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非情怪談卒業【毎週ショートショートnote】

 2年ごとに転校を続けてきた人間は卒業アルバムに名前すら残らない。

 卒業した小学校すら最後の1年で、同級生の大半は記憶にも残していない。
 垣間見た私の印象ばかりが一人歩きして、怪談に変わっている可能性は充分にあると思う。

 と言うより私の側にも、正確な場所に細部が不鮮明な思い出が、途切れ途切れにいくつもある。

 獅子の口が輪をくわえているドアノッカーを恐々叩いたのだが、あれはどこのお宅だったろうか、とか、
 両側に紫陽花が咲く小道を、子ども4人ほどで前後に並んで歩いたがあの子たちは誰だ、とか、
「そこの子どもたち、増水するから早く逃げろー!」
 と川の対岸から叫ばれて皆が慌てたものの、怪我をしていて動けない私のために、大人を呼んで来てあげるからタクシー代出して、とお財布のお金を全て持って行かれた、とか、
 首に巻きつけたロープが細かったらしく切れて地面に転がった、とかの、

 記憶を確かめようにも当時の私を知る人もいない。


(410文字)

 ほらな。黒歴史が出るだろ。
 前後の流れも覚えてないから何の手掛かりも無い。

何かしら心に残りましたらお願いします。頂いたサポートは切実に、私と配偶者の生活費の足しになります!