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彦星誘拐アキアカネ【毎週ショートショートnote】

 秋の風物詩と思い込まれているがさにあらず、夏場のちょうど七月初頭から、成虫になるのである。
 ならばなぜ秋にならねば見かけないのかと問われれば、種族的に30度を超える暑熱に耐えられず、集団で、高地の涼しさへと(自分たちの意志ではなく)誘拐されているのである。
 アキアカネの体長体高を鑑みれば、遥か天上、雲を越えて大気圏外にさえ思えるほどの、高みにまで移動する。もちろん脱落者も多く出る。生物の生態というものは、とても個体の意志のみで成し得る話ではないのだ。
 結婚適齢期となり全身を真っ赤に染めて、人里まで降りて来るのが、ちょうど稲穂が実る秋の頃。あちこちで年に一度の逢瀬を繰り広げ、田んぼに卵を産みつけては、そのほとんどを農薬で死滅させられる。長崎県では絶滅危惧種だ。
 余談になるが同郷の友人は、地域でよく使われあちこちに転がされている農薬缶を、偶然思い出させるデザインであったために、レッド○ルを飲む事が出来ない。


(408文字)

 翼は授かれない。

 この記述だと織姫側も共に誘拐されているはずだが、
 何せアキアカネが浮かんでしまったもので。


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