理学療法士さんがすごいので聞いてほしい。

「宇宙まで行けるエレベーターを作る研究があるらしいんですけど、どうやって作ると思います?」

「アスファルトから生えてくる草はあんな硬いものを突き破るんだから力がハンパないと思うんですよね~」

突拍子がない話題が飛び出す。たまに笑う。私のリハビリを担当してくれる理学療法士さんがすごい。
話が上手い。それだけではない。聞くのも上手い。私の日常やハンググライダーの話などを楽しそうに興味を持った様子で聞いてくれる。しゃべりやすい。

雑談はきっと、患者さんの気持ちをほぐすために積極的にしているのだと思う。おかげで私も、人見知りがだいぶ解除されて通うことができている。しかもその雑談と地続きで怪我の具合を探り、非常にわかりやすく知識を提供してくれる。
リハビリに関してこちらから積極的に質問するときもあるけど、雑談してたと思ったら気付かぬうちにリハビリの話になっていることも多い。
非常にわかりやすく親切丁寧に答えてくれる。痛みは各々どういう理由で起こるのか、どうして私の肘は可動域が狭くなっているのか、患部はどういう状態なのか。色んなことを教えてもらっている。おかげで、自分の腕が今どういう状態なのかが非常によくわかって、痛くても無駄に怖がらずに済むようになったし、日常生活において「やってはいけない動き」「やったほうが良い動き」が、だいたい自分で判断できるようにまでなった。

そうなると日常生活でいかに動かすかということを考えられるようになるので、リハビリに通っている時間だけでなく自分でもできることが結構増えてくる。いかに過負荷にならないようにたくさん動かせるかにかかってくるので、次のリハビリまでにできるだけやれることをやる。

すると、次のリハビリで、めちゃくちゃ褒めてくれる。
「すごいですね!前はもっと曲がってたのに今日めっちゃ伸びてますよ!」「これは家でもがんばっている証拠ですね~」などなど。

成果が出なければ今度は、励ましてくれる。
「なかなか変化に乏しい時期に入ってますから。でも時間差で効果出てくるから今のがんばりが次につながるんですよ!」

さらにすごいのは、感覚への共感をたくさんしてくれること。

私のリハビリは、肘の曲げ伸ばしの可動域を広げる(元に戻す)、というもの。
腕がどうなっているのかというと、硬かったり痛かったりして、あまり曲げ伸ばしができない。最終目標は、痛みを伴わず自力で元通りくらいに動かせるようになる、ということである。
その前段階として、自力でできない範囲の曲げ伸ばしを、外から力を加えてやってもらっている。御幣をおそれず言うと「力ずく」である。曲げ伸ばしを嫌がる肘を、伸ばしたり、曲げたりしてもらっている。もちろん痛い。リハビリが進むにつれ痛さも増していく。開始当初は少しほぐしてもらっただけで返せなかった手首が動き「掌が上を向いた!」と、魔法のような衝撃を受けたものだが、そんな簡単に完治へ向かうわけではなかった。回復スピードは完治に向けて鈍化するし、可動域拡大には痛みが伴う。
しかし、治っていくための痛みだとわかっているのでずいぶんと気が楽である(リハビリ開始前、痛みの根拠が分からない時は、どう動かして良いものか・治ってきているのかがわからず、すごくストレスだった)。それに、痛みからの気のそらし方もだいぶわかってきて、それなりに痛みと折り合いはついている。それでも、理学療法士さんは細やかな気遣いをしてくれる。患者(私)の表情を読み取り、経験と照らし合わせ、今かけている負荷でどれくらい痛むのかを、わりと高い精度で言い当てる。またそれに甘んじることなく、「限界を10だとすると、今どれくらい痛いですか?」とこまめに聞いてくれて、認識のずれを調整しつつ、常に適切な負荷を探りながらリハビリを行ってくれる。「痛かったと思いますが、ナイスファイトです!」と励ますのも忘れないでいてくれる。

苦しさを想像された結果、「すいません…痛いですよね…うう…」などと言われる時も多々ある。ありがたくも申し訳ないので、私はあまり痛がらないようにするのだけれど、それも「我慢は禁物です、やりすぎると大変なので!」と気遣ってくれる。あまりにも想像しすぎて私よりつらそうにしている時があるので、「仕事中ずっとそんなに共感しててしんどくないですか?」と聞いたことがある。すると理学療法士さんは、こう言った。

「きゃめろんさんほど痛いリハビリしてる人って、そうそういませんよ!だから朝から晩までずっとこんな感じでやってるわけじゃないです。それはさすがに体がもちません(笑)。でも、これができなくなったら引退だと思ってやっています。慣れちゃいけないと思うんです。」

こうやってずっと患者さんに寄り添っているのだろうなと思う。明るくしゃべりながら、適切な処置を考え行いつつ、患者さんの不安や苦しみを受け止めた上で、それを和らげることも考えているのだと思うと、尊敬する、という ひとことでは言い表せない。

おかげで私は今まで、リハビリに行きたくないと思ったことが一度もない。むしろ おしゃべりを楽しみにしながら、週に2回通っている。

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