2023年記

行動できなかったため、果たして、2024年は来てしまった。

↑前回が3月までだったので、2023/04-12期間で書く。

しかし、XになりTwilogが維持されなくなってしまい振り返り記事が書きづらくなったね……



自分ごと

EP 『flat ramp to my end point』

 精神状態の悪化を素直に吐いただけの、4曲6分のEP。もっとちゃんとした作品集を出したいが、今の自分ではだめだった。夢で聴いた曲を採譜しただけのM1、眠るのが怖くてベッドの中で数十分で作ったM3、他の曲のプロジェクトファイルを整理してる途中状態をそのまま書き出したM4。

 M2だけはちゃんとイチから書いたが、精神的前編である『Brightliving』(2017) が「明るい生、その着地を志すこと」について考えていたのに、今回のEPのタイトルは「死まで何にも引っかからず転がっていき、何も起きずにただ終わる」なので、6年で本当に悲観しているなと他人事のように思った。


Single 『Dequench Cicalas』

 ランダムの痙攣。飲み会帰りで「酒に酔ったまま曲を作り始めて、終える」縛りで作ったのでどこもかしこも大味だ。


KAIRUI, Yoshino Yoshikawa feat. 茶太 - 創造とプラネタリウム (Hercelot Remix)

 翻って、相当真面目にアレンジしたRemix。
 00年代美少女ゲー音楽の綺麗な"エンディング側"の印象を勝手にいだいていた茶太さんのボーカルを扱うにあたり、エロゲ音楽を集めていた高校生当時を思い出しながらオープニング側のノリにひっくり返してみたい気持ちがあった。
 ボーカル2stepを、現行最新美少女ものの迫力や情報量ではなく平成の抜き加減でやろうとするとどうしてもR&B文脈がついてきてしまう。数少ない脱臭成功例であるセラニの『胸にアイタ穴』をかなりあからさまにオマージュしながら、00sの色付けにKORG TRITONのBell類を駆使する……みたいな抜け道を探していたがうまくいっただろうか。社会性とのバランスに悩んだけど、もっとこってり行ってもよかったな。


ゲームさんぽ OP/ED

 ライブドアニュースのチャンネルで公開されていた、いいだ氏らの運営する『ゲームさんぽ』が、株式会社よそ見 として独立するにあたり、BGMを提供。ライブドア期から曲を起用してもらっており、うれしい限り…… いいだ氏にお会いして、氏の持つ心からの多角的興味や教養深さが、動画やチャンネルのテイストにそのままあらわれているのだな、と思った。切り口自体の意外さと、その切り込みの深さ。(そして自分の底の浅さにも改めてぎょっとしたよね。)


Flags Christmas 2023 BGM

 2023年始〜年末より現地で放映されてた新宿Flagsの映像に引き続き、filmoutさんとクリスマス期の映像を作った。寒色の中の華やかさやfill的な手札、五反田さんはやっぱりすごすぎる。おれはかなり普段通りの曲を作れてよかった。


Wakeup Fakepop (Lob) (2013)

 [MARU-124] Wakeup Fakepopリリース10年で、アルバム1曲目のExtended Versionをリマスター公開した。当時、ライブするときに最初によくかけていた気がする。
 本当は5分尺の曲のつもりで設計図を浮かべていたが、締め切りまでに1分半しか作れなくて気にいらないから最初の15秒だけ収録したんだよな。その1分半の状態のもの。内容はなんか、元気ですね……

 アルバムの速い曲は未だにちょいちょい聴かれてる (アメリカのマニアックなキッズだと思ってる) ようで、確かにこういうの今更作るの法律のムードとしてむずいので、替えの効きにくいもの作っといてよかったな。今はどうしても鳴りの純度高くなっちゃうから……"曲"の体裁じゃなきゃ色々ありそうだけどね。わずかなモノ好きたちにコソコソ聴かれるのが本望。


出演

07/09 一気呵成 @新宿SPACE
07/22 自然の中で起きている美しい現象すべてβ+ @渋谷WWWβ
10/07 暴力的にカワイイ 2023 (w/ Tomggg, アンテナガール) @お台場青海R区画

