以前書いたお話(19:暖炉と巣箱と)

 こんにちは、返却期限です。
 
 書いたお話を置いてく場所に困ったので、noteに置くことにしました。
   
 これは、友人である、もとりさんに、2つの単語の組み合わせで、お題3つを出してもらって書いたシリーズの3つ目です。

お題「暖炉」と「巣箱」:『暖炉と巣箱と』


 この島は鳥ノ守(とりのもり)という種族が人口の半分を占めている。鳥ノ守の家には必ず暖炉と巣箱があり、鳥ノ守が成人すると、島の長から家ごと託される。
 島は寒い。
 鳥ノ守以外の人間(フツウの人)がやってきたら、鳥ノ守の家の暖炉には勝手に火が点く。そして、フツウの人のうちの誰かが鳥ノ守を気に入れば、やがて巣箱にクレイドルという美しい鳥が住まうようになり、鳥ノ守はクレイドルが長い時間をかけて巣立つまで守り続ける。
 ここに生柄(なまえ)という名の鳥ノ守がいる。生柄の家の暖炉はおかしい。フツウの人が来ても火が点かない。それは恥ずかしいことなので、フツウの人が来るとわかると、あの手この手で無理やり燃やした。燃やすのには時間も労力もお金も要った。何度もフツウの人を呼んでは笑顔で過ごす。巣箱を確認する。空っぽである。
 生柄は焦った。暖炉が壊れていることも恥ずかしいのに、巣箱がいつまでも空なのは重ねて恥ずかしいことである。鳥ノ守に産まれたのに、鳥を守らないとは。このままではずっと白い目で見られる。どうしよう、どうしよう。
 鳥ノ守同士でも交流はある。生柄が一番信頼している鳥ノ守は、妙寺(みょうじ)である。ある日、妙寺と色々と語り合ったあと、鼻歌混じりに帰宅したところ、暖炉があかあかと燃えていて仰天した。この暖炉からは煙が出ないので、外から見てバレることはない。火事になることもないのだが、フツウの人と会っていない、フツウの人を心に描いてもいないときに、暖炉に火がついているなんて、あってはならないことだった。
「嘘だ嘘だ」
 半狂乱になって水をかけたり消火活動にいそしみ、そして無駄だとわかったとたん、生柄の目から涙が溢れてきた。おいおい泣いた。
 突然吹雪が起きた日、ドアを激しくノックする音が聞こえた。
「妙寺です。開けて!凍えちゃう!」
「待って!少しだけ待って!」
 生柄は燃え上がった暖炉の炎をなんとか一時的に消して、妙寺を招き入れた。
 毛布をかけて、ストーブにあてて、あたたかいスープをつくって。早く帰って欲しいような、長く滞在して欲しいような。
「もう大丈夫。吹雪も止んだし、帰るよ。ありがとう!」
 妙寺が生柄をハグした瞬間、暖炉が黒こげになるほどの炎が上がった。二人ともビックリした。
「だって」
 生柄は声を震わせる。
「だってしょうがないじゃん、消しても消しても勝手に点いちゃうんだもん。ずっと点かなかったのに、妙寺のこと考えてたら、バカみたいに燃えちゃうんだもん」
 恐ろしくて恥ずかしくて妙寺を振り払う。
「こんな壊れた暖炉なんか嫌いだ!巣箱も嫌いだ!クレイドルなんか大っ嫌いだ!!あんなおぞましい鳥、いなくなってしまえばいいのに!」
 言った瞬間に、胸が鋭く痛んだ。
「違う違う、クレイドル自体が嫌いなわけじゃない。外で眺めるのは好きだ。でも飼いたくない、それだけなんだ。それだけなのに、自分は鳥ノ守だから……」
 それは本音だった。巣箱に鳥がいないのを確かめては、本当はいつもホッとしていた。早く来てくれないと困るけど、ずっと来なければいいのに、と願っていた。
「鳥ノ守なのに……鳥ノ守なのに……クレイドルは絶対飼いたくないし、暖炉は壊れてるし、もう、生きてる価値がない……」
 うずくまって大きくため息を吐く生柄に、妙寺はそっと寄り添い、こう言った。
「うちの巣箱はもう朽ちてしまったから、代わりに壁掛けの花瓶を置いているよ」
 顔を覆った指の隙間から妙寺を見る。そうか、妙寺の家は巣箱が壊れたのか。
「もし、この家の巣箱が必要ないんだったら、撤去して花瓶を置かない?なかなか良いもんだよ。もし良かったら、花瓶と花と、二人で一緒に探しに行こうよ」
「一緒に?」
「嫌?」
 生柄は首を横に振る。
「良かった。生柄が嫌じゃなければ、花瓶と花以外も、色々見ない?これからこの家、一緒に飾り付けたら楽しそうだけどなあ」
 生柄と妙寺はオシャレな花瓶や愛嬌のある植木鉢をたくさん買ってきて、二人でせっせと世話を始めた。そうして二人はいつしか「花ノ守」と呼ばれるようになった。その名をどう受け取るかは、二人の勝手である。
 たまに、よそのクレイドルが花の蜜を吸いに来る。それはまぎれもない事実だ。

(おしまい)

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