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【2023】年間ベスト旧譜〜海外ヒップホップ編〜

はじめに

2023年に聴いた音楽をまとめようと思い立って書いてる。真面目に新譜を追っている人間ではないので、まとめて旧譜の話からすることに。新年を迎えるたびに新譜を追うモチベーションに燃えるんだけども、いかんせんDigの技術がなく、3月くらいに疲れて飽きる。基本的に三日坊主なので、いつかこのアカウントも放置するでしょう。そう思ってダラダラ書き溜めていたら年が明け2月になった。でも気にしない。

そして新譜に疲れた3月くらいから何をするかというと、以前から気になってたジャンルを一気に掘り下げ始める。一昨年はメタルだったけども、去年はヒップホップ。もともと国内外のヒップホップをそこそこ聴いているつもりではいたものの、大手メディアのオールジャンルベストに載るくらいの、ある程度有名な作品にしか触れてこなかったので、そろそろ本格的にヒップホップ固有の良さを掴みたいなと思い立って旅に出た感じです。Rolling Stoneの『The 200 Greatest Hip-Hop Albums of All Time』を一周したりとか、Netflixでドキュメンタリー番組の『ヒップホップ・エボリューション』を見返したりとか。

なので年間ベスト旧譜の記事なんですが、ヒップホップの分量が多くなるので独立させてます。ヒップホップの中でさらに国内と国外も分けてます。なのでいずれ第二弾・第三弾が出ます。気長に待っててください。力尽きて出ないかもしれないけど。

基本的には去年出会った旧譜を紹介してくつもりだけども、これまで聴いたことがあるアルバムでも、去年になって良さがわかってきたとか、新しい発見があったりとか、そうした作品もどんどん放り込んでいます。というか文字通り去年初めて聴いたアルバムの方が少ないので、記事の趣旨がすでに崩れかけている。とりあえずどれ聴いてもいいアルバムなんで、どれでも聴いてってください。


Juvenile - 400 Degreez

Juvenile - 400 Degreez

ジャズ発祥の地であるルイジアナ州ニューオリンズは音楽の街であり、南部ヒップホップのメッカとしても知られる。そのニューオリンズ出身のMaster P率いるNo Limit Recordsと並んで知られる、もう一つの一大レーベルがCash Money Recordsである。そしてJuvenile『400 Digreez』は、そのCash Money の拡大期を象徴するアルバム。JuvenileはレーベルのプロデュースのグループHot Boysとして、B.G.、Turk、Lil Wayneとともに大ヒットを飛ばす。そしてメンバーへの注目が集まる中でリリースされた『400 Digreez』は、大絶賛とともに迎えられ、現在に至るまで存在感を増し続けている。ニューオリンズで流行した、Juvenileのルーツでもあるバウンスのビートを取り入れたMannie Fresh製のトラックは現代に通じるトラップのサウンドの先鞭をつけているし、「Ha」で披露した語尾に”Ha”をつけるフロウはMigosなどマンブル・ラップで多用されるエイ・フロウに通じることも指摘され、多くの面で現行のシーンのスタイルの源流になっていると言って良いだろう。ダンサブルで猥雑な楽曲の数々は多くの後続が生まれた現在でも魅力的だし、Kendrick LamarやDrakeなど近年の大物に参照されるのも納得。特に弦楽調のウワモノをバウンスのリズムに乗せた「Back That Azz Up (feat. Mannie Fresh, Lil Wayne)」はバウンスのいやらしさとシリアスでクールなムードが噛み合って非常にかっこいい大名曲。

Juvenileは去年NPRの人気企画Tiny Desk Concertに出演(Mannie Freshの姿も)し、生演奏にアレンジした名曲の数々を披露、ラストの「Back That Azz Up (feat. Mannie Fresh, Lil Wayne)」は気持ち良く2回演奏しちゃう。ジャズの街ニューオリンズのノリの良さが、一見ジャズとは無関係に見える彼にも染み付いてるところが垣間見える、とてもハッピーな映像になっている。


