へっぽこあにめたの憂鬱

ずっと文章を書こうと思っていた。
私の職業は(へっぽこ)アニメーターだ。
毎日毎日絵を描いて描いて描いて描いて少ないお賃金をもらう日々……に、まあそこそこ疲れたので、文章でも書こうかと思った次第である。

とはいえ、アニメに関しての話は多分そんなにしないと思う。私はアニメーターではなくへっぽこアニメーターだからだ。仕方なくこれで飯を食っているだけの向上心のかけらもないただの歯車だからである。

今日は私の隣の席のおじさんの話をきいてほしい。

隣の席にベテラン原画マンのおじさんがいる。多分めちゃうまいのだろう、知らんけど。
そのおじさんの席には、雑誌や昔の原画の紙などが今にも崩れそうに山積みになっており、椅子の横にもその山がいくつか。それを並べて囲いのようにして、机の周りは彼の部屋のようになっている。

私は毎朝9時くらいに出社し仕事を始めるのだが、そのおじさんは毎日16時ごろ会社にやってくる。ヘルメットを被り、大きなリュックを背負って来る。バイク通勤なのだろう。
席に着くとヘルメットとリュックを下ろし、紙の囲いの並びに置いて自分の"部屋"を少し増やす。
そして一度椅子に座り、何やら一息ついたあとに給湯室へコーヒーを淹れにいくのだが、席から給湯室へ行くまでに彼には"玄関"がある。
そう、彼の机は"部屋"なので、先ほど置いたリュックとヘルメット、その他の紙の山々で囲った塀の横には玄関があるのだ。玄関にはスリッパが一つ。彼は自分の部屋から出ていくときに、そこの玄関でスリッパを履き、給湯室へ出かけ、帰ってきた時にはきっちりとスリッパを外向きに揃えて部屋へ入る。

これを最低3回は繰り返す。ペタペタという足音が往復3回ほど響き渡る。
そして彼の出勤から20分程度、やっと落ち着いたようで、机に向かう。これが毎日の一連の流れだ。

私が仕事をしている時は、イヤホンを付けて音楽を聴きながら作業をする。ただ、タイムシートを書く時や、セル分けを考えなければならない時などには音は邪魔なので、イヤホンを外す。
そのときに感じた、「シュッ」という音。
な、なんだ?!?と思い、耳をすましてみると、隣のおじさんだった。
隣のおじさんはヘッドホンをつけながら仕事をしている。ついでに「シュッ、シュッ」と呟きながら仕事をしているではないか。
シュッてなんだ?なんでシュッなんだ?と疑問に思ってもう少し耳をすましてみることにした。
するとどうやら、さしすせその音残りが聞こえているようだ。
おじさんはもしかして、独り言を言っているのではないか、たぶんそうだ。

シュッ……シュ………と定期的に聞こえる音。漫画だったら紙を擦る効果音かと思えるが、残念、ここは現実である。シュッ、シュ、と口で言っているのである。


そのおじさんの出勤時間が、最近なんと12時になった。


嘘だろう、やめてくれ、と思いながら私は今日もイヤホンでLUNA SEAのRosierをガンガンにかけるのであった。

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