若さと前向き

 新入社員がバシバシと金のこととか聞いてくる。
 役職ついたらどれくらい上がるんですかとか、この手当ってどういう内容なんですかとか、基本給低すぎません?とか、税金でどれくらい給料引かれるんですかとか。
 いやもう強い。若さは強さだわ。俺に答えられることは答えるけど、知らないことは知らないし、ありえなくね?みたいな反応されても、こっちもありえねえと思いながらなんとか飲み込んでやってるから、どうしようもないだろとは思う。税金のことなんかは国に聞いてくれ。むしろ君が改革していってくれ。
 なるべく接しやすい先輩みたいな立ち位置で接してるからまあ色々言いやすいのかなとは思うけども、それでも俺が入りたてのときは金のことなんて怖くて聞けなかったけどなあ。若さってすげえわ。いやまあ今でも他人の給料事情とかだいぶ聞きづらいよ。別に隠したりしてるわけではないけどもさ。一応聞かれたりするのが嫌な人もいるだろうからデリケートな話題として扱うようにはしてる。僕自身は別にどうでもいい。

 そうやって強制的に今の現状を洗い出されていくと、なかなかな現状に身を置いているのかもと心配になってくる。いやまあでも辛いってわけではなく、条件として良くないって感じなんだよな。結局大事なのは何?って考えたとき、お金とかやりがいとか休日数とかワークライフバランスとか、人によって色々あるんだろうし、自分は一番どこを大切にしたいって考えたとき、結局は楽さじゃないかと思ってる。
 だって楽して生きていきたいし、楽してお金欲しいもん。世の中にはその楽のために死ぬ気で働く人もいるけど、そんなもん楽じゃねえじゃんとは思うよね。
 楽っつうのは出だしから楽しなくちゃならん。必死こいて働いて手にい入れたらそれはもう楽してないよ。一生懸命働いて手に入れた正当な対価だよ。俺は楽して不当な対価をいただきたいのだ。努力はしない。辛いことからも逃げる。責任は負わない。

 キラキラでイケイケな目標や目的、思想や嗜好がもてはやされて、こういう漫然とした生き方っていうのは否定されがちだけども、俺以外でも全然いると思うけどな。むしろそういう人間のほうが多いとさえ思う。だってお前ら本当に生きがいとか真剣に考えてんの?日々の自分のスキルアップとか、自分磨きとか、本気でやってんの?マジで?どうかしてると思わないの?
 前に進むことが善で、後ろを向いたり俯いたりすることが悪みたいな、悪とは言わないがいけないことみたいな、そういう大きな流れに乗って最終的に肌に合わなくて全身倦怠感まみれになるやつが一定数は絶対いるのだ。差別をなくせなんて声を上げるんだったらこういう思考の強制みたいな部分も声を上げてくれ。

 ただ、一定に前を向かないと生活自体ままならなくなるってのも事実なので、結局どんだけ後ろ向き人間でもやりたくないことをやるときは来るのだ。生活という安寧を手に入れる代わりに自分の何かを差し出す時が必ず来るのだ。逃げて逃げて逃げ続けても逃れられない選択は訪れる。
 だからこうして嫌なことから背を向けて逃げるっていうわけではなく、目を背けてある程度波に飲まれてるのだ。そのまま選択の時を先延ばしにしたり、もっとも軽いタイミングで選択を迎えられるようにするのが、後ろ向き人間の人生を生きるってことだ。

 そういえば新入社員が強いって話だったわ。
 こういうズバズバいうやつなのか気遣いを知らないやばいやつなのかはわからないが、「強い」ってのはある意味うらやましい。
 周りが折れるのだから本人は無傷でたっているだけでいい。自覚はきっと数年後だ。
 でも、そういうピュアな目線はただただ羨ましい限りだ。 

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