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メトロンズ『Pump Up Boys!』

一度でいいから生で見てみたい、と赤坂に足を運んで1年ちょっと。
気づけばメトロンズ遠征が、半年に一度のビッグイベントになりつつあります。

今回も前回同様、東京に宿泊して土曜2公演と千穐楽を観劇し、帰りの新幹線でアーカイブを観ながらとったメモを基に、備忘録兼感想文として記入していきます。

複数回見ても、毎回違った発見のあるメトロンズのお芝居。
勿論今回も例にもれず、配信で改めて気づくこともあったので、今後もメトロンズの公演の配信は毎回やってほしいし(地方住みファンとしても強く思う)、期間も無条件で1週間がいいなあと少し欲をかいておきます。

【追記】
毎公演フル尺がYouTubeにあがるのが本当に嬉しいしありがたいです。
過去作と見比べるのもまた楽しい。

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メトロンズ第4回公演
「Pump Up Boys!」
2022/11/30(水)~12/04(日)
赤坂RED/THEATER

キャラクター

馬鹿が住む街にスーパージムがオープン!

インパクトのあるあらすじの冒頭。
登場人物に馬鹿が多いんだろうと予測はできたけど、観劇後には「馬鹿」にもいろいろあるんだなと感じた。

ガイ&ウッド

わかりやすい馬鹿キャラなのが、ガイ(赤羽さん)とウッド(田所さん)。
コミカルな動きがトムとジェリーを彷彿とさせて、服装も含めて海外アニメのキャラみたいだと思った。

首を傾げたり、腕を組むタイミングが揃ったり、語尾がハモったりと、何かと息ぴったりな2人組。
それでいて、それぞれ地声が高めと低めだから会話も聞き取りやすくて、そういう点でもバランスが良いなと思った。

余談だけれど、中盤で眠りから覚めるとき、ウッドのネックレスの引き輪とプレートが見えた。そこそこ遠くの席なのに見えるくらい大きめでオモチャ感があり、それもキャラクター像に沿ってるように感じた。

ゴッド

彼らと同じく馬鹿なキャラなのがジムのオーナー、ゴッド(児玉さん)。

「プレイボーイは全員ムキムキ」という極論を謳い、最後までプレイボーイに執着し続けるゴッド。
ガイ・ウッド同様、動きやセリフに馬鹿な要素が散りばめられているけれど、英語の間違いを指摘されてもミスを認めないように、「馬鹿だと思われたくない」というプライドが滲み出てた。(それどころか、「経済は回らないからね!」と発言するなど、インテリぶりたいんじゃないか?と思うシーンも度々あった)

わかりやすい馬鹿キャラでありながら、プライドを持ち合わせている人間味は、ガイ・ウッドが2次元的なのに対して3次元的なキャラクターだなと思った。
独特の喋り方も含め、海外コメディのキャラみたいな。人間味とフィクション感が共存する、絶妙なラインだと思う。

ウォーターとフラット

3人続けてフィクション感のあるキャラクターが登場した後に出てくるのが、ウォーター(村上さん)とフラット(関町さん)。

彼らがリアルな人物描写を演じることで、急に「スーパージム」がフィクションではなく現実世界の出来事なのかも、と距離が近くなった気がする。

まず最初に出てくるのがウォーター。
真っ当な発言をしていて、ああ今回は彼がツッコミ的なポジションなのかと思いつつ、でも何か違和感があってモヤモヤした時に現れたのがフラット。
スーパージムやジムのメンバー内に散りばめられた馬鹿の要素を片っ端からイジっていく彼が、自分が思っている違和感を代弁してくれているような気がした。

彼の登場により「ああ、やっぱり登場人物みんなおかしいよね」と改めて思い直すことができ、それを馬鹿にしていいんだな、と作品の見方が確立された
(そんな話を土曜日2公演目のアフタートークで玉田さんも仰っていて、そうそう!と思った)

杉原

最後に登場するのがインド帰りのプレイボーイ、杉原(KAƵMAさん)。

不自然な喋り方や出立ちは、ゴッドと同じような3次元のフィクションのキャラクターのようで、また馬鹿キャラが増えたのかと思った。

急にピンスポが当たって愛について一言述べたり、他人の行動を愛の有無で測るなど、何かと「愛」にまっすぐな男。
馬鹿というよりは、「変な人、掴めない人」と思っていたが、最後まで見終わると、実はこの中で思考や言動が一番冷静でマトモなのは彼なんだと気づく。人は見かけにはよらないのだ。