Three 6 Mafia - Mystic Stylez

Three 6 Mafia - Mystic Stylez

テネシー州メンフィス出身のグループのファーストアルバム。南部ヒップホップが徐々に存在感を増す中で、Three 6 Mafiaはホラー映画に影響を受けた不穏なトラックに、インモラルな歌詞を乗せた独特なスタイルで波紋を呼ぶ。特に本作は電子音と重低音のベースを特徴とするヒップホップのサブジャンル、クランクの黎明期の重要作としても知られ、Playboi CartiやLil Uzi Vertらが席巻する現在のヒップホップを思えば、いかにこのアルバムが時代を先取りしていたか実感できる。中心メンバーのJuicy Jは、現在でも若手の作品(去年だとSexxy Redなど)にも頻繁に参加しており、自らの系譜に連なる最先端にもしっかりキャッチアップしているのはベテランとしてかっこいい姿勢。

本題。本作の魅力は、ともすればチープに聞こえるようなシンセのサウンドと妖しいサンプリングに無機質に細かくビートを刻む808、さらにそこにくぐもったラップが乗る。全体としてガサついた音像で、アメリカ郊外の地下で行われるカルトな儀式をのぞいてしまったような感覚に病みつきになる。「Break da Law "95"」はそんなThree 6 Mafiaの魅力を煮詰めたような楽曲。また「Tear da Club Up」は"Tear da Club Up"のチャントが耳に残る、後に多くの楽曲で参照されることになる名曲。そしてラストの「 Mystic Stylez」はシンセのワンループをとことん反復するトラックで、DAW以降のプロデューサーの作風を(その音質を除けば)想起させる、早すぎた名曲と言っても良いかもしれない。


Future - DS2

Future - DS2

トラップがローカルなスタイルの一つから全米的なスタンダードに拡大した10年代以降、大量のラッパーが誰も追い切れないほど大量の作品を発表してきたけども、このアルバムはそんな氾濫の時代の中にあっても際立って聞こえる。本作の大半をプロデュースしたMetro Boominの徹底してダウナーなビートに、マンブル・ラップの代表人物であるFutureの不安定で俯きがちな声が絶妙に絡む。同じ10年代でもWaka Flocka Flameの『Flockaveli』が強気で暴力的な陽性のトラップだったのに対し、こっちは内向的で傷つきやすい、ドラッグで病みきった世界観を展開する。「病み」はNasの"ill"の例もあるようにヒップホップではお馴染みの主題だし、本作のタイトルにもなっているDirty Spriteは咳止めシロップ系の薬物を指し、これも同じく咳止めシロップの流行と密接な関係にあったDJ Screwのサイケデリックな世界観を想起する。その点では極めてヒップホップらしいテーマを扱った王道といってもよい作品なのだけれども、やはりフロウと発声の妙味とトラックの個性が際立つ本作は、ヒップホップという音楽の裾野の広さを思わせる。まずは一曲目「Thought It Was a Drought」の、思わず拍子抜けしてしまうような(だからこそ面白い)Future節全開の歌い出しを聞いてほしい。ちなみに「F*ck Up Some Comas」がかっこいいのでDelux版推奨。


Mobb Deep - The Infamous

Mobb Deep - The Infamous

NY、クイーンズのデュオMobb Deepのセカンドアルバム。同じくクイーンズ出身のNasやブルックリンのThe Notorious B.I.G.がヒットを飛ばした翌年の1995年にリリースされ、当時のNYのハードコアなヒップホップシーンの充実ぶりを印象づける。前作の『Juvenile Hell』はNasの『Illmatic』も手がけたDJ PremierやLarge Professorなど充実したプロデューサー陣によるバックアップを得られたが、本人たちにとっては納得のいく出来ではなかった。そこでメンバーのHavocは自らサンプラーを手にし、自分達のためにビートを作ることに。本作のビートの大半はHavocの制作によるものであるが、ビートメーキングを初めて数年ほどしか経ってないとは思えないほど独創的なネタ使いが際立つ。特にこのアルバムのハイライトである「Shock Ones Pt. II」の印象的なピアノのループは、Herbie Hancockのごく短いフレーズから全く新たに組み直されたものである。ちなみにこの元ネタをファンが特定するまで16年かかっている。

