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以前書いたお話(6:六月はロンちゃんの話)

 こんにちは、返却期限です。
 
 書いたお話を置いておく場所に困ったので、noteに置くことにしました。

 これは、友人である、もとりさんが制作されたカレンダーのイラストに感化された私が、無謀にも1ヶ月1作のペースで、毎月のイラストをテーマにお話を書いたものの、6月分です。

『六月はロンちゃんの話』

 ぼくはよく、カサをなくします。
 あんまりしょっちゅうなくすので、ママはぼくにとうめいなビニールのカサしか持たさなくなりました。
 自分で言うのもなんですが、ぼくはとてもマジメな小学生です。先生の言うことはよくきくし、ママやパパにも「もう少し、ズルく生きてもいいんだよ」と言われるし、妹のめんどうもみるし、犬のさんぽにも行きます。
 でも、とってもうっかりさんです。なくしものやわすれものが、ずいぶん多いです。学校からのおたよりも、ママにわたすのをわすれます。図書室で本をかりるのは好きですが、なくしてしまわないかいつもしんぱいです。
 ロンちゃんはぼくのお友だちです。
 かれは、にじ色のカサを持っています。布の三角形のところが全部ちがう色で、カラフルでたいへんきれいです。これはロンちゃんのお気に入りで、じまんでもあるのです。雨の日でも、見ていると元気になるカサです。なんとなく、持ち主ににています。
 
 ある雨の日、ぼくがロンちゃんとカサをさして下校していると、いじめっこたちがぼくをからかいました。
「おまえ、いっつもビニールガサだな!」
「ビンボーなんだろ」
「ギャクタイされてんだろ」
 ちがうよ、と言っても、聞いてくれません。うんざりしていると、下校見守りのおじいちゃんが、しかりつけてくれました。いじめっこたちはひとまずどこかに行きましたが、ぼくは悲しい気持ちになっていました。
「カサ、とりかえっこしようよ」
 急に、ロンちゃんが言い出しました。
「いいの?」
「いいよ。あんなこと言われたら、オレも悲しいもん」
 ぼくはうれしくなって、カサをこうかんしました。ロンちゃんのカサは、ちゃんと子ども用なので、サイズもしっくりきます。それに対して、ロンちゃんは大人用のサイズに少しとまどって、けれどもおもしろそうに雨つぶをすかし見ては、歩き出しました。
 やがて、二人がバイバイする地点に来たとき、雨が上がりました。
「ロンちゃん、今日はどうもありがとう。返すね」
 ぼくがカサを差し出すと、
「いいよ、あげるよ!」
 なんと、ロンちゃんはそんなことを言うのです。
「そんなわけにはいかないよ!ロンちゃんのお気に入りでしょ」
「平気、平気。見てて!」
 ロンちゃんは、とうめいなカサをサッとかかげました。いつの間にか空にかかっていたにじが、ビニールにすけて見えました。そして、ロンちゃんが、まるでにじをからめ取るように、えを大きくグルリと回すと、たちまちカサはにじいろになりました。
 あっけに取られて、その、手品なのか、まほうなのか分からない、ふしぎな出来事に目を丸くしていると、
「これでおそろい!」
 ロンちゃんは楽しそうに言いはなちました。
「うん、おそろいだ!」
 正確には、あっちのほうが一回り以上、大きいけれど……。
 
 家でどう説明しようかなとなやみましたが、帰ってきたママは、カサをひと目見ると、
「あら、ロンちゃんのおかげね。よかったじゃない」
 とだけ言って、にっこり笑いました。
 パパも、
「おっ、よかったな!友だちは大切にするんだよ」
 と言って、あとはいつも通りでした。
 
 ぼくはあいかわらず、うっかりさんのままです。
 けれども、カサをなくすことだけはなくなりました。

(おしまい)

イラスト:もとり


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