第65夜 早蛍
何故急ぐ
ゆっくり時を刻みたいのに
東勝寺橋からの水面はすっかり木々に覆われ
5月であるのにすでに初夏の陰影
君たちまで舞い始めたのでは時が進んでしまう
告げられた余命はふた月
振り返るばかりの日々
それでも進む
記憶には音はない
君たちのようにあっちに飛び点滅する
静かに
呼べど
迎えど
念じれど
手を差し伸べれど
君たちはこちらにはやって来ない
寝着のまま
裏の滑川に出てみたものの
小糠雨に引き返す
私はこれまでとしよう
君たちまた夢で会おう
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