たった3本。どれも大切な思い出になった3本。


コンテンツ

 平温系のハウスとUKGばかり聴いていた気がする。

2023ベスト歌: iogi 『we can be friends』

  あまりソフトロックとか聴かないから『The Ceiling』の時はよくわかっていなくて、RAW Tapesのコンピでやっと気づけた。その時もどちらかというとバンドアンサンブルとして聴いていて……
 で、今作はゲストボーカル無し、歌はエフェクトによってごまかされず最前面に。そして本人の顔ジャケという等身大ぶり。表題曲M2と続くM3のアレンジは静物配置的で、演奏よりも曲としての強固な塊を感じ、それでいて内容は「友達になれるよ」という奥手さが柔らかい素朴な声色で届けられる。M5のカシオトーン暴れやM10のボコーダーなど、宅録的な手近な手法も飛び交って、コンパクトな空間だけど共鳴性の高い、コモンな作品。


2023ベストビートテープ: 4d. 『Limerence』

 4d.は聴いてわかるとおりオールドスクール・ローファイ (つまり暑苦しいほうの) ビートメイカーで、鳴りを軸足に色んなテンポ感のビートが飛び出してきていたが、今作はかなりシンプルに、ループ一撃のダウンテンポ・エキゾで揃えられている。
 とくにM14が「よく抜いてきてくれた」と思う傑作、涙無しで聴けないのでぜひ聴いてほしい。今作はサブスクに来なかったのでBCで買ってBCアプリで聴くのが吉。


2023ベスト男声モノ: Pat Lok 『Love FM』

 Gospel/Doowopなコーラスグループが好きだ。
 ハモりが好きなので、The Temptationsとか聴いてもリードボーカルだけが歌ってる間ヒマだなあと思っている。Take 6はハモってる時間長くていい。The Manhattan TransferやThe Swingle Singersもかなりいいけど、重心のありかたとして男声だけのほうが好みだ。SMAPのサビとかでもいい。お薦めあったら教えてください。

 そういう下地があって、思いっきりそういうネタを使ったアッパーなハウスをPat Lokが作ってくれてうれしかった。前もそういうの出してたけど今回のほうが異形で面白い。Remixesもネタ純度は下がりつつ内容よかったね。

 4つ打ちが鳴っていて、おじさんの声がして、複雑めな和声が鳴る。いいことずくめだ。ダンスミュージックの最中におじさんの声をもっと聴き続けたい。シャウトとかラップとか歌い上げとかいいからただそこに居続けてほしい。そういう曲も色々集めているのでお薦めあったら教えてください。

(追記: Love FMのサンプル元もTake 6だった。スパイク・リーのDo The Right Thingのサントラだ)


2023ベスト変名: Doktor Yok! 『YVN Garage』

 Blur Recordsでのみ、1のEPと1のsplit、4のRemixと1のコンピ提供を行う謎の輩 Doktor Yok!がScruscruの変名なんじゃないかと疑ってんだおれは。全然違ったら本当にごめん。
 そう感じる理由は「Blurにしか居ないのは妙」「BlurにもScruscruは出入りしてる」「あんまり作風が安定してない (何でもできる)」「Scruscruもマルチ」「Doktor Yok! & Mister Mosquitoとして出してるEPが音もジャケもどう見てもMeowsn'。後者がそうだろう。M7に”Clowsn'〜”って表記あるし」「そのEPに"Who's Yok!"って曲があるから誰かの変名ではあるだろう」「Whateverとかもありえるけど、別名義のほうが多作ってことなさそう」など。まあ「本名義ですでにマルチなのにわざわざ名義分ける」理由がわからないですが……

 それはさておき音はかっこいい。フルートのイージーリスニングなネタのチョップも、2stepにおけるブレイクビーツの使用量も、あんまり抑制が効いてなくてサービスされてるのがうれしいね。Wagon Christに感じるうれしさと同種。ソロEPのM1, M2も同じ意味でうれしい。


2023ベスト中速アーメンの登場: Ollie Rant 『Tonys Box』

 Ollie RantはGLBDOMで知ったんだったかな。Shall Not FadeHARDLINEからも出してるし (DuffyのRemixしたりね)、その筋では知名度あるんでしょうけどおれは2023年に知り、デジタルで買える曲はほぼ全部買った。
 UKG的なものをもっと知るべきだと思い……そういう季節が巡ってきたのもRIPdubbin'に遊びに行ったりSPRAYBOXの活躍を眺めていたおかげだ。おれのUK Breakbeatsの骨肉ってほんとにLuke Vibertしかないからね。微妙に王道ではないし。

