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以前書いたお話(7:七月は七五三木さんの話)


 こんにちは、返却期限です。 

 書いたお話を置いておく場所に困ったので、noteに置くことにしました。

 これは、友人である、もとりさんが制作されたカレンダーのイラストに感化された私が、無謀にも1ヶ月1作のペースで、毎月のイラストをテーマにお話を書いたものの、7月分です。

『七月は七五三木さんの話』

 七五三木さんのブログを見つけたのは偶然だった。ふだん映画など見ない私が、気まぐれに借りてきたレンタル作品について検索してみたところ、「そう、それ!やっぱそこよね!」と叫びたくなる感想ブログが引っかかってきた。他の批評ブログとは少し観点が異なっており、そこが私にしっくりきた。だから、テレビなどで見たことのある、他の作品の感想も読んでみた。読む人への思いやり。吹き出すようなユーモア。激しさやインパクトよりもむしろ、薄く張られた糸こそを丁寧に紡ぎ出すような視線。感動したので、なにか書こうと思ったのだが、コメント欄は閉じられている。かろうじてSNSへのリンクが張られていたのでそこへ飛ぶ。穏やかに、マイペースに投稿されている、心地よいホーム画面が出迎えてくれた。何日か様子を見て、私は七五三木さんに話しかけてみた。そこから彼女との交流は始まった。
「世界を旅行してみたいです。お金はないけれど」
 そうDMしてみたら、七五三木さんはそれから次々と、海外が舞台の映画を紹介してくれた。どれも見事に当たりだった。
 イギリスの劇場で友達と息をのみ、フランスの田舎道を彼氏と並んで歩き、インドの宮殿で母と踊り、ブラジルの駅で父と涙し、カナダの島で妹と笑い、南極では一人でラーメンをすすった。
 薦めてもらっては感想を七五三木さんに送ると、彼女は私が言いたかったことをもっと明確にした表現や、書こうと思ってやめたことを見透かしたように返事に盛り込んでくれた。それらのDMは、表示の縁がエアメールのシマシマに見えてきそうに特別だった。
 やだもう、七五三木さんすごい。たぶん、ちょいちょい見える話題の感じから、私よりもちょっとお姉さん、かな?私と違ってもう働いていて、アラサー入りたてくらいではないだろうか。すてきな女性だなあ。お友達って言っていいのかなあ。図々しいかなあ。
 などと考えているうち、七五三木さんがうちの県に遊びに来る予定があると知らせてくれた。そのついでに会いますか、だなんて。
 なんて嬉しいの!絶対会いたい!
 ていうか、七五三木さん実在してた!
 
***
 
 えらいこっちゃ、ついに書いてしもた。だって会いたかったし。ついでとか言って、メインは777さんに会いに行くことやしねぇ。
 でもどないしよ、絶対あの子、たいして自分と歳変わらんと思とるわ。こっちはもう老眼始まってきたとこやのに。できるだけ共通の話題で話そ思とったら、なぜかこんなことに。引かれるかなあ、ヤやなあ。せやけどやっぱり、会いたいなあ。
 なんのマニアックさもない、すぐレンタルできるような映画の感想を、批評性も知識もなく、自己満足で書いとっただけやのに、あんな共感してくれるなんて、嬉しすぎてんもん。意地悪な映画オタクは小馬鹿にするし、リアルな周りは「現実逃避しやんと、早よ嫁に行かんか」なんて言うし。最近はかわいそがって腫れもの扱いしだすし。なんなんやろ、向き合わんといけん現実って。働いて映画見て自由にブログ書いて機嫌良くしとったらいかんのかね?
 そんな中で、777さんとのDMは完全にオアシスや。打てば響くとはこのことやもん。回を重ねるごとに、文字数えらいことになっとるもんな。ワタシ、何時間かけて書いとんねん。むこうが恐縮しとったけど、こっちこそ、あんなに送りつけて迷惑やないか心配やわ。
 ああ、やばい。会ってガッカリされたくない。なんか向こうでハードル上げてきてるし。オシャレで礼儀正しい、彼氏持ちの健全な女子大生に、できるだけ好印象をもたれるには、どうすればいいやろか。とりあえず訛らんほうがええやろうか。怖い、怖い。
「七五三木さんにお会いする日が近づいてきてドキドキです!幻滅されたらどうしようかしら……」
 なにをおっしゃいますやら、こっちの台詞やで。
「大丈夫ですよ!私たちは、同じ風景を見て、一緒に世界一周した仲ではありませんか!」
 なにをええかっこして言うとんか、ワタシは。
「ほんとだ!気づけばもう、私たちはずいぶんな時間を共有していましたね。安心しました」
「当日、とても楽しみにしています」
 お友達面してええんかなあ。ええんかなあ。
 そもそも、「777さん」って、声に出してなんて読むんやろ?
 
***
 
 「七五三木さん」って、声に出してなんて読むんだろう?

(おしまい)

イラスト:もとり


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