学振を辞退して民間奨学金を受給した話

どうも。初めまして。理論物理、広義の素粒子論と量子情報をやっている@QFTloverです。この記事を書き始めたときは博士5年(最終学年)でしたが、今は某研究所で某振研究員をやっています。(このポスドクについての話はいずれ書くかもしれません。)
今回は1年半くらい前から書くと言って公開できていなかった表題の件についてです。(全て無料で読めます)

先に言っておくと、学振には2回落ち、3回目で通りましたが、辞退し、民間奨学金を受給しました。そこで今回は、Twitterでも反響の大きかったこれら広義の奨学金についての話をしたいと思います。
(追記:思ったより金銭的な話、特に税金の話が長くなりました。興味ない方は結論前の一章は飛ばしていただけたらと思います。)

発端はこのツイートです。

本記事は、以下の構成となっています。

学振ってそもそも何?

大雑把に言うと、学振は大学院生も含む研究者が応募できる生活費+研究費です。正確に言うと、日本学術振興会(注1)の特別研究員制度(注2)のことを「学振」と呼んでいます。

ここでは、大学院生に関係してくるDC (DC1,DC2)とPDについて紹介します。めちゃくちゃ分かりにくいお金の話は後にして、ここでは概要を記します。
(ちなみに他には、ポスドク対象の海外特別研究員(海外学振)やライフイベントによる中断後に使えるRRAやRPD、PD学振に採用中の人が海外に行く時に申し込む資格のあるCPDがあります。)

DC学振

DC学振とは博士課程後期(つまりいわゆる博士課程)の学生を対象にした特別研究員制度です。DC1は博士課程前期2年次(いわゆるM2)時点、DC2はいわゆるD1時点とD2時点で申し込むことができます。DC1は3年間、DC2は2年間特別研究員として採用されます。なので、D3からDC2になった人は途中で後述するPD学振に切り替えます。
応募スケジュールは以下のリンクの通りですが、おおよそ5月程度に申請書(研究計画+指導教官などに書いてもらう評価書)を電子申請システムで提出します。

DC学振のメリットは何より、研究奨励金(≒生活費)と研究費が出ることです。なので、民間の奨学金が限られていたり少額だったりする分野(例えば情報系以外の理学系分野とか?)はとりあえず申し込む人がほとんどな気がします。少なくとも筆者の周りの理論物理ではそうでした。

PD学振

PD学振というのは博士課程を修了した若手ポスドク(博士の学位を取得後5年未満の者)向けの学振です。若干締め切りがDC学振より早い気がします。研究奨励金と研究費が出るのは同じですが、DC学振より少し多いです。

在学中の大学院生に関わってくるのは、特にD3からDC2を貰い始めた場合です。その場合は、残り1年はPD学振として切り替えることになります。前まではDCから切り替えた場合、研究奨励金が据置きという中々ひどい待遇でしたが、2022年度からちゃんとお金の面でも切り替わるようになりました。(下記ツイート参照)

学振以外の選択肢—民間奨学金

では、学振以外に選択肢がないのかというと、そんなことはありません。もう一つ博士課程の大学院生が経済援助を受ける方法として、民間の企業/財団が提供している奨学金制度があります。(注3)

筆者はその中で、渥美財団から奨学金を受け取っています。以下の章で、なぜ民間奨学金(渥美財団奨学金)を受け取ったのか、学振と比較した時に何が決め手だったのか話していきたいと思います。(注4)

(筆者が以前調べた時には、そもそも民間の奨学金の情報や学振と比較したときの情報、学振の辞退の情報が(特に理論物理では)ほとんど出てこなかったので、何かしら参考になれば幸いです。)

学振のお金色々

学振は雇用関係がない、保険は自腹など謎のところが多く、金銭面に関してもどれくらいかかるのか、正確な見積もりが難しいです(少なくとも筆者はそうでした)。そこで、以下で詳細に金銭面を見ていくことにします。