こうしたHavocの斬新なアイデアが光るトラックをさらに洗練させたのが、プロデューサーとして参加したA Tribe Called QuestのQ-Tipで、特にミキシングやドラムの打ち込みで彼が大きく関与したことで、本作のタイトなビートと漂う不穏なムードが実現したと言ってよいだろう。HavocとProdigyの抑えた声のラップもこれらのサウンドとマッチして、当時のニューヨークの暗黒面を堪能できる。聴けば聴くほど好きになっていくアルバム。この次の『Hell on Earth』はさらに暗いのでこっちもおすすめ。


Run D.M.C. - Raising Hell

Run D.M.C. - Raising Hell

ロックファンにはAerosmithの"Walk This Way"のカバーで、落ち目のAerosmithを救ったことで知られるグループだが、実際のところRun D.M.C.の"Walk This Way"は原曲のヴァースをそのまま歌っているだけで、これが現在果たしてヒップホップとしてかっこいいと受け取られるかというと微妙に思われる。

……というふうに感じていた時期が長かったのだが、色々聴いているうちに考え方が変わったというか、まだこの頃にはラッパーのキャラクターとそのリリックの内容が強く結びついているという観念は薄く、歌唱のスタイルの一つとして受容されていた側面が強いのではと思い始めた。それでいうとRun D.M.C.の2MCは、一つのフレーズを二人で交互にシャウトしながら歌ったりと、個人のスキルやアティテュードではなくコンビネーションを魅せることに重心がある。ダンスミュージックとしてのヒップホップ、そしてその盛り上げ役としてのMCという役割に特化した結果としてのこのスタイルがあるとすれば、その練度と文句なしの楽しさに興奮する。

2023年の夏にNYのヤンキー・スタジアムで開催された、HIP HOPの生誕50周年を記念するイベント『HIP HOP 50 LIVE』のトリを務めたのがRun D.M.C.だった。各年代・地域を代表した他の出演者のステージを見ても、Run D.M.C.のスタイルがほとんど受け継がれなかったことが明らかになるようで、NasやLil Wayneの圧倒的なパフォーマンスと比べると場違いになるのではないかと不安に感じてしまった。しかしステージに上がった彼らは昭和の大漫才師のような堂に入ったパフォーマンスで、HIP HOPの歴史を総括するイベントの締めにふさわしい盛り上がりを見せていて、いたく感動してしまった。なのでRUN D.M.C.を一度まっさらな気持ちで聴いてほしい、とっても楽しい気分になるので。


Beastie Boys - Licensed to Ill

Beastie Boys - Licensed to Ill

NYの白人3人組HIP HOPグループのファーストアルバム。ハードコアパンクをやっていたAd-Rock、Mike D、MCAがヒップホップに転向。パンクスらしいはちゃめちゃなエネルギーがそのままラップの掛け合いになり、ハードロックの名曲を大胆にサンプリングしたRick Rubinのトラックは、音数が少なく骨組みが丸出しに聞こえるが、それが独特な緊張感をもたらしておりスリリングでかっこいい。

次回作の『Paul's Boutique』では、Beck『Odelay』でも知られるDust Brothersをプロデューサーに迎え、サンプリングという技法を限界まで遊び倒し、90年代にはロックに回帰したり自らレーベルを立ち上げたりしている。このアルバム以降ジャンルを横断して八面六臂の活躍を見せる彼らだが、その本質は最も無骨なこのファーストに詰まっていると感じる。一曲目の「Rymin' & Stealin'」はロックファンからすれば思わず笑っちゃうほどの反則技。しかし文字通り”Rymin'” と "Stealin'" こそがBeastieの、ひいてはヒップホップの魅力だと納得してしまう。