セリフ・言葉選び

脚本のKAƵMAさんが「今回はセリフにこだわった」と仰っていたように、今回は一言一句しっかりと聞き取りたくなる作品だった。

特に、ガイ・ウッド・ゴッドの不自然な言い回しにそのこだわりを感じた。
そして、キャラクターによってその不自然さもバラバラなのが細かいキャラクター設定に繋がっているんだなと思う。

ガイ・ウッド・ゴッドのセリフ

ガイのセリフは文法的に不自然なことが多い。
もう~笑ったりしないでよ」と言っているけれど、例が1つの時は「たり」は本来使わないし。千穐楽後に仰っていた、「変な心配の仕方をお前はするね」も語順が不自然。

ウッドは「今、詐欺に遭っている最中だと思ってました」と相手に向かって堂々と言ったり、初対面の人に大声で「ダレ!?」と言ったり、マナー的に不自然なセリフがあり、

ゴッドは「慶應大学に入って勉強を頑張ってやっていた男」、「甘くて赤いゼリーのようなものが真ん中にあるクッキーが入った缶」など、回りくどくて不自然な表現が多い。

加えて、ガイとウッドは「信じていいんですか?」の質問に「お願い!信じて!」と返すなど立場が勝手に入れ替わったり、「本当だったんだね、ゴメン、許してくれたっていいじゃん」など、相手はまだ何も言ってないのに、早とちりしすぎてセリフが先走っていることもあって、そのちぐはぐした感じも面白かった。
それでもって「動揺の1ページ目」とか、「ジェンダーレスが謳われる時代」とか、たまに知識のある表現を使うのも特徴的。どこかで聞いたフレーズをそのまま覚えたんだろうな。

それから、フィクションでは聞くけれど普段日常会話では使わない表現が入り混じっているのも面白い。
全くわからないことを「てんで(わからない)」と言ったり、キレたときに相手を「ウジ虫め!」と罵ったり。不自然なセリフだけど登場人物は誰も弄らない。今回の舞台は日常と非日常が入り混じる特殊な空間だなと思う。

因みに一番好きなセリフは、ウッドの「警察に厄介かける?」という言い回しと、
フラットがガイに2回挨拶された時の「お前さっき言ったよ」のナチュラルに嫌な奴の言い方だった。

杉原の「愛の格言」

「愛は見返りを求めてはならない」

ウォーターに向けて

「愛されることを諦めてはいけない」

フラットに向けて

冒頭、ウォーターとフラットそれぞれに初めて会ったときに放たれた、杉原の格言。

ピンスポが当たって舞台上に杉原しかいないように見せてから言うので、独り言なのか、心の声なのか、とにかく相手に向かって言っているのではないだろうと思うけれど、唐突すぎる展開に「何が??」と思う。

でも、最後まで見てから改めて聞くと、それぞれへの忠告なんだとしっくりくる。

「愛に溢れている。ただ、その愛を受け取る受け皿はあるのか」

このジムと決別したウォーターに向けたセリフ。これも直後のシーンのウォーターの姿を知ると意味が分かる。

裏切りの連続

毎回、物語の展開が予測できないどころか、想像の範疇を簡単に超えてくるのがメトロンズの魅力の一つ。
今回は特にそれが多かったようにも思う。

序盤のゴッドの「お金がない訳じゃないんだ」というセリフ。
しつこくなる程繰り返されるから「今回は経営難のジムを立て直す話?」と思ったが、この先お金の話はほとんど出てこない。
なんであんなにしつこく言っていたんだろう、と思うけれど、予想と違う方向に転がっていくストーリーに目を奪われた。

それから何と言ってもジムのメンバーを眠らせるシーン。
思い通りいかない時、ゴッドはキレかけるのをグッと堪えて奥の部屋に消えてゆくので、もしかしたらゴッドは癇癪持ちなのかもしれないなと思っていたが、まさか「皆がうるさい」という理由だけであんな行動に出るとは。
第2回公演以来のハードボイルドな展開。私は好き。

