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ネコクインテット真桑瓜【毎週ショートショートnote】

 適切な、弦が張れ穴さえ開けられたなら、どんな物体も楽器に出来ると豪語する、楽器職人のジョージがいてくれるからこそ、月夜のショーも成り立つのだ。
 歌手ばかりがもてはやされるのは、ネコ社会に限らぬ世の習いだが、裏方の奉仕に職人の研鑽も、心の片隅にくらいは留めておかなければならない。
「うりうりがっ、うりうりにきてうりのこしっ、うりうりかえるうりうりのこえっ」
「マーカス! 遊んでいないで早く穴を開ける場所を見極めないか。今夜の演奏に間に合わせなくては」
「マスターぁ。今時そんなキュウリの笛とか、拾った行平鍋に弦張ったギターなんか、誰が演奏したいと思います? 時代はラップっすよラップ。オレ味瓜・甘瓜・都瓜・梵天瓜と、オレ自身は真桑瓜を名乗って、クインテット立ち上げたんで」
 それはラップじゃない、と思ったがジョージは何も語らず送り出した。
 あえなく予選にも届かず敗退したが、戻ったマーカスに何も言わず次の素材を渡した。


(408文字)

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