Boogie Down Productions - Criminal Minded

Boogie Down Productions - Criminal Minded

MCのKRS-ONEとDJのScott La Rockによるデュオのファースト。当時NYを席巻していたMarley Marl擁するクイーンズのJuice Crewを、ブロンクス出身の彼らは大胆に挑発する、その容赦ない過激な歌詞も人気の要因の一つ。同世代のPublic EnemyやN.W.A.なんかと比べると音数が少なく、当初は物足りなく感じることもあったが、Beastie Boysについても述べたように、その隙間の多さが生み出す緊張感に80年代ヒップホップの魅力があると思うようになった。それでいうと"Word From Our Sponsor"なんかは、DJが一個ミスれば曲が全部崩壊しかねないし、その荒削りなところにハードコアなカッコよさがある。噛めば噛むほど味がするアルバム。


KRS-ONE - Return of the Boom Bap

KRS-ONE - Return of the Boom Bap

Boogie Down ProductionsのKRS-ONEのソロ。BDPの『Criminal Minded』のリリース後、相方のScott La Rockが銃撃で命を落とすという悲劇に見舞われる。その後KRS-ONEはそれまでの戦闘的なスタイルを改め、非暴力を訴える草の根的な活動に取り組む、その中でリリースされたBDPとしてのセカンド『By All Means Nessecary』はマルコムXをオマージュしたジャケットの写真に、フランツ・ファノンから引用したタイトルなど、公民権運動時代の意匠を大きく取り込んだものとなる(そもそもヒップホップ自体が公民権運動の残した影響を多分に受けているものであるが)。

そして1993年にリリースされたソロ名義でのこのデビューアルバは、"Teacher"としてのKRS-ONEの活動を代表する傑作に仕上がっている。お馴染みDJ Premiorら当時のNYシーンを牽引するプロデューサー陣によるトラックは、90年代初頭のNYらしいジャジーなサウンドを基調としつつ、強靭なベースとドラムが主役になっており、KRS- ONEの野太くパワフルなラップを最小限の味付けで引き立てている。そのKRS-ONEのラップは様々な固有名詞を出しながら、HIP HOPの世界での体験を語るもので、特に「Outta Here」は同世代のグループと切磋琢磨しながら一時代を築いた日々、そしてその衰退を語る圧巻の一曲。そこでのDJ Premiorのトラックもほぼベースとドラムのみのところに、声ネタのスクラッチを乗せたストイックに音を削ったもので非常にクール。またD.I.T.C.のShowbizプロデュースの「Sound if da Police」は、警察"officer"を奴隷を監視した"overseer"に例えた痛烈な警察批判。同曲のフックの印象的なフレーズは、昨年リリースされた同じく警察批判のNORIKIYO「オレナラココfeat. STICKY」でもオマージュされている。


Gang Starr - Moment of Truth

Gang Starr - Moment of Truth

90年代のNYを駆け抜けた、GuruとDJ Premierによるデュオ Gang Starr。Guruの低温でありながら確かなスキルと知性を滲ませるラップと、HIP HOP史上最高のプロデューサーと言っても過言ではない天才DJ Premierの確かなコンビネーションを感じさせる。彼らが名をあげた90年代初頭から、東西抗争の過熱と終結、そして南部勢の台頭を経ての作品でありながら、彼らのスタイルが目まぐるしいトレンドの変化にも全く動じない説得力があることに驚く。DJ Premierのトラックは初期と比べて明るい印象のものが増え、また彼の最大の発明であるチョップ&フリップも多用。Guruも私生活での困難を経た後でありながら堂々たるラップを披露している。3曲目「Work」は"Victory is mine, yeah surprisingly"と高らかに歌う本作のハイライト。また「Above the Clouds」ではWu-Tang ClanのInspectah Deckの名演も聞けるので嬉しい。


