見出し画像

一方通行風呂江戸【毎週ショートショートnote】

 おい。おいおい。困るってんだよなぁ。お客さん、田舎者かい?
 なんだよ。江戸の外から来てるんだったら田舎者だろ? 「旅の人」程度の意味合いじゃねぇか。そう気色ばむなよ。
 戻って来んなって言ってんだ。江戸の風呂ってのは一方通行なんだよ? 洗い場? なんだそりゃ。前もって身体洗う所? 風呂桶の外でかい。無ぇよそんなもの。
 ああ。最初の桶に飛び込むのはそりゃ初めてだったら怯むよな。男も女もガキもおっさんも、ヨレヨレの爺さんだって関係ねぇ。前に通った奴の垢も泥も浮きっぱなしの沈みっぱなしだからよ。
 だーかーらっ、一方通行だっつってんだ。入ったが最後戻る事なんかぜってぇにかなわねぇんだよっ! いいからとっとと飛び込めって!
 おう深ぇよ。泳げ泳げ、ってか落ち着け。大人なら足はギリギリ付いてくれるだろ。二つ、三つと風呂桶を流れ着いて、最後の桶でようやくさっぱり出来るって寸法よ。
 まぁ、このところ変な病気流行ってるけどな。


(409文字)

 テルマエロマエの江戸版みたいなイメージで。
 ただし、徳川幕府時代も初期です。

 流行り病を二つ三つ経た後公衆衛生は確立されます。

何かしら心に残りましたらお願いします。頂いたサポートは切実に、私と配偶者の生活費の足しになります!