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賃金格差より大きい?男女の「気持ちいい」を左右するプレジャーギャップ

「気持ちいい」とよろこべる瞬間は、男女間で平等ではありません。

過去1年間で、セックスを楽しくないと感じたことのあるシス女性*1の数は、シス男性の4倍にも及びます(Herbenick et al, 2010)。また、パートナーとのセックスでオーガズムに達する頻度は、シス女性と比べてシス男性の方が20~50%ほど高いのが現状です(Laumann,1994; Lloyd,2005; Herbenick et al.,2010)。あまり注目されませんが、これは賃金格差よりも大きな数字と言えます。

*1 「シス(cis)」とは、その人の性自認が、生まれた時の生物学的性と一致することを意味します。「トランス」ジェンダーの対義語です。

1998年に「私たちが知っているクリトリスは、氷山の一角に過ぎない」と提唱した、オーストラリアの泌尿器科医ヘレン・オコネル。彼女はMRIを使ったクリトリスに関する画期的な研究を主導し、2005年にその実態を発表しました。従来考えられていたクリトリスとは、性器の外側に付いている敏感な「小さいボタン」のようなもの。しかし、オコネル氏の研究によると「ボタン」はクリトリスの一部にすぎず、実際には8000本以上の神経から成り立つ、もっと大きな組織だといいます。なんとその数は、ペニスにある神経のおよそ倍にも相当します。

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外側からボタンのように見えているクリトリスの「頭」は、長さ2~4cmの三角形のボディと繋がっています。そして、そこから二股に分かれた最長9cmほどの「腕」が伸びています。また、三角形のボディからもう一つ、膣口を包み込むように佇む2つの球状の組織が生えています。この組織は「腕」の間に挟まれており、ペニスでいう尿道海綿体に値するものです。

私たちが「気持ちいい」と感じうるのも、これらの神経のおかげ。およそ75%もの女性が「オーガズムとその質の向上のためにクリトリスの刺激が必要である」と答えた研究結果も存在します。(Herbenick et al., 2018; Wade et al., 2005)。

対して、クリトリスの潜在能力を引き出せている人は、ほんの一握り。一定数の男女がクリトリスに刺激を与えることの重要性を理解している一方で(Salisbury & Fisher, 2014)、「ペニス挿入中にオーガズムを経験したことがない・経験しないことがある」シス女性の数は相変わらず過小評価されています(Laumann et al., 1994; Shirazi et al., 2018)。さらに別の調査によると、女性*2の60%近くが「オーガズムに達したフリをしたことがある」との結果が出ています(Ellsworth & Bailey, 2013)。そのような要因から、(シス男性の間で)「女性は挿入だけで心を揺さぶるオーガズムを経験できる」という神話がますます広まっています。

これこそがプレジャーギャップの実態です。

*2ここでは女性と表現しましたが、正確には陰唇・膣口を持つ方(生物学的な女性器を持つ男性含む)を指しています

プレジャーギャップは誰の問題?なぜ起こるの?

2018年に心理学者のBlair, Cappell, Pukallが行った調査によると、多くの異性愛者のカップルが「セックスでオーガズムを得られない」と答えたのに対し、クィアカップル*3には同じ傾向が確認されませんでした。この差の要因の一つとして、クィア女性はパートナーの気持ちだけではなく、自分のプレジャーも同時に尊重させているから、といった点が挙げられています(Goldey et al., 2016)。

*3 「クィア」は異性愛者・シスジェンダー以外のセクシャル・マイノリティを指す包括的な表現です。

ただ、ここで誤解したくないのは、オーガズムが「プレジャー(気持ちよさ)」の全てではないということ。一般的に、異性愛者のシス男女は、自身のオーガズムよりもパートナーのオーガズムを優先させがちです。皮肉にも、これが「自身の」オーガズムを損なうことに関係しています。オーガズムをセックスでの唯一のゴールと考え、それだけに集中してしまうと、「上手く立ち振る舞うこと」にプレッシャーを感じて、パートナーのためにオーガズムを偽装しなきゃ、と感じてしまうのです(Goldey et al., 2016; Fahs & Swank, 2017; Opperman et al., 2014; McClelland, 2011)。

また、同じオーガズムでも時と場合によって「気持ちよさ」にムラがあります(Herbenick et al, 2018)。クリトリスの刺激、興奮を感じるまでの時間、自分の好みを知っているパートナーの存在など、オーガズムの質に影響を与える要因は様々。セックスとオーガズムを心から楽しむには、官能的な要素だけでなく、相手との心身の繋がりを培っていくことが欠かせません。体のパーツ、触れるときの強さ、触り方やそのパターンなど、「気持ちいい」にたどり着く地図を自ら描き、探索していくことが求められます。

じゃあ、ギャップを埋めるには?