Mos Def - Black on Both Sides

Mos Def - Black on Both Sides

JAY-Z率いるRoc-A-Fellaが全米的なヒットを飛ばし、ビギーが非業の死を遂げた90年代末、NYのアンダーグラウンドではセントラルパークでのサイファーが隆盛するなど、非商業主義的な新しいHIP HOPシーンで多くの才能が腕を磨いていた。その中で高い人気を誇ったのがMos Def(のちに本名のYasiin Bayとして活動)である。Mos Defは1998年に同じくNYで人気を誇ったTalib Kweliとのデュオ、Blackstarとしてデビューし高い評価を受け、その一年後にリリースされた ソロデビューアルバムがこの『Black on Bith Sides』である。

メジャーなギャングスタスタイルとは異質な、巧みに知性を感じさせるスキルフルなラップに加え、ジャズやソウルをサンプリングしたNYらしいファンキーなトラックは、アンダーグラウンドなスタイルを、(突然ロックになったりビギーの"Who Shot ya?"のトラックを挟んだりと)遊び心を見せつつキャッチーに聴かせる。Aretha Franklinネタの人気曲「Ms. Fat Booty」や、お馴染みDJ Premier作の「Mathematics」、Talib Kweliも参加の「Know That feat. Talib Kweli」など素晴らしい楽曲が多数。


Ghostface Killa - Fishscale

Ghostface Killa - Fishscale

2000年代に入って、Ghostface KillaはWu-Tang Clanのいちメンバーとして以上にソロアーティストとして大きな成功を掴んだ。それはまず2000年リリースの傑作『Supreme Clientale』で、ウータンの頭脳でありグループの作品の数々で辣腕を振るったトラックメーカーのRZAの影が薄まり、圧倒的なスキルとともに彼のソウル愛を表現したことに始まる。この『Fishscale』ではさらにGhostface KillaがWu-Tang Clanというグループの重力圏を突破し、MF DOOM、J Dillaといった非主流派のカリスマから、2000年代以降数々のヒット作に携わったJust Blaze、さらにはPete Rockといったレジェンドまで、とにかくかっこいい曲を作ってくれる人たちが集結。さらに売れっ子Ne-Yoがボーカルをとる必殺のR&B曲「Back Like That」も収録しており、2000年代の大作ヒップホップアルバムならではのワクワク感でいっぱい。それでもやっぱり一番興奮するのはMF DOOMのトラックの上にウータンのメンバーが集結した「9 Milli Bros」かもしれない。マジでWu-Tang Forever。


Dr. Dre - The Chronic

Dr. Dre - The Chronic

80年代末にコンプトンからアメリカ中を席巻したグループ、N.W.A.のメンバー、Dr. Dreのソロデビューアルバム。グループが決裂した後、N.W.A.でサウンドの中核を担ったDr. Dreは本作で、70年代のP-Funkにオマージュを捧げつつ、サンプリングや打ち込みだけでなく生演奏を取り入れたサウンドで、西海岸のギャングのライフスタイルを表現する”G-Funk”を確立する。まだ無名だったSnoop Doggら西海岸の若手を多くの曲で起用し、80年代末のいわゆる”ゴールデンエイジ”を抜けてHIP HOPが新たな段階に入ったことを告げる。高音の細いシンセのメロディが不穏な空気を醸し、ファンキーなリズムとメロディアスなパートでパーティミュージックとしての享楽を表現する。現在に至るまで続く、不良の興行としてのヒップホップを堪能できる。

TSUTAYAでCDを借りていた高校時代から長いこと聴いてはいたものの、サンプリングの技術を極めた同時期の東海岸、特にNasやA Tribe Called Questらを贔屓していた自分には、今まであまりピンと来ていなかった。そのときは断片化された録音物が再構成されることで生じる整合と不整合、その反復にヒップホップの魅力を感じていた部分が強かったのだと思う。しかし、宇多田ヒカルがインタビューで11〜12歳の頃にG-Funkを聴いていたと語っていたのを読んでから、本作を聴き返すとハードコアなスタイルから出発しながらも、Dr. Dreはあくまでもポップな曲を作ろうとしていたことが、なんとなく理解できたような気がした。そうした補助線を引くと、70年代のポピュラーミュジックであったソウルやファンクと連続したものとして、G-Funkを自然と受信することができたんだと思う。

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