もらえるお金

筆者は最終学年(DC2二回目)だったので、そうだとして以下で計算します。ちなみに一発採用ではなく、内定候補からの内定でしたが、その辺の話はまた今度書くかもしれません。

まず、DC学振では研究奨励金が月額20万円もらえます。また、これとは別に研究費(研究に必要な物品購入や出張費に充てられるもの)が、科学研究費助成事業(科研費)のうちの特別研究員奨励費に応募することでもらえます。
2年目のPD学振では研究奨励金が月額36.2万円もらえます。さらにDCと同様、特別研究員奨励費に応募することで研究費をもらえます。

失うお金

しかし、残念ながら良い話だけではありません。学振制度で「もらえる」お金に対してはいくつか制限があります。

  1. 保険料
    学振の支給は日本学術振興会からされますが、受給者とは雇用関係にありません。したがって、国民健康保険料を自己負担する必要があります。また、厚生年金はありません。(注5)

  2. 所得税
    雇用関係にはありませんが、研究奨励金は所得税の対象です。後述するように、いくつかそれを軽減する措置ができますが、いずれにしても所得税は課されます。

  3. 日本学生支援機構(JASSO)の貸与型奨学金の受給不可
    https://www.jsps.go.jp/j-pd/pd_shitsumon.htmlの設問8にもあるように、特別研究員には研究専念義務があり、JASSOの貸与型奨学金と同時に受給することはできません。

民間の奨学金のお金色々

民間の奨学金と言っても広いですが、今回は僕が応募して受給した渥美財団の奨学金の紹介をします。

もらえるお金

渥美財団奨学金の募集要項(https://www.aisf.or.jp/jp/news.php?id=60d18d893ebe9)によると、月に25万円もらえます。基本的に東京の財団事務局で手渡しだったようですが、僕の時はコロナ禍のため、基本的に銀行振込でした。
その他、僕が良いと感じたことは以下の通りです。

  1. 日本学生支援機構(JASSO)貸与型奨学金の併用受給が(限定はあるが)可能
    渥美奨学金募集要項の詳細(https://www.aisf.or.jp/information/Announcement2022.pdf )にある通り、月額10万円未満の他の奨学金との併用受給が認められています。したがって、博士課程のJASSO奨学金(80,000円か122,000円 https://www.jasso.go.jp/shogakukin/about/taiyo/taiyo_1shu/kingaku/2018ikou.html )のうち、低い方の8万円は併用受給できます。したがって、実質25+8万円/月となります。(もちろん返還免除にならなければ、借金だが。)

  2. 横のつながりができる
    渥美財団では奨学生と財団理事等の間で懇親会やワークショップ、旅行などの懇親会が年に何回か開かれます。奨学生の分野は資料(https://www.aisf.or.jp/information/docI.pdf )を見てもわかるように、人文・社会科学系から自然科学系まで幅広いです。僕は他の分野との交流にも興味を持っていたので、個人プレーの学振と比べて交流要素は魅力的でした。
    また、渥美奨学金は2022年度から初めて日本人奨学生も取るようになったので、基本的に留学生がほとんどです。そうなると異文化交流もできるので、そのような交流に興味があって、楽しめる人にとってはおすすめです。

  3. 研究報告の負担が比較的軽い&割と楽しい
    2に関係しますが、様々な分野の人が関わるため、研究報告は専門性の高いものよりかは、その分野・研究を広く一般向けに話すことになります。率直にいうと、学振の研究成果報告書でうまくあれこれ文章をこねくり回すのに時間をとられるより、分野外の人にアウトリーチ的に話す方が有意義ですし、面白いと思いました。

  4. 卒業後、海外学会参加費が30万円まで出る(一回に限る)
    卒業後なので、まだ利用していないですが、援助があるそうです。

  5. 所得税・国民健康保険料がかからない(親の扶養に入っていれば)
    渥美財団の奨学金は奨学金なので所得税の課税対象になりません。また、親の扶養に入っている方は、他に大きな収入がなければ、本奨学金は所得ではないので扶養を抜けることもありません。したがって、国民健康保険に入る必要はありません。

失うお金(相対的に)

