戦国時代の自動操縦花押【毎週ショートショートnote】
ウイン、ウイン、ウイィィィンと、墨壺に漬けた筆先が、料紙の上へと滑り出る。
ジャッ、クルッ、シャシャッ、と書簡の末端に記された、花押を眺めて小姓頭は一つ大きく頷いた。
「うむ。まさしく殿が先日改めた筆運びである。大儀であった」
はは、と、自動筆記装置を動かす穴開け板を作成した構成士が平伏した。
構成士の仕事はこれだけではない。人脈に縁戚関係がある全国各地の家々に、新しい花押を書き記させた書面を送付し、周知を促さなくてはならない。
何せこの時代の殿様どもときたら、役職の変更、家の代替わりに身内の不幸、果ては「何か縁起が悪い気がする」程度の理由で、割と頻繁に花押を変えやがるのだ。
更には自らの実名も明かさないくせに、間違えられると切腹でも命じかねないほど腹を立てやがる。おかげで構成士たちに暗躍の場があり、食い扶持が得られているが。
この周知用花押書面が名刺及び判子の起源である事は、後の世にそれほど知られていない。
(410文字)
フィクションだからね。
余談だけど配偶者に今回のお題を相談したら、
「戦国時代の国家運営自体が、
殿様にとっては自動操縦だよね?」
って興味深い答えを即返してきたけど、
約30文字で終了で切れ味が良過ぎるな。
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