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水澄む草青む

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空から降り注ぐ雨水が、何十年もかけて森の奥の清らかな泉の一滴となるように。我が身を生きることを通して言葉を綴る5人の書き手によるちいさなWebマガジン。
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#はじめに

言葉をめぐる世界で本質を見つめる

私は今、生後1ヶ月の小さな命とともに暮らしている。 当然のごとく、彼はまだ、言葉を持っていない。 何かを伝えたいとき、彼はただ、泣く。 手足をバタバタさせて、顔をしわくちゃにして。 ただ、全力で。 母である私は、彼のメッセージを受け取り、 自分なりに解釈して、行動する。 そこに言葉は存在しないけれど、通じ会えたとき、 確かな安心感が生まれる。 もちろん、通じないこともあって。 そんなときはお互い、なんとも言えず悲しい気持ちになる。 そしてもう一度、言葉にならない言葉を伝え

たったひとりに、確かに、強く、届くもの

情報が、溢れかえっている。 大切な情報も、求めていた情報も、 興味のない情報も、不必要な情報も、 全部が等しく、流れてくる。 ありとあらゆる知識、ぶつけられた怒り、 遠くの誰かの、小さな喜び。 何を受け止めたらいいんだろう。 私は何を求めているのだろう。 考えているうちにも、 次々と流れ、まばたきしている間に もう、遠くまで過ぎ去っている。 何十億人の言葉が、迫っては、 あざ笑うこともせずに、去っていく。 混乱する。 たった100人の、集落の人たちの名前さえ まだ覚え

水澄む、草青む

空から降り注ぐ雨水が、何十年もかけて森の奥の清らかな泉の一滴となるように。我が身を生きることを通して言葉を綴る5人の書き手によるちいさなWebマガジンをはじめます。 「水澄む」は秋の季語。 秋になると水が澄むことから、この季語があるそうです。 春から準備してきたプロジェクトが、偶然にも秋を迎えてスタートを切ることになり、「時満ちたり」と告げられたようにも思われています。 「草青む」は春の季語。 春が来るといつの間にか、あちこちに草が生え出てくることを言います。 乾いた冷た