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納豆茶碗の破壊力

「そんなのさ、朝、納豆ご飯を食べた後の茶碗をシンクに置いたまま出かけりゃいいじゃない」私がこう即答すると、若い後輩女子は「さすがですっ!」と手を叩いた。

一から説明します。お局の私に対して、会社の若い後輩女子(20代半ば)は、なんでもかんでも「さすがですっ!」と言えばいいと思っているキライがある。その条件反射っぷりは、吉本の後輩芸人が「さんまさん、さすがっす!」となんのてらいもなくヨイショをするのと同じような雰囲気で、半分バカにしてんのか?と思いつつも悪い気がしない、つまり私は、非常に素直なお局だと思う。

そのサスガチャンは最近一人暮らしを始めたようだ。自由気ままな快適さを手に入れたものの、自宅住まい時代にはなかった悩みが生じているようで、聞いている分には面白くて仕方がない。

先日はこう言うのである。「あの……何度か二人でご飯に行ってて、私もいいなと思ってる男子がいるんですけど、そろそろ、部屋に入れてしまいそうな自分がいて……」「へえ、いいじゃない」「いや、でも、そんなにすぐに部屋に入れたら、軽い女だって思われるし。私、お酒を飲むと、なんだかすごく寛大になってしまって、満更でもない男の人と一緒だと、つい部屋に入れてもいいかなって気になってしまいそうなんですよね」と。「ねえ、お酒って、満更でもない男の人に寛大になる為にあるんじゃないの?だからいいじゃないの」と言うと、やっぱり彼女はすかさずこう言うのだ。「さすがですっ!お酒ってそうか、その為にあるんですね!」と。いや、知らないけど……。

が、サスガチャンはとにかくいちいち物事を考えこむようで、「でも……」と話は続く。「もしも酔っ払った勢いで男子を部屋に入れてしまって、翌朝、大後悔なんてことになったらどうしようって思うと、そもそもお酒を飲むのが恐いです。ほら、よくドラマであるじゃないですか。ヒロインが、朝、目を覚ますと、横に男の人が寝てて……布団をガバッとめくると二人とも洋服を着ていなくて。ってことは、昨日の夜、あれからああなってこうなって……あれ?じゃあもしかして?どうしようー!ってやつです」などと言い出す。

私自身、相当の飲兵衛ではあるけれども、そういったドラマのシーンのように、翌朝目が覚めたら隣によく知らない男子、もしくは、本来、絶対にそんな関係になるはずもない男子が寝ていたなんてことはただの一度もない。そんなことをしでかす女は、酒飲みの風上にも置けないってもの。やっぱりどんなに酔っ払っていたって、「この男子を部屋に入れていいか悪いか」という判断は、頭の片隅で絶対に出来る自信がある。でも、「いつかは部屋に入れてもいい相手だけど、今日はまだやめておいた方がいい。それは絶対にそうなのだけど、でも、このままだと私、今日……」という七面倒くさいシチュエーションに有効な作戦として、私がサスガチャンに提案したのが、冒頭の納豆作戦だ。

自分の部屋のシンクに、納豆がこびりついた茶碗が浸かっていると想像したら……玄関のドアを開けた瞬間に、プーンと納豆の香りが漂うと想像したら……理性なんてものとは別次元で、「今日は帰りましょう」と断言出来るってもの。ボロボロの下着をあえて着て行ったところで、電気を消して見られないようにすればいいだけだし、部屋をあえて散らかしておくって言っても、「ちょっとだけ待ってて」と待たせておいて、ささっと片づけてしまえば何とかなってしまうこともある。でも、納豆茶碗の、気持ちの萎えさせ破壊力は最強!だと私は思いますが、如何でしょう?

って自分で書いていても、どうでも良過ぎます。こんなことで、「さすがですっ!」といちいち目を見開いてくれるサスガチャンはやはり可愛い後輩です。

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