もちろん、デメリットもあります。民間奨学金自体のデメリットというよりかは、学振と比較したときのデメリットになります。

  1. 研究費の有無
    一番大きなものは研究費がつくか否かでしょうか。金額的なこともそうですが、CV(履歴書)に研究費を取ったことがあると書けるかどうかの差は大きいかもしれません。しかし、まだ審査の立場に立ったことはないので、どこまで大きいかはわかりません。

  2. 卒業後のポストの保証
    DC2回目に通ると、ポスドク1年目のPDは延長することで保証されることになります。卒業後のポストがとりあえず一年は確保されているのも心理的には強いです。(注6)

  3. 知名度
    アカデミア的には学振はネームバリューがあるので、学振を取ったというと結構それだけで評価される感じもあります。ただ、これからの道を作るのは自分の研究成果であって学振のネームバリューではないので云々。

また、この渥美奨学金に関しては、最終学年の年度しか対象にならないため、それより前は学振か他の民間奨学金を当たることになります。

以上で、学振と民間奨学金、特に受給していた渥美奨学金のメリット・デメリットを比較してきました。
以下からは、より詳細な金銭的負担の計算シミュレーションをしてみます。(愚痴:税金関係のサイトかなーり説明がややこしくて分かりにくいんですよね…)なお、住民税や保険料は自治体によりますので、あくまで参考程度にしてください。

学振/奨学金によって得られる合計金額(概算)

この計算をするにあたって、国税庁のサイトなど様々なサイトをチェックしました。この節を書いているのが、本記事を書き始めてから1年半くらい経った時なので、正直どのサイトを見たか忘れてしまいました。ただ、以下に出てくる様々なキーワードで調べれば、色々わかると思います。
また、授業料は計算に入れていません。

民間奨学金の収支概算

民間奨学金(渥美奨学金)については、所得税や保険料はかからず、住民税も所得が一定以下なのでかかりません。したがって、概算は単純に

(奨学金25万/月+JASSO 8万/月)× 12ヶ月 = 396万円 (+卒業後渡航費補助30万円 = 426万円

となります。(注7)
もちろんJASSOの奨学金に関しては、返還免除にならなければ借金となります。

学振の収支概算:給与収入

次に、学振の場合の実質的な収入を考えてみましょう。以下は募集要項に基づきます。
まず、DC2では(2022年度の場合)研究奨励金が月20万円もらえます。これが基本的に給与収入と呼ばれるものになります。しかし、その内3割の月6万円は、研究遂行経費と呼ばれ、申請すると4月〜翌年3月に使い切った分だけ非課税になります。したがって、研究遂行費の取り扱いの申請をしたとすると、

(学振分の給与収入)= 14万円

となります。それ以外にティーチングアシスタントやリサーチアシスタントで収入がある場合、それも加えて給与収入になります。

学振の収支概算:科研費

これらに加えて、研究目的でのみ経費に使える研究費(科研費)の特別研究員奨励費があります。但し、(非実験系の)満額の60万円(DC)もしくは80万円(PD)申請しても、満額もらえないことが多いです。海外に行くなどの特別な事情があれば、特別枠として150万円まで申請できるようです。いずれにしろ、満額もらえることは少なく、大体60万円前後のようです。これらの研究費は直接経費と呼ばれ、アウトリーチ活動にも使用できます。なお、間接経費というのは直接経費とは別に所属機関に分配される設備費などに使われる経費です。基本的に研究代表者は使えないものと思って良いと思います。(注8)
これらがおおよそ12〜24ヶ月分もらえます。途中でポスドクや就職した場合、その時点で辞退することになるので、それにより得られる総金額は変わります。

学振の収支概算:所得税

一方、支出は主に税金や保険です。まず、給与収入に対して、所得税がかかります。学振では源泉徴収所得税という形で、給与から天引きされます。この所得税は、学振の給与程度だと、

課税所得金額)× 0.05 -(税額控除

となります(税額控除については注9参照)。(https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/02_1.htm )なお、所得税に加えて、(所得税)× 0.021 が復興特別所得税として2037年まで課されますが、今回は無視できるとします。
この課税所得金額というのを説明するために、まず所得について説明します。