 それでOllie Rantを追っかけた結果知った3 Feet Deep (最近のリリースでStones TaroさんのRemixも出ててうれしかった) のVA EPにあった『Tonys Box』が特筆してすごかった。飛ばしのネタを振り回し続けながら手札をつまびらかに公開してく順調さ、かなり意味ない感じのストリングス単音リフ、そしてトドメに待望の中速アーメン。ちゃんとスネアが歌うし……


2023ベストIDM好きの血が疼くUKG: Ease Up George

 で、そのUK Breakbeats, UKGの季節の中で、「体幹が強い感じの曲がやっぱ王道でカッコイイ!とくにパーティでは!華美な鎧よりも筋肉だ。的確な香辛料を添えて。」の再確認とともに、やっぱIDMやBraindance、Clickの匂いが漂ってくるとつられてしまう。細い柱の構造物見て耐震性がちょっと心配になるような、中空の浮遊感、アンバランスへのあこがれが常にある。

 そういうのがよく掘れたのがoutlet。Dubstepやベースの効いたBreakbeatsと、テイストは一本気ながら周辺ジャンルも諸々出ているようなレーベルで、主要メンバーの一人であるEase Up Georgeを追ってた。よそのレコード屋の紹介文に「骨格ダークガラージ」ってあって良かったな。
 線が細いからベッドルーム専用、ってわけでもなく、色々なスタイルができる中であえてとにかくスタブを短くしてみたり、キックを増やしまくったりしながらフロアとも繋がっている。選択のセンスがかっこいい。

 下記のツリーもごらんください。


2023ベストMeowsn': Hubba Bubba Baby (Donnie Moustaki Remix)

 Meowsn'が何かリリースするたびにベストのひとつにしてしまうので、毎年固定枠にしよう。
 EP『No Alibi』(よかった) に収録のDonnie Moustaki Remixが極上。わりと気まぐれでどんどんネタを変えていくMeowsn'に対し、このRemixはひとネタ長く引っ張ってくれるのと、ベースの置き方ひとつで泣けるほどグルーヴしててすごい。
 つーかDonnie MoustakiはRemix職人すぎるんだよな……これのM3とか「JazzネタのHiphopを逆算で蘇生する」みたいな内容だったし……

 2023ベストMeowsn'の曲名、だったら『Toyota Land Loser』です。内容もいい。


2023ベストRemix: Freudenthaler 『Lorca (Ode To Flatmate) (Lowres Remix)』

 これも引き続きセルビアのTheresiopolisから。それぞれ元々好きなアーティストではあり、原曲のトライアングルの効いた状態もかっこいいのだが、Lowres Remixではフルートのグリスダウンにエコーがかけられて、ストリングスのコードも登場して、天国みたいなふわふわ感が出ている。すばらしいRemix。


2023ベストブレイクビーツハウス: Blazers 『Frontin'』

 露Lisztomaniaより。Scruniversalからもこないだ出してましたね。Deep House中心にElectroぽいのもRavyぽいのも、ダウンテンポまで手広くやってる。Posse Up!から速いのも出してたし、好きなこと全部やる系の人だね。

 Breakbeats, スクラッチサンプル、エコーするサックスワンショットとoldschool hiphopな骨子でやる4つ打ちで、平行移動コードと保続ストリングスから後半はまともにエレピ展開する……美味しい"あるある"をふんだんに使いつつ、何と言ってもベースラインとコードがあんまり合ってないのが絶対的に良すぎる。フルートの細かいリフが乗ってきて盛り上がってきてもしっくりこないまま進むので、めちゃめちゃ酩酊感がある。

 こういうのってMIDIや楽譜で意図的に作曲するの超むずそうで (理論化できるならしたい。趣味さえ合えば能力的にはできる人はいるんだろな〜) サンプルベース音楽の魅力極まれり、と思う。
 Tree Threes 『Head In Knots』も同じ意味で超良かった。音程感のあるものを複数重ねてこういう状況に留まれるのはまじで格好いい。


