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このブリトーは誰のものか

アンズブリトーのブリトーを引き継ぐと決めて、ようやくゴールが見えてきた。
・それぞれの具材の調理方法
・それぞれの具材の割合
・巻き方
・大量調理の段取り
じわじわと全部が完成に近づいて、今回 試食会を行い、自分の中で納得できるラインまで来た。

そして思った。

寂しい。

その感情は期待していたものと正反対で、自分で自分にがっかりした。
完成すれば喜びや嬉しさがあふれてくるものだと思っていたのに、いざ完成が確信できると、寂しさと残念さがある。
ブリトーをたくさん作って、その工程がだんだん自分の中に馴染んでいって、レシピを見ずともできる作業が増え、どんどんスムーズに作れるようになってくる。そうなると、なんだか、このブリトーが あんさんの手から離れて自分のものになってしまった気がしてくる。慣れないと作れないし、慣れれば自分のものになった感覚があるのは当然のことかもしれない。でも、共にあろうと努力した結果、共にある感覚が薄れてしまって、残念な気持ちになった。それが率直な感想だった。

もちろん試食会に参加してくれたみんなとブリトーを共有できたことや感想を貰えたことは本当に嬉しいし、ここまで来れたことに(まだまだ途中とはいえ)達成感はある。
そして、これから先、作り続ければ、また あんさんの存在を身近に感じられるようになるかもしれない。
でも今はその確証もなく、複雑な心境になっている。

そんなふうに物思いにふけりながら作ったブリトーをかじっていると、息子が寄ってくる。手をのばして食べたい旨を主張してくる。
息子は私がブリトーを作って食べていると、いつも横取りしては大きな口でかじってモリモリ食べる。
これが私には不思議でならない。だって、彼は家では「ごはんを食べない」から。
家の食事に関しては彼は気分屋で偏食で、昨日喜んで食べていたものを今日は払いのけるし、口に入れて咀嚼を始めたと思ったら吐き出す。
「これなら確実に食べる」というモノもタイミングも無い。少なくとも私には、まだまだ さっぱり分からない。
でも、ブリトーだけはいつも寄ってきて食べるし、吐き出すこともない。今日なんて両手をほっぺに当てて「おいしい」のポーズまでしていた。
他のお店のブリトーを食べたことも食べさせたこともないから比べられないけど、とにかく息子はアンズブリトーのブリトーをめっちゃ食べる。
それを見て、私は嬉しくなった。あんさんに伝えたら「わ!嬉しい!」と言ってくれるに違いないと思えたからだ。
あんさんが作ってくれた時は息子はまだブリトーを食べられなったけど、時を越えて今、パクパク食べている。

うん。作ろう。その先にまたポジティブな感情が待っているはずだ。

息子はこのブリトーを私の作品だと思って成長するのかもしれないけど、これはアンズブリトーのブリトーなんだと伝えていこう。
いやまあ、私は最初からずっと自分のためにブリトーを作っているので、そういう意味ではやっぱりこのブリトーは私のものなんだけれど。

あんさんは私に、ブリトーと一緒に最高の肯定感を残してくれたので、「私がブリトーを作る」という選択に不安は何もない。
もちろん失敗もあるし、うまくできるかなという心配もあるけれど、やっていく上でそういうことがあるのは当然だと受け入れられている。どんな未来に向かうのか、わくわくしている。

ここは、未来に向かう道の途中。だからオチをつけるつもりもなくて、その途中経過をただ記してみたくなっただけ。

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