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ライフ・イズ・ビューティフル

[ネタバレ含みます]

公開 : 1997年12月20日
監督 : ロベルト・ベニーニ
ジャンル : ロマンス・戦争

ホロコーストを描いた作品。
前半のコメディ調の多幸感溢れる物語からの収容所に収監される過程の精神的ダメージがえげつなかった…。


父のグイドは不安と過酷な労働に置かれる状況下で息子を最後まで不安にさせずに身を犠牲にしてまで守りきる。ホロコーストの惨忍さを描きながらもユーモアを上手く織り混ぜる脚本と演出が本当に秀でていた。
一番印象に残っているのは「子供はシャワーを浴びると言われガス室へ誘導される」と聞いた時の母のドーラの表情。横顔は外を見つめる憂いを帯びた表情なのに、ガラスに映る半顔は息子の死を突きつけられた絶望の表情をしていた。恐らく時代的に考えてCG処理ではなく実際の演技だ。この一瞬の画にホロコーストで犠牲となった家族の失意が込められているようにも感じた。

ホロコーストと言えば、私の中ではボルタンスキーの印象が強い。彼の作品を通して何となくそういうものが存在して、信じられない殺戮が行われていたという知識しかなかった。こうして映像として再現されるとリアルに当時の状況や人々の心情まで伝わってくる。これは子供も見れるようにとデフォルメされたホロコーストだろうが、現実はもっと惨忍で悲惨な状況だった事だろう。
人々の衣服が山のように積み上がってるシーンはまさにボルタンスキーの作品を思い出した。衣服の数だけその裏側には人間の命があり、粗雑に扱われゴミのように処分されたことを暗示させる。

そもそも、なぜナチスによるユダヤ人の迫害が行われたのか?軽く調べてみたが、その原因は様々な要素が複雑に絡み合っているらしい。ユダヤ人の定義もよく分からなかったのだが、簡単に言えばユダヤ教の信者ということらしい。なので白人にも黒人にもユダヤ人は存在する。人種というよりコミュニティの総称なのかもしれない。ヨーロッパ全土には元々古代〜中世にかけて反ユダヤの傾向があったようで、それはキリストを十字架に架けたのがユダヤ人であるという俗説などから来ているようだ。キリストに従った使徒はユダヤ人だったことから、神に選ばれた民「選民」とユダヤ人を呼ぶこともあったそうだが一転して差別の対象になってしまったようである。その風潮をナチスの恐怖政治で利用したという説もあったとか…
今作で迫害の種として描かれているのは「優れた民族」を熱弁するシーンだろう。本来民族に優劣など無いはずだがこのような偏った思想がユダヤ人を劣った民族と位置付け、恐るべきジェノサイドへと導いてしまったのかもしれない。
そして強制収容所では頭のおかしい医者たちが倫理観を無視した個人の知的好奇心の探究や軍事医療のためと称して非人道的な人体実験が数多く行われたらしい。恐らく、知り合いの医者が救世主かと思いきやなぞなぞに魂を抜かれた木偶の坊だった描写はそれを揶揄している。


負の遺産を後世に伝える作品はこの他にも世界中に沢山あるはずなのに現代のこの瞬間にも民族迫害が行われている。そんな事実があっていいのか?学習能力のある人間ならもう2度と繰り返してはならないと理解できるはずだ。ましてやこの作品は子供でも理解できるように作られている。
ジェノサイドに手を染める人間たちがこの映画を見たら一体何を思うのだろうか。

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