少しずつ登場人物の思惑がうごめいて、日数が経つにつれて噛み合わなくなってきたジム内での歯車が、調子を完全に狂わせた瞬間がこのシーンだと思う。

30日目

今作は「⚪︎日目」と毎日少しずつ話が進んでいくのが創世記みたいだなと思った。
馬鹿や性格に難のあるキャラクターたちが友情を作り出す物語。
1日目、2日目、と毎日順調に進んでいって、7日目・8日目で歯車が狂って、いきなり30日目へ。

ウッドの変化

20日余りの間にウッドとガイには彼女ができて念願の「プレイボーイ」になり、ゴッドは失踪したまま。
プレイボーイになったウッドは服装も喋り方もマトモになっていて、よく言えば成長したし、悪く言えば個性が消えた。
それにしても、たった3週間ほどで2人に彼女をつくらせた水口メソッドがすごい。

ウォーターの本性

そしてこの間に驚異の変貌を見せたのが、ウォーター。
8日目まではフラットの思惑やそれによるゴッドの暴走の被害者だったので、早々にSUPER GYMと決別するのも頷ける。

しかし30日目の彼はこのジムの人々のことは忘れ、「友達(ウッド)」との友情を深めるために「友達(ガイ)」を監禁したうえで、「ここまでして僕はお前と仲良くしたいと思ってるんだよ」とウッドに微笑む。

ガイに対しては「ゴハンはあげている」とまるでペットのように扱い、「友達にするには竹下(ガイ)は馬鹿すぎる」と切り捨てているところも含め、少しずつ彼の狂気性が垣間見えてくる。

その上で、ウッドに対してキレるシーンのセリフに彼の本性の全てが集約されている気がした。

「僕がいなかったら彼女を作るどころか、ずっと馬鹿にされ続ける人生だったんだぞ!まず『ありがとう』だろうがよ!!

8日目まではガイとウッドを馬鹿にしていたフラットを否定していたウォーターだったけれど、心のどこかで2人を馬鹿にしていないと、こんなセリフは出てこないはず。
ウォーターは人畜無害に見えたけれど、それはあくまで上辺だけだったんだろう。

ウッドはこの20日余りで「人が変わった」が、ウォーターは「化けの皮が剝がれた」。それが見てとれる、それぞれの30日目。

衣装

今回も、服装に登場人物それぞれの個性が出ていて、毎度毎度細かいところまでこだわりが素敵。

服装・髪型

ジムではエアロビの服装(?)で、普段着はバイクを持っていないのにバイク乗りの恰好、という独自センスのガイとウッド。
普段着の色が地味だからこそ、蛍光色(しかも色の組み合わせも奇抜)のトレーニングウェアの異質さが際立つ。
そしてずっとウッドの普段着のツナギの裾が、ロールアップしているのにまだちょっと長くて、ツメの甘さもなんだか「馬鹿なキャラ」を上手く強めているような気がした。

衣装とは違うかもしれないけれど、個性を強調させていたのがゴッドの独特の髪型。
別に邪魔な量でもないのに、頭頂部周辺の毛束をピョコっと結った謎のヘアスタイル。角度によってはその毛束の影が揺れているのが見えて滑稽だった。

足元

それから、衣装で一番感動したのが普段着の時の彼らの「足元」。
例として一番わかりやすいのがウッドで、「馬鹿」の時は白い靴下、「プレイボーイ」の時は黒い靴下にスリッパでSUPER GYMにやってくる。

また、ウォーター・フラットは毎回黒い靴下を履き、30日目のウォーターと初登場時のフラットはスリッパ有りで、彼らの互いの思惑によってモメはじめる6日目はスリッパ無し

靴下の色はその人が馬鹿かどうかを示し、スリッパの有無はその人の本性やエゴが隠れているか表れているかを示している隠喩ではないだろうか。

その他、小さな感想

▼共感したセリフ
今回一番共感したセリフはゴッドの「誰が真人間なんだ!?」
思わず客席で頷いた。で、多分、真人間はここにはいない。

▼「更衣室はこっちだ」
2人して間違えるほどの何が客席側にあるんだろう、とこのジムの全体像が気になった。

▼2人組で背中合わせになるトレーニング
「ずっと下がいい」というガイ。果たしてそれって効果あるんかな…

▼ウッドとパソコン
両手の指1本ずつでタイピング、からのデリートの連打に笑った。
そもそも動画を再生するだけなのにログインが要るってなんのツール使ってんだよ、と気になったし、再生までに恐ろしく時間がかかっているのに削除は一瞬でできちゃうのも何でなん、と思った。

