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追い付く・追い越す考

お盆休みが明けて、ボエ~としてる間に八月が終わってしまった。
「暑い、辛い、やる気出ない、外は危険。眠い。」
と身体がひとりごとを毎日呟いてて、暑さに対しては「こいつ…、いつか何とかしてやるぜ!」とイラついてるのに結局何もできず、何とかしてやられたのは自分の方だったと毎年思う。

九月になってしまった。少し寂しい。
夕焼けをまだ堪能してない。
夏の間に仕上げようと思っていた漫画ももう、 “これは私のライフワークです” と言ってサグラダファミリアにしよう。

朝の通勤電車もお盆明けから徐々に混み始め、今週は「お客様混雑の影響により…。」のアナウンスも復活した。
自分の家も職場も中央線と総武線が両方止まる駅なので、どっちに乗っても着くのだけど、朝は混んでいても中央線に乗ってしまう。
中央線の方がシュッとしたイメージなのと、自分がマイペースでモタモタしてるからサラリーマンの急いでいる雰囲気と緊張感を味わいたくて、観光気分で乗っているのだと思う。

電車が多少遅れても「中央線ってこんなもんだよね。」と悟っているのでイライラしない。
でも中央線的には
「前を走ってる電車が詰まっているため、速度を落としての運行となっております故に、これは自分の本当の姿ではございません。俺はまだ、本気出していないだけ!なのです。」
って、自分のノロノロ運転と周囲からの誤解にイライラしているかもしれないけど。しないか。

そんな感じで心の広い私だけど、時々乗ろうとしたらトラブルで発車しなくてホームで待っている時は、待っている時間が長くなるほど焦ってくる。
「総武線は通常どおり運行しているので、お急ぎの方はご利用下さい。」のアナウンスも流れているよ。
ど、どうしよう…。総武線に乗り換えるべき?
でも、階段降りて上がって、総武線待ってる間に今さっきお別れした中央線が発車したら何とも言えない気持ちになるのが怖い。

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「この人と付き合って7年経つけど、彼は私と結婚する気はないらしい。もう待つのは嫌!」
尚美は倦怠期を迎えていた恋人の純平と、とうとう別れる決意をした。そして今夜、打ち明けようと思った。
自分達と同じ時間だけ古くなっていったアパートで、尚美は純平の帰りを待った。
いつもと違う緊張感。何故か部屋のだらしなさが目について掃除した。
部屋の片付けが得意でない二人は、付き合いはじめは気をつかって綺麗に保とうとしていたが、7年も一緒にいるとラクになって部屋の散らかりも気付いてはいるが片付けるのが面倒でそのままになっていた。
「ただいま。」
純平が誰に向けて言ってるのか分からないくらい、小さな声で靴を脱いだ。尚美はまだ掃除をしている。
「何?大掃除まだ早くない?」
純平は自分で買ってきたスーパーの惣菜をレンジに入れた。
「やだ、ご飯用意したってLINEしたでしょ?」
尚美は鍋に火を付け、キャベツとベーコンのスープを温め直した。
「あのさ、私達もう別れない?」
「………。」
純平は無言だった。無言でレンジのターンテーブルを見つめている。
沈黙の間、尚美は僅かな可能性を夢見た。もしかしたら純平は、自分が気付かないだけで結婚を考えてくれていたのかもしれない。
ピーっという音がキッチンに響いた。
レンジの扉を開けて惣菜を取り出す。唐揚げの匂いがする。
「あのさぁ、俺…。」
プラスチックのふたを取り、指でそのまま唐揚げを掴む。
「わ、熱!」
唐揚げを口に入れ、ハフハフともしゃもしゃを混ぜながら純平は続けた。
「俺さぁ、好きな子いるんだよね。」
二人が別れて直ぐ、純平は “好きな子” と式を挙げた。

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…って感じで、別れたら元カレが次の人と直ぐ結婚しちゃうみたいな気持ちになるのを怖れて、総武線に乗り換えるのを躊躇してしまうのだけれども、
でも中央線が回復するのを信じて乗車したまま待っている間に、総武線が次から次に来ては出発していく様子を見守っているのも、空しいなぁ。

「この人と付き合って7年経つ間に、友人達は次から次に結婚していった。どうしよう、私は彼との未来を信じて待っていた方がいいのかな……?」
そんな感じで別れない方の選択をした尚美の心境でいるのもモヤモヤするのであった。
とか、考えているうちに中央線が動き出した。やった~!
この仕組みを知っているので、最近は中央線に乗ったまま待っているのでした。

が、動き出した中央線は本気を出せないばかりか、駅と駅の間に他の中央線一族が溜まっていて、お互いにお腹の中の探りを入れて気をつかいながら走っているのでとても遅い。
総武線に軽々と追い越される。あの追い越した総武線に乗っていた方が良かったのかな……。と、新たな後悔が発生してしまう。
尚美も純平と別れて別の人と一緒になる選択もあったのだと後悔するだろうなぁ。

しかし東中野と大久保間でさっき追い越した総武線をゆっくりこっちも追い越すけどね。
尚美も友人から聞いた結婚した後の親戚付き合い問題や旦那の浮気発覚問題とかで、結婚したからと言って完璧に幸せになる訳ではないと気付いたと思うよ。

………、って、まだ新宿に到着したばかりだった。
会社に遅刻の連絡もまだしていなかった。
私はまだ、本気出していなかった。
本気出して、遅刻の連絡しよう。