2023ベストプラグイン: 該当なし

 なんも買わなかった。いや、NewfangledのSaturateとか (使いやす〜い)、MBPをM2 Pro / Venturaに乗り換えたために発生した各種UPGとか、買いはした。しかし。


2023ベストサンプリングCD: Ueberschall Easy Listening (1999)

 伝手をたどりなんとか入手、capsuleのラウンジ期楽曲で聴いたことあるサンプルが多数あり、聴いているだけで落ち着く。
 同じことをZero-G DATAFILEを入手した時にも思ったが、まあどう聴いてもJBやんけとか平気であり、どのくらいseriousな態度を取るかは悩ましい。商業で「Zero-Gだけはやめてくれ」とか言われたことあるし。

 ちなみに毛嫌いしていたSplice、職業柄食わず嫌いもいかんと入り、まあまあ使ってみている。クレジットがクソ余り続けるのはみんなと同じだと思うけど。寝る前とかにスマホアプリで深いところをdigしてlikeしておき翌日以降に役立てる、という作戦はいいかも。これは誰も見つけてねえだろ、という脈に当たったときうれしい。


2023買い物トップ3: カーテンの裏地みたいなコート、初のアセテート眼鏡、オレンジの香水

① ネットに載っていないんだけど、Jan MachenhauerのStockholmというコートのInside Outというつくりのものを冬の終わりに買って、夏以外ずっと着ていた。ドレープデニムでまあ薄めだから冬が本格化したら着られないんだけど、暖冬のお陰でまだ全然いける。
 立体縫製シルエットに自信のブランドらしいが、とくに身を屈めたり座ろうとした時の腰まわりの形が良すぎる。あとInside Outということで表裏が逆、縫い耳が表に出ていたり、胸ポケットが内ポケット化し外からは存在感だけわかる。丁度よい控えめなひねくれ方。

② 20年以上ずっとメタルフレームの眼鏡で (中学生の時に黒セルフレームが流行ってみんな買ってたのでひねくれたかった)、今はEyevan 7285の156をかけているが、気分替えで買ったLesca LunatierのMose XLが気に入っている。顔に足すものは有彩色のほうが気持ちがよい。
 めちゃ色んな眼鏡屋を巡ったあとで、家の近くの眼鏡屋で意外な角度から薦めてもらった (もっとボストン寄りで考えていた)。看板商品のクラウンパントは避けつつ…… 笹柄の入り方と全体の色調は理想通り。メタルと違ってだらけた服装にも合う。

③ 前年、El Paraisoの珈琲豆で味覚・嗅覚に革命が起き、IPAへの理解度も格段に進み、マイブームがにわかに柑橘づいているところでL'ArtisanのHistorie d'Orangersも毎日つけていた。どう嗅いでもオレンジなんだけど角が取れていてウォーム。冬に入ってから別のに切り替えたので、春まで香りが生きてることを願っている。
 前判断的に好きと感じる物々が、ひとつの共通した切り口で捉えられるときが一番気持ちいいよな、この先のdigに応用可能だから。「おれはこういう音楽が好きだから、こういう絵を買おう」みたいな自覚で得てきたものが沢山あるので、もっともっと明確に把握していきたい。 


おわり

暮らしぶりについて。

  • 完全出社化に伴い、睡眠障害とうつが一瞬で加速し投薬治療を始めた。

  • 曲は作ってもApple Musicみたいなインフラに認められないことがある。他所様の軒先で商売をするという面で首根っこを掴まれているかぎり、作ればよいというものでもない。

  • 「とにかく多産し振り返るな、腕を磨け」は経過の楽しみ・能力の習得・社会的承認が目的ならば適切だが、目前の個別出力が目的の場合は不適。

  • 痛みが極端に嫌いでもふとした衝動で骨くらいは折れた。おそらく命もそんなに重大なものではなく、衝動で手放される。

  • タナトフォビアの根のひとつは個であり続けたい欲であり、独善の一種だという自覚がある。

  • 内省・内観は自我に領域があることを前提としているので、境界の存在を疑うところから全部ひっくり返せる気がしている。今年はこれをやろう。


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