【(給与)所得、給与所得控除】

(給与)所得)=(全ての所得=給与収入)−(給与所得控除

という関係が成り立ちます。(注9)ちなみに、いわゆる年収は年間の給与収入を指します。
この給与所得控除というのは、経費の意味合いを持っています。国税庁のHP(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1410.htm )によると、学振の給与の場合、

給与所得控除)=(収入金額)× 0.3 + 80,000円

となります。私の場合、リサーチアシスタント(RA)も含めて、80万円くらいでした。(注7)

【課税所得金額、所得控除(定義)】

所得からさらに、所得控除を引いたものが課税所得金額になります。

課税所得金額)=((給与)所得)−(所得控除

で定義されます。具体的な所得控除(=人的控除+物的控除)としては

  • 社会保険料控除(年金+国民保険分全額)

  • 生命保険料控除

  • 地震保険料控除

  • 寄附金控除(ふるさと納税)

  • 勤労学生控除(給与所得が年65万円を超えるとダメ)

  • 医療費控除

  • 基礎控除

  • 小規模企業共済等掛金控除(iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛け金など)

  • 他、扶養控除、障害者控除など全15種類

です。詳しくはhttps://www.freee.co.jp/kb/kb-blue-return/blue-return-income-deduction/ 等を参考にしてください。
私は障害はなく配偶者もおらず、生命保険も加入していなかったので、上記の控除が関係してくるものでした。さらに地震保険については、賃貸のアパートだったため無関係でした。さらに、学生ですが学振を受給すると給与所得が65万円/年を超えるため、勤労学生控除も当てはまりません。また、iDeCoはしていないため、対象外でした。(していると多少お得になりますが、ポスドクで海外移住した場合には日本の厚生年金に加入できない場合、解約しなければいけません。)

以下、関係してくる控除について見ていきます。

【ふるさと納税】

ふるさと納税については、学振の給与の場合、控除額はおおよそ3,884円になります。基礎控除については、年間2400万円以下は48万円になります。

学振の収支概算:所得税の続き/社会保険料(健康保険・年金)

社会保険料控除については、健康保険と年金を合わせた額になります。

国民健康保険

学振は雇用関係がないので、国民健康保険料をまず考えることになります。この額は自治体によりますが、私の自治体では、全ての所得=給与収入から基礎控除を引いた値の10%程度に諸々の追加をしたものでした。
結果、およそ24万円/年が国民年金保険料でした。

国民年金】

次に国民年金については20万円/年ほどでした。(雇用関係がないので厚生年金はありません。)

合わせて、44万円/年が社会保険料控除額になりました。

課税所得金額、所得税(計算)

以上の計算を合わせると、課税所得金額がおおよそ65万円/年となりました。これは195万円/年を下回るため、上記で示した所得税の式

課税所得金額)× 0.05 -(税額控除

で計算して良いことになります。課税所得金額が195万円/年以上になると、所得税も上がります。累進課税制度ですね。
結果、所得税は32,000円/年程度となりました。なお、課税所得から所得税を引いたものが手取りと呼ぶものです。

税額控除

また、注10の通り、もし株の配当(配当所得)があった場合、その5~10%程度がさらに所得税から控除されます。これを税額控除と呼びます。今回は株の配当や所得税が課されている外国での生じた所得がないため、税額控除は0とします。

学振の収支概算:住民税

住民税については、その年の1月1日に住民票を置いていた自治体に納めることになります。

住民税
=(均等割)+(所得割
≒(市民税均等割+県民税均等割)+(課税所得金額×0.1 -税額控除 -調整控除

均等割とは、非課税世帯除く全ての住民に等しく掛かる税です。自治体によりますが、つくば市(https://www.city.tsukuba.lg.jp/soshikikarasagasu/zaimubushiminzeika/gyomuannai/4/2/1001030.html )の場合、市民税均等割が3,500円、県民税均等割が2,500円で合計6,000円が均等割になります。なお、市民税均等割、県民税均等割ともに、令和5年までは東日本大震災復興基本法に基づき、臨時的に500円引き上げられています。また、県民税均等割については、森林湖沼環境税として1,000円上乗せされています。

