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お爺さんの後頭部と火星考

朝、私の後から東京行きの快速電車に乗って来たのは、綺麗な薄い紫色の長いカーディガンを着た女性と、その女性より年が10歳以上離れていそうなサラリーマンのカップルだった。
サラリーマンは夏だったがマスクをして、女性に「早くキスをしたいな♡」と、甘えていた。
女性は喋らないしサラリーマンの背中で顔が隠れてしまったので、どんな反応をしていたのか気になった。
サラリーマンは嬉しさを我慢できず、その嬉しい雰囲気が静まり返った車内では違和感が有りすぎてだんだん疎ましくなってきたので、私は新宿駅で降りて別の車両に乗った。

今度は私の後に続いてお爺さんが乗って来た。他にも数人駆け込み乗車で一気に混んでしまい、またもやぎゅうぎゅうな車内であった。
お爺さんの後頭部は、私の視界にとても近く映っていた。
お爺さんの頭は禿げていて皮膚が見えるが、短い産毛のような白髪が生えていた。
その白髪で小鳥の雛を思い出してしまい、可愛らしかった。

お爺さんの頭には染みがあって、インクが跳ねて滲んだような黒い点々がたくさん見えた。お爺さんの皮膚が焼けて赤くなってる部分があったので、まるで火星みたいだった。

火星に関するニュースが最近多いのは、今日7月31日に地球が火星に最も接近する事による前夜祭のようなものなのかしら。

とうとう、火星に水の存在の可能性が有るという所まで発見された。それは火星に生物がいるかもしれない…。という、可能性でもある。

しかし、何かのサイトで見た「火星は一度絶滅してしまった星かもしれない。」という情報にも納得してしまう。


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私達は地球にいるという事を自覚しているが、地球だと思っているここは、実は火星なのかもしれない。
祖先は青い美しい地球に行くことを夢見てきた。そして地球に憧れ、火星を地球のように開墾したのであった。
いつの間にか、自分は地球にいると錯覚してしまったまま、文明が続いた。
私達がお手本にした、本物の地球は反対に荒れ果ててしまった。
だから、火星が何だか身近に感じてしまうのである。
だから、火星に可能性を感じてしまうのだった。


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お爺さんの後頭部を眺めながら、そんなありきたりのよくあるSFを思い付いてしまった。お爺さんの後頭部は火星と繋がっているのだろうか。

そして、私がお爺さんの後頭部を眺めながら火星に想いを馳せている間、火星も私の事を考えているのかもしれない。

火星は発見されたがっているのかもしれない。


………と、いう妄想をしてたら会社に遅刻しました。

火星は私を遅刻させたがっているのかもしれない。