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あの日見た彼女の感情の名前を僕はまだ知らない

青春というキャンバスに泥を塗りたくるような大学4年間だったが、彼女との思い出だけが輝いている。

入学して間もなく原付で事故を起こし1か月入院。
勉強も友達作りも何もかも出遅れて取り返す努力もせず、ゲーセンで格ゲーに明け暮れていた200X年、彼女に出会った。

入院した際に中途半端に体育の1単位を落としてしまい、何かを再履修しなくてはならなくなった。誰かとコンビを作らねばいけない可能性の高い球技は避けたくて、「トランポリン」を選んだ。

トランポリンて何するの?と思うかもしれないが、まぁ高く飛んで、空中で膝を抱えたり、回ったり、お尻で着地したりうつ伏せで着地したりを、一連の流れで行えるように練習するのである。

球技でないとはいえ周りは友達と履修している後輩ばかり。1人の自分はポツネンとしていたのだがそんな中、彼女も1人で居た。

名前は仮にA子ちゃんとしよう。
A子ちゃんは小柄でショートヘアの女の子で、
チアリーディング部に属していた。
そして「チアでバク宙が出来るようになりたい!」という志を持って、トランポリンの授業に参加していた。

一人者同士(と言っても向こうには志があり、こちらには単位への後ろ向きな意図しかないのだが)
ちょくちょく話すようになったのだが、
ある日から先生に頼まれて「A子ちゃんのバク宙を補助する」というタスクが加わった。

トランポリンの上で先生がA子ちゃんの腰の右側方、小職が左側方のズボンの裾を持って、
A子ちゃんが飛ぶタイミングに合わせて持ち上げて回す、という作業である。
(1人で両側持つとバックドロップになってしまうので、2人で片手ずつ持ってA子ちゃんの背中の空間を空ける必要がある)


この作業、どうやっても裾持っているときパンツ見えちゃうし、回すときに裾を持っている手と反対の手で彼女に触れなくてはいけない。
これが当時チェリーを極めていた、チェリーガンダムアサルトバスターであった小職には大変刺激が強いものであった。

当の彼女は意外と気にしていないようで、
そんな日々が続く中普通に話しもしていた。

自分としてはぜひ彼女にバク宙が出来るようになってもらいたかった。
それが練習の日々の終わりである事も気づいてもいた。それでも彼女の力になりたかったのだ。

その一心で図書館でコツを調べた。
当時はYoutubeなど今ほど便利ではない時代、
書籍しか頼れるものはなかった。

「高く飛ぶ」
「まっすぐ膝を引き上げる」
「その勢いで回る」
等々、彼女が飛ぶ姿、そしてどういう補助が出来るか、力の使い方を詳細にイメージした。


そして履修期間も終わりに近づいたある日、
ついに!補助なしでバク宙が出来るようになったのである・・・・。



俺が!!!!!



いや、自分でもビックリしたんだが、
「どう力を加えて補助すればいいか」をイメージするために、自分で飛んで練習してたら、補助なしで突然出来るようになった。

トランポリンから体に伝わる力を回転に使う感覚を体に覚え込ませる為、何回もグルグルやっていた時にA子ちゃんの顔が目に入った。


喜怒哀楽、どれでもない顔をしていた。


その後のことはあまり良く覚えていない。
何か出来る側からのアドバイスした記憶がないので、ぼちぼち気まずくなったのだと思う。



気圧の変化で事故の古傷が痛むと思いだす。
小職唯一の大学時代の青春っぽさがある思い出である。

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