 もちろん単なるゲームです。鬼ごっこの鬼と変わりません。しかし単に走ったりサイコロ振ったりすればいいのではなく、いい大人が集まってるところで自力で議論して偽りの潔白を証明しないといけない。
 えーウチ名探偵になりたくてきたのにー、なんでウチが犯人なのマジありえなーい、めっちゃ沢口靖子になりたかったのにー。
 つらいね。おうちでリッツパーティしてた方がよかったね。

 というのは仮定に仮定を重ねた、つまり妄想なんですけど、それでもマーダーミステリーへの参入障壁をなくすために言いますが、犯人はめちゃくちゃ簡単です。
 しかも犯人で勝つ方が楽しいです。だって犯人で勝つ=一人勝ちだし。
 僕は好みのキャラを選ぶと50%超の確率で犯人を引くのでめちゃくちゃ犯人をやりますが、9割は逃げ切ってます。
 正直どのくらいの確率で村(犯人以外。元々は人狼ゲームの用語)が犯人を的中させられるのかは作品によりけりですが、個人的には五分五分か少し犯人有利くらいが丁度いいバランスだと思ってます。その中でいうと僕のスコアはそこそこ良いはずで、身内でもプレイングには定評があるので、以下すこしだけ犯人How Toを書いていきたいと思います。前置きが長いな。

最終目標は「間違った奴を吊らせる」

 犯人は自分が吊られなければ大丈夫です。
 ということはつまり、他に投票先を用意する必要があります。犯人側の立ち回りはすべて「自分の潔白の可能性を上げる」と「他人を怪しくする」という目標に奉仕しなければなりません。

潔白アピール①:議論を主導する

 めちゃくちゃ頑張って犯人を探しましょう。その姿勢は理不尽なまでに白い印象を振り撒きます。犯人はまず場を支配してください。アリバイを詰めたり、目撃情報を出したりしつつ、周りからの発言を求めます。プレイヤーの中で最も多くの情報を握っているのは犯人なので、話を振るのも容易なはず。自分ばかりが喋るとうっかり余計なことまで漏らしかねないので、あくまで良き司会者であることを心がけます。
 主導権を握れなかったら? それはそれで大丈夫です。なにせ喋りすぎる奴はヘイトを買う。誰かの立ち回りに強引さが見えたら無理に付き合わずに2番手でレースを進め、上手くそいつに投票を誘導しましょう。

潔白アピール②:貪欲に証拠を狙え

 致命的な証拠を自分で押さえてしまえば逃げられる可能性は格段に上がります。「同じ場所だけを捜索すると怪しまれない?」と不安になるかもしれませんが、みんな見られたら不味いものの一つや二つは持っていますし、誰がどこを引くかなんて周りは気にしていません。とりあえず狙いましょう。
 引けなかった場合に備えて証拠に関する適当な言い訳は考えておいた方がいいんですが、「後で話すわ」と言って流してそのまま忘れさせるのも強いです。焦って言い訳をすると怪しまれるので、何があっても平然としていましょう。

潔白アピール③:目的を偽装しろ

 マーダーミステリーは全てのプレイヤーに何かしらの目標があります。特に犯人以外であれば、正しく犯人に投票する以外にも、ゲーム中に達成すべき目標が与えられているはずです。逆に犯人は被害者を殺した時点で目標を達成しているので、あとは逃げ切ることだけが目的、ということも少なくありません。ということはつまり、目的の見えない奴は怪しまれます。犯人は適当な目標を盛りましょう。
 犯人が最も嘘をつきやすいポイントはここです。というかそれ以外の部分は嘘をつくより黙っていた方が基本的には楽。設定書や証拠と矛盾する情報は議論中に詰められる可能性がありますが、目的・目標は各々の心中に伏せられている場合が多いので偽装し放題です。金と色恋の話は信用されやすいので特にオススメ。

潔白アピール④:設定書を読むな、メモを取れ

 お行儀が悪いことこの上ありませんが、基本的に犯人は設定書が分厚いので、読み込みの時間に最後まで読んでる奴は怪しいです。もちろん文字を追うスピードは人それぞれなんですが、さっさと読み終わって暇そうにパラパラめくってるくらいの方が疑われにくいです。この辺はババ抜きみたいなもの。ゲームなんだからさ、そういう細かいところもさ、あるよね。
 より致命的なのはメモの量。本来犯人はメモを取らなくても困らない(アリバイ等を整理するまでもなく自分が犯人と知っているから)。だからメモ取ってない奴がいたら無条件で吊るのが正着です、マジで。疑われないようにするのと、適切な吊り誘導先を探すためにも、犯人でもある程度はメモを取りましょうね。

黒塗り①:塗りすぎない

 適切なマーダーミステリーにおいては犯人以外には潔白を示す情報・証拠があります。つまり詰めすぎると却って白くなります。2、3人生贄候補を用意して「怪しくない?」くらいの位置に押しやっておいて、場の状況を見ながら候補を絞り、残り時間を見ながら「限りなく黒に近いグレー」まで持っていければ勝ちです。相手に反駁する時間が残されない、それこそ残り1分や30秒くらいで議論を纏めてしまいましょう。

黒塗り②:時を食らう

 犯人は無駄な議論をさせてナンボです。常に残り時間を気にしながら、時間が少なくなったら焦りすらも見せながら、適切なタイムイートを心がけましょう。時間を自由に使わせる分だけ正しく自分が追及され、生贄候補は反論の術を見つけてしまいます。時間を食らえ、ただしヘイトは買うな。
 犯人は最も多くの情報を握っていますので、絶対にクリティカルになりえない部分で時間を使いましょう。誤った時間のアリバイを洗ったり……叩かれたら嫌な部分は誰にでもありますし、自分が知らない=犯行とは関係ない話なので、知らないことがあったらガンガン突っ込みましょう。時間はそれで減りますし、それで言葉を濁す奴がいれば吊り先にできるので一石二鳥。

まとめ

 以上の方法は多かれ少なかれ全体会議を前提にしているため、密談(少人数に分かれての会話)の多いゲームだとやりにくい部分が多いです。その場合も情報の集約は難しくなりますし、犯人が特別不利になるわけではありませんが、どうしても運の要素が強くなってきます。
 ここまで書いたことは外見上「村でもやること」なので、やられても絶対に疑えません。逆に疑うとヘイト向けられて危ないです。だから犯人は適切に振る舞えば基本的には勝てます。あとはキャラクターがどこまでアホか(致命的な証拠を残しているか)と、その証拠を潰されるか否かの運ゲーになります。数千円出してそれやるのって結構しょうもない気はするから最初から放棄して紡ぎはじめる向きもまあ理解はできる。なら人狼でもやってろよみたいな話でもあるし……
 でもまあゲームって各々が最低限のスキルを備えてからが本当のスタートみたいなところもあるじゃないですか。芸は身を助けるじゃないですけど、とりあえずマーダーミステリーをやるんだったら押さえておいて損はない事項だと思いますので、記憶の片隅に放り込んでいただければと思います。

 ちなみに議論ガン無視でなんとなく僕を吊るのは結構当たるのでやめてください。身内にやられて発狂しかけました。

ってかマーダーミステリーとかダルくね?

 読んでそう思った方! 正常です! そういう方はボードゲームで遊びましょう!
 一緒に「じゃれ本」と「詠み人知らず」で遊んでくれる方、お待ちしてます!
 

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