以前書いたお話(10:十月はジュール氏の話)
こんにちは、返却期限です。
書いたお話を置いておく場所に困ったので、noteに置くことにしました。
これは、友人である、もとりさんが制作されたカレンダーのイラストに感化された私が、無謀にも1ヶ月1作のペースで、毎月のイラストをテーマにお話を書いたものの、10月分です。
『十月はジュール氏の話』
ジュール氏は塩を切らしてしまった。何でもネット通販で手に入る時代である。「月のウサギの涙からできた塩」と「月の海からとれた塩」を買うことにした。画像で見る限り、赤い岩塩のようなものと、雪の結晶のようなものだった。両方美しくおいしそうなので、届くのが楽しみだ。
お急ぎ便にしたので、翌日の午前中には業者がやってきた。宇宙服を着たウサギが段ボール箱を抱えてドアチャイムを鳴らす。
押印を含め、受け取りはスムーズにおこなわれたが、なんと代引のお金が足りない。小銭を取りに戻るのは面倒くさく思えた。
「いくら足りませんか」
「八十二円ですね」
宅配ウサギが鼻をヒクヒクさせて言う。ジュール氏が空になった財布を調べていると、昨日の昼休みに買った切手が出てきた。
「これは使えませんか」
「ダメですよ、切手は。あ、いや、ちょっと待って。見せてください」
切手は、アポロ11号の月面着陸五十周年を記念したものだった。
「こないだ出たばっかりのやつじゃないですか。地球バージョン欲しかったんですよ」
「ならば、あなたが買ってくれませんか。それで僕は代金を支払う」
「しょうがないなあ」
ほんとはこういうのダメなんですからね、と言いながらも嬉しそうにウサギは小銭入れから八十二円出した。もちろん、彼のポケットマネーである。
ジュール氏は無事に塩を手に入れることができた。だが、通販ですべてが買えるわけではない。その場に行ってこそ楽しめるものだってあるわけだ。
来月の連休は友人を誘って、土星の輪っかの回転寿司を食べに行きたい。
(おしまい)
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