脳性麻痺。音楽に触れる。

 脳性麻痺。左片麻痺。
 姉や従姉妹がピアノを習っていたり、父親が趣味でフォークギターを弾いていたりで、何かと家では音が鳴っていた。びっくりするほど狭い家で、防音なんて皆無。玄関を出たらすぐに道路で車が通る。そんな立地ながらピアノやギターの音が鳴る。よく苦情が来なかったものだ。
 楽器を弾くなんて考えもしなかったが、小学生のころ姉にピアノで連弾するからと言われてピアノに触れたのが最初。


「猫踏んじゃった」を姉の伴奏で無謀にも両手で弾いた。両手と言っても左手は握り拳のまま黒鍵を押さえる程度。それでもある程度形になると嬉しくなった。その後は「もーれつア太郎」「魔女の宅急便」「クロノトリガー」などを練習して弾いていた。誰に披露することもなかったが。

 小学校6年生の時、それまでクラシックやアニメ音楽ばかり聞いていたが、テレビでL'Arc〜en〜Cielの「winter fall」を聴いてからロックやJPOPを聴くようになった。あの曲の何に惹かれたのかはわからないが、とにかく琴線に触れた。バンドってかっこいい。あんな風に楽器が弾けたら楽しそうと思った。しかしそれと同時に、バンドの楽器って両手を使うから自分には無理だろうとも思った。当時はMTVやスペースシャワーなどを見たり、近所のTSUTAYAでCDをレンタルして洋楽、邦楽問わず聴きまくった。

 中学生になってちょうど「ゆず」や「19」が流行りだしてブルースハープを吹いているのを見て、「口で吹くだけなら手は関係ない。できるかも。」とやってみた。これも誰に披露することもなかったが、楽器を演奏する楽しさを感じるには充分だった。

 高校生になると初めてライブを見に行った。大阪城ホールでSOPHIAのを見た。生演奏で聴く音楽に衝撃を受けた。同時期に姉がバンドを始めていたので、地元のライブハウスにも頻繁に通うようになった。ステージで演奏する姿を見て、自分もやってみたいとは思ったが、やっぱり無理やろうと諦めていた。

 専門学校に進学しても楽器を弾きたいという思いはずっと燻っていた。姉の紹介で音楽教室の受付のバイトを始めていたのだが、その教室はドラムのレッスンもしていたのでドラムセットがあった。仕事の帰り際、バンドへの憧れからこっそり少しだけドラムに触れてみた。その時これなら片手でも何とかできそうと思ってしまった。一人で独学なんて無理やから、とりあえず教室に通うか。でも金ないし無理やな…とまた諦めた。

 不思議なもので音楽に関するターニングポイントにはいつも姉がいた。姉が音楽好きで良かったとつくづく思う。


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