一方で、所得割は課税所得金額に一定の割合をかけ、そこから税額控除調整控除を差し引いたものになります。自治体によりますが、標準税率では市民税に対して6%、県民税に対して4%で、おおよそ10%が課税所得金額に乗じられます。調整控除については注11を参照してください。今回は0とします。
ここで一点注意ですが、ここでの課税所得金額は前年度の1~12月の所得で決まります。したがって、学振の初年度の住民税は低くなりますが、今回は概算のため、それは考慮に入れないとします。

以上より、住民税はおおよそ71,000円/年と算出できました。

学振の収支概算:源泉徴収・年末調整/確定申告

ここで、実際に納付する税額には関係しませんが、手続き上のことをいくつか書いておきます。

ここまで主に所得税と住民税について書きましたが、学振では所得税は源泉徴収(学振が一括で納付)、住民税は普通徴収(各自納付)となっています。源泉徴収とは、控除を考慮せず、大まかに所得税を天引きすることで、年末の年末調整(学振側で処理)や年度末の確定申告(納税者側で処理)で控除分(前者で所得控除、後者で税額控除)は返ってきます。
今回のように主たる給与が学振からの場合、支払いは月給で、給与所得者の扶養控除等申告書を提出するので、月額表の甲欄を見れば良いことになります。なお、この申告を行わないと乙欄になり、年末調整が行われません。

給与所得控除以外の控除を受けるには年末調整や確定申告をしなければいけません。なお、雇用関係があれば健康保険、厚生年金等の保険料は源泉徴収の段階で控除されますが、学振はありません。年末調整では寄附金控除(ふるさと納税)、医療費控除、雑損控除以外の所得控除が適用されます。確定申告ではそれら三種類の控除のほか、税額控除を適用できます。
ただし、ふるさと納税だけであれば、ふるさと納税ワンストップ特例制度https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/furusato/topics/20150401.html#block02 )というものがあり、確定申告をせずとも寄附金控除が受けられます。
また、(特定増改築等)住宅借入金等特別控除、いわゆる住宅ローン控除については1年目に確定申告をすれば、2年目以降は年末調整で控除を受けられます。(注10リンク先参照)
また、単純に払い過ぎている分以外にも、特定支出(業務に係る支払い:注12)が給与所得控除の半分を超える場合には特定支出控除が利用でき、その分を給与所得から差し引くことができます。しかし、雇用関係がないことと研究経費が既にあることから、学振では活用できなさそうです。(http://yumihei-leo.blogspot.com/2014/12/blog-post_22.html

源泉徴収税額を調べるために、給与所得の源泉徴収税額表(月額表)(令和4年分 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2021/02.htm )を見てみます。その月の社会保険料等控除後の給与等の金額とは、その月の課税対象となる給与の合計金額から社会保険料の合計金額を控除した後の金額です。
ここで注意が必要なのは、学振とは雇用関係がないので、これら社会保険の天引きは源泉徴収の段階ではなされないということです。したがって、

その月の社会保険料等控除後の給与等の金額)= 14万円

となります。甲欄の扶養親族等の人数0人をみてみると源泉徴収額は2,680円/月となっています。(注13)

しかし、私の場合はRAも合計するため、もう少し上がって、源泉徴収税額は4,700円/月になりそうです。よって、所得税が32,000円/年だったので、およそ2,000円/月程度は年末調整で返ってくるはずです。

学振の収支概算:学生教育研究災害傷害保険

さらに、もう一つ考えなければいけないのが、学生教育研究災害傷害保険(学災研)です。任意加入のはずですが、年数百円なので、加入しておいて損はないでしょう。以下では、無視できるとします。

