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風邪と、買い物と、ファーストバイト

半年間の育休をとっている。

育休に入ってから、毎回の食事を作っている。一人暮らしの食事なら適当で良いが、出産直後かつ授乳中の妻と、1歳の息子の食事となるといいかげんなものを作るわけには行かず、毎回バランスと量とを考慮しながらエネルギーを費やして作っている。それもなんとかそろそろちょっとは慣れてきたかなという頃、上の子が風邪を引いて熱を出し、妻もうつってダウンした。

すると、買い物に行けない。風邪をひいた上の子を連れて、寒い店内のスーパーに行くわけにいかない。妻と一緒に留守番していてもらうわけにもいかない。妻は風邪を引いている以前に出産後で体力も回復していない上に3時間ごとに母乳を与えるため常に睡眠不足である。そんな妻に、イヤイヤ期真っ最中の息子を任せるわけにはいかないのだ。

家にある食材で耐え抜くしかない。

通常3日おきくらいで買い物に行っている。つまり3日くらいで食材が足りなくなってくるということだ。その3日がたった。しかし妻も子も回復しきらず、まだ買い物に行ける状況ではない。

幸い、本当に幸いなんだが、前回の買い物で見誤って色々買いすぎた。色々というのは、主に、豚肉、玉ねぎ、人参、小松菜である。そして、さらに本当の本当に幸いなのだが、そろそろ作り置きを試していこうと思ってヒジキと、切り干し大根をそれぞれ煮て冷蔵庫にストックしたばかりだった。常用している冷凍ブロッコリー、冷凍かぼちゃも頼もしい。

それでも日に日に、冷蔵庫の中身は減っていき、1人暮らしの時でも見たことないくらい空っぽの状態になっていった。食べ物がなくなるという、さも兵糧攻めにでもあっているかのような恐怖に怯えながらもそれを妻に悟られないようなんとか平静を装い続けた。動物性、植物性を毎食欠かさないよう、素人ながらにバランスを考えて作り続けた。

この時、記憶の底から突如湧き上がったのが、結婚披露宴でのファーストバイトのことである。
「食べるものに一生困らせない。」
ファーストバイトが意味する誓いを、司会者は朗々とそう説明していた。私はスプーンのひとすくいによってそれに応じた。今のことか。今のこの状況を乗り越える事を私は誓っていたのか。食糧危機の恐怖に屈せず、量にもバランスにも文句のない食事をテーブルに並べ続ける事を、私はあの時に誓っていたのだ。いまふってわいた義務などではなく、結婚するときに契った使命なのだ。
「食べるものに一生困らせない。」
なんというジェンダーレスな誓い。

改めて使命感に燃え、買いすぎや作り置きが功を奏したのもあり、なんとか息子が回復するまで食糧は持ちこたえ、かたよりなく食事を作り続けることができたと思う。息子の回復が見られた時には飛ぶように買い物に出かけた。

ファーストバイトでの新婦の誓いは「美味しいものを一生作る」と司会者は説明していた。つまり私は、美味しいかどうかまでは誓っていないのだ。味の保証はしなくて良い!これは本当の本当の本当に幸いであった。

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