▼晴れと水不足
なんでガイは「晴れ」で真っ先に「水不足」が気になるんだろう。
複雑なのか単純なのか、どちらともとれる彼の思考回路が気になる。

▼デートシミュレーション動画
ミスや無駄な加工が多くてめちゃくちゃ面白い。「エクセル」が二回出るとか、「散歩」のテロップの出方とか。
あと、「夜の映像入れます」の時にガイがゴッドに頭を下げてたのが見えて、その細かい演技もよかった。
ゴッドの大量の感想文、読みたかったなあ…

▼セブンイレブンとファミリーマート
作中でコンビニに行こうとジムを出るシーンが2回あるが、なんで2回とも店舗名を言ったんだろう。それぞれ、ぴあとFANYのチケット発券ができる店なのは考えすぎ?

▼初めて敬語を使うフラット
ゴッドが自分のガスで眠ったことを知ったとたん「あのお方は奇跡の馬鹿だ!」と敬語を使い始めたフラット。
「馬鹿」に対しての一途さが出てるなと思った。

▼「ただツルツルになって戻ってきやがって!」
KAƵMAさんのスキンヘッドは事前には知っていたけれど、それでもやっぱり生で見たら衝撃だったので、ゴッドのこのセリフは「なんだこの髪型!!」という違和感を代弁してくれている気がした。

“SUPER GYM”という存在

戻りたいと思う場所

ウォーターと共にSUPER GYMとは決別したものの、「あのジムに戻りたそうにしていた」というウッド。
ウォーターは彼のためにSUPER GYMと全く同じ部屋を地下に作ったが(それも狂気)、それでもあのジムに立ち寄っているので、ウッドが戻りたかったのは、環境・空気・人、諸々含めた「SUPER GYM」なのである。

そして監禁されていたガイとウッドが再会するシーンでのセリフ。

ウッド:「なんか昔に戻ったみたいだ」
ガイ :「変なこと言うなよ、今は昔じゃなくて今だよ」

ウッドはよっぽど序盤のSUPER GYMが楽しくて、それを失ったことが悲しかったんだろう。
そんな彼に向けたセリフとしては、ガイの言葉も頓珍漢なようで深い。

楽しい時間は突然姿を消し、「SUPER GYM」がもう二度と手にできない過去になったとわかってからその存在の尊さを思い知る。
そしてまた「昔のような時間」がやってくるが、それは「昔」じゃなくて「今」。また昔を繰り返して突然終わるなんてことはなく、この先も続くから安心して
そう伝えているように感じた。

魅力

では、SUPER GYMの何がそんなに魅力的なのか。
答えは31日目のシーンにあったような気がする。

ゴッド・ガイ・ウッドは冒頭と同じく、真っ直ぐ馬鹿のまま。
ウォーターも彼らの友情に踏み込めないと気後れすることなく、一緒に馬鹿なことをして。
そして、無理せずありのままの自分の姿を(歪んだ形でとはいえ)、愛してくれている人がいて、そこには杉原も納得の愛がある。

彼女はできたけれど、自分を押し殺して得た「念願のプレイボーイの姿」を愛してくれる人よりも、馬鹿なまま、素のままの自分を愛してくれる人がいる環境。それがSUPER GYMの一番の魅力だったのだ。

「プレイボーイは災いしか呼ばない」という杉原のセリフ。
モテようと無理して背伸びしてもそれは長続きしないぞ、ということなのかなとも思う。

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作品分析をしすぎてしまうのか、いつもなかなか上手くまとめられないけれど、今回も魅力的な作品でした。

次回は7月。
今作はチケット販売日も早かったし、土日のチケットが早々に売り切れてうれしい反面、盛大な予定調整が必要な遠方勢にはチケット取りが難しくなってきたなと思ったり。また夏にあの場所に行けるよう、祈るばかりです。

でも、いつかチケットが取れなくなるまで追いかけ続けたいし、
そうなったら次は配信と、全国を巡ってくれるのを待とうと思います。

ああ、楽しみ。7月まで頑張ろう。




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