学振の収支概算:まとめ

以上をまとめると

【(広い意味の)収入】
研究奨励金         月20万円
特別研究員奨励費(科研費) 60万円前後/年

【支出】
所得税      32,000円/年
住民税    71,000円/年
国民年金    20万円/年
国民年金保険料 24万円/年
研究遂行経費    6万円/月

となるので、合計すると174万円/年ほどになりますが、初年度は昨年度の所得が低いため、本試算よりは収支がプラスになると思われます。
また今回は、学振に加えRAの給与もあるため、国民年金の学生納付特例制度https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/menjo/20150514.html )の対象外になると仮定しましたが、前年の所得が一定以下の場合は対象になります。もし仮に年金納付を特例で猶予する場合は、大雑把には200万円/年と期待されます。詳しくはhttps://shuheichem.hatenablog.com/entry/2020/05/20/190000 などが参考になりそうです。
さらに、研究遂行経費は支出であり収入である(研究遂行に使えるため)ので、これを収入にも計上すると、おおよそ270万円/年くらいになると期待されます。

他にありうるチップとしては、iDeCo(個人型確定拠出年金)(一般)NISA・つみたてNISA株式配当などがあります。iDeCoと株式配当による控除の仕組みは先述したとおりです。NISA・積み立てNISAについては、掛金の控除はない一方、運用益は(期間限定で)非課税です。節税については高々10万円/年と予想されます。(根拠は忘れました)
これらについては今回はないものとしています。

金額比較

以上から一年単位で見ると、民間奨学金の400万円/年の方が金銭的には良いことが分かりました。一方で、学振(DC2の2回目)は最長で2年で、PDになるとさらに給与が上がるので、適当に見積もって計600万円程度になるので、トータルの金額としては上回りますが、民間奨学金でも2年目に無職でなければ何らかの収入はあるはずなので、やはり金銭的な観点だけだと民間奨学金(渥美奨学金)の方が良いと感じます。
他にも先ほど挙げた様々なメリット・デメリットを勘案して、私は学振DCを辞退して民間奨学金を選びました。

結論

今回、なぜ私が学振ではなく、民間奨学金を選んだのか、様々なメリット・デメリットや収支シミュレーションを通じてお伝えしました。
と言っても、ほとんど税金関係の話になってしまいました。ややこしすぎる…
学振の税金関係の記事は数あれど、個人的に今回の記事が一番詳しいのではないかと自負しています(まあまあ時間もかけた)。とはいえ、様々な情報にあたって、じっくり考えてもらうのが一番ではないかと思います。

最後に、色々と書きましたが、結局はどちらかしか選べないので、自分の選択に自信を持てば良いのだと思います。そして、お金や奨学金、学振のことなんて忘れて、精一杯研究に注力するのが、夢(かどうか知りませんが)への一番の近道だと思います。

また、1年間渥美財団奨学生として過ごしてみて、金銭的支援以上に、人と関わるのが面白かったところもあるので、ぜひ積極的にこのような民間奨学金に応募してみると良いと思います。(私の分野の素粒子論では、学振ではなく民間奨学金を選んだ人をほとんど知らない)
今後、民間奨学金の応募・面接の時の話や奨学生の間の体験は書くか分かりませんが、少なくとも渥美財団は思ったより自分の研究に対する情熱も受け止めてくれるところのように感じていて、それもお薦めしたいと思った理由の一つです。

以上、本記事が誰かの助けになれば幸いです。注釈の下に投げ銭?できるようにしたので、もしこの記事を読んで投げ銭してもいいよ!という人がいれば、してもらえたら、高い振動数で喜びます。


注1:独立行政法人日本学術振興会法(平成14年12月13日法律第159号)に基づき、学術研究の助成、研究者 の養成のための資金の支給、学術に関する国際交流の促進、その他学術の振興に関する事業を行うため、平成15年10月1日に設立された文部科学省所管の独立行政法人

注2:将来の学術研究を担う優れた若手研究者を養成・確保するため、学術審議会答申「学術研究体制の改善のための基本的施策について」(昭和59年2月6日)に基づき、昭和60年度に特別研究員制度が創設された。

注3:他にも日本学術振興会の育志賞(https://www.jsps.go.jp/j-ikushi-prize/)や大学院のティーチングアシスタント(TA)、リサーチアシスタント(RA)、日本学生支援機構(JASSO)の奨学金制度があります。(大学院の場合、貸与型は家族の年収に関係なく受給できると思います。博士課程は在学中に免除内定が出れば半額免除は確定します。)
最近は、大学ごとにも学振のような制度ができているようです(国立研究開発法人科学技術振興機構「次世代研究者挑戦的研究プログラム」事業や文部科学省「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業」)。うらやましい…
また、研究費という点では、(筆者は気づいてなかったので出していませんが)研究助成の応募もありだと思います。博士号取得後に応募できるものも含めると、理論物理では三菱、住友、笹川、山田、伊藤、稲森、井上、日揮・実吉あたりかと思います。他にも良いところがあれば、ぜひ教えてください。

注4:但し、筆者が採用されたこの奨学金は、(現時点で)博士課程の最終学年対象なので、特殊な場合であることに注意してください。また、日本人学生は今年度(2022年度)から対象になりました。

注5:若手研究者雇用支援事業(https://www.jsps.go.jp/j-pd/pd-koyou/ )により、今後雇用については改善されるかもしれません。

注6:指導教員いわく(意訳)、「どちらにしろポストを自分で獲得できないと生き残れないから、背水の陣で頑張る覚悟を決めた方が良い」
特に素粒子論はそうだと思う。(覚悟だけで生き残れる業界でもないが。)

注7:当初、そこにリサーチアシスタント(RA)の年額も加えて考えていました。(おおよそ授業料と相殺するくらいの額です。)しかし後日、なんと私の所属していた研究科では、学振/民間奨学金関わらず、経済的援助を受けているとRAがかなり減らされてしまうことがわかりました…(予算の諸々の都合があるようです)
なので学振等を頑張って取ると、逆に元々あった援助は減らされてしまうということも場合によってはあります。(愚痴:他の某国公立大はむしろ授業料免除とかになるのに…)

注8:これは学振PDやその他の科研費の話です。学振DCにはそもそも間接経費がつきません。

注9:今は給与所得のみ考えていますが、実際には雑所得一時所得配当所得などのその他の所得も考えなくてはいけません。その場合、各所得に応じて控除額も変わってきます。さらに、それらを単純に足すわけではなく、ある規則にしたがって合算することで合計所得金額が得られます。詳しくは国税庁ウェブサイト(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1300.htm や https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki2017/b/03/order3/yogo/3-3_y02.htm )を参照してください。

注10:実はさらに税額控除というものがあり、これは課税所得から計算された所得税額からさらに控除するものです。そうすると、納める金額は課税所得から計算された所得税額より少なくなります。こちらのサイト(https://biz.moneyforward.com/tax_return/basic/52228/ )の図が分かりやすいかと思います。配当控除外国税額控除などがあります(参照:国税庁ウェブサイトhttps://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1200.htm )。

注11:所得税から個人住民税への税源移譲に伴って生じる所得税と個人住民税の人的控除の差に基づく負担増を調整するために調整控除が導入されました。(https://www.zeiken.co.jp/yougo/地方税/個人住民税(道府県税又は市町村税)/調整控除.html )

注12:特定支出の種類、特定支出控除については、国税庁のページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1415.htm )を参照。

注13:日本学術振興会特別研究員遵守事項および諸手続きの手引(令和5年度版)R5.1.25発行(https://www.jsps.go.jp/file/storage/j-pd_2022/guidance/r5_1_tebiki.pdf )の「II-3. 所得税の源泉徴収」の表「研究奨励金に課税される所得税額の例」を見てみるとDCかつ控除対象扶養親族の数が0人かつ研究遂行経費の取扱いを希望した場合は2,670円となっています。
なぜか源泉徴収税額表から計算したものと10円ずれるのはなぜでしょう…?知っている方がいたら教えてください。


この先に文章はありません。よければお気持ちで。

ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?