クリトリスを主役に
膣内への挿入だけではなく、クリトリスへの刺激を加えることでオーガズムに達しやすくなります。およそ4人に3人の女性*2が、オーガズムとその質の向上のためにクリトリスの刺激が必要であると答えています(Herbenick et al, 2018; Wade et al, 2005)。一般的には、強すぎない程度にクリトリスまたはその周辺に触れるのが「気持ちいい」を引き出しやすいと言われています。中でも、一定のパターンで上下左右に指でなぞってみたり、円を描いてみたり、といった動きが特に好まれています(Herbenick et al, 2018)。

ストレスを溜めない
ベッドルームで起こることだけがセックスに影響を与えるわけではありません。「次の会議のスライド終わってたっけ?」「子供のお迎えに遅刻しないかな?」「夜ご飯のお皿まだ洗ってない...」「改めて見ると脚が太いな...」など、様々なことをセックスに持ち込んでしまいがちです。

いま、その瞬間に神経を研ぎ澄ませられるか否かが官能的な体験の質を左右します。脳と体、心は切り離して議論できません。ひと呼吸おいて、リラックスし、五感に集中することで体も自然とそれについてきます。

自分のスイッチのオン・オフを知る
2015年に出版されたエミリー・ナゴスキーの著書『Come As You Are』によると、女性*2は、一般的に「アクセル」(興奮のスイッチ)に比べて、「ブレーキ」(萎えるスイッチ)を踏ませる引き金に、より敏感とのこと。アクセルを踏むだけではなく、そのブレーキを取り払うことが、セックスを楽しむためのコツと説いています。「セックスはこうあるべき」といった誤った正解から自分を解放し、「自分には何が合うのか」に焦点を当ててみてください。

セルフプレジャーで自分の「気持ちいい」を探る
矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、相手ではなく「自分のために」オーガズムを捧げることが「気持ちいい」への近道です(Goldey et al., 2016)。女性の95%がセルフプレジャー中にオーガズムを経験しているというデータもあるほど。『OMG Yes』など、具体的なセルフプレジャーの方法を学べる実践型の性教育サイトも登場しています。

視覚的な情報を導入する
視覚的情報も、自分の体験を形づくる大きな要素の一つです。もしアダルトビデオを観ることで自分の体に劣等感を感じたり、罪悪感が勝ったりする場合は、他の方法を試してみてください。もしビデオが自分にあっているようであれば、どんどん積極的に取り入れるのもアリです (Nagoski, 2016)。

プレジャーアイテムを使ってみる
プレジャーアイテムを取り入れてみるのも一つの手。指にフィットし、自分の手の一部のように使える『Fin』や、パートナーとハンズフリーで一体感を保ちながら使える『Eva II (2)』、あらゆる体のラインにフィットする柔軟性を帯びた『Pom』など、ひとりでもパートナーとでも楽しめる製品がたくさんあります。自分の相棒になるようなプロダクトと一緒に「気持ちいい」にたどり着く地図を自ら描き、探索していくことで、パートナーとのコミュニケーションも円滑にできるようになります。

パートナーを巻き込む
「自分の体やセックスの好みをパートナーに伝えること=苦痛/気まずい」って認識、捨ててみませんか?遊びゴコロや好奇心に満ちた態度で話せば、プレジャーの話もより楽しくなるはずです(Perel, 2006)。ふたりでじっくり、ふたりなりの「気持ちいい」を研究してみましょう。

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このプレジャーギャップの実態を受け、二人の女性が立ち上げたのが Dame Products。従来のプレジャーアイテムは女性の体の仕組みよりデザイナーの意見が優先されたり、男性だけに主導権があったりするものが多く、その場に馴染まないデザインがふたりの一体感を損なうことも多かった一方で、Dame は徹底したユーザーリサーチを元に「女性が本当にほしいもの」を作っています。

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fermata は誰もが自分なりの「気持ちいい」を楽しめる世界を創るために、7月末にかけてセクシャルウェルネスのコンテンツを週一ペースで配信します。セルフプレジャーからベッドでのコミニュケーションまで、様々なトピックをカバーする予定です。乞うご期待!

最新情報はこちらで更新しています🕊: https://twitter.com/hello_fermata

この記事は Dame Products が自社ブログ『Swell』に掲載した記事『What is the Pleasure Gap?』を、fermata が Dame Products の許可を得て翻訳したものです。(訳:Haruna.K) // This post is a translation of the article, "What is the Pleasure Gap?", originally published by Dame Products. In producing this post, fermata translated it with permission from the author (Dame Products). 

< 参考文献 >
・Blair, K. L., Cappell, J., & Pukall, C. F. (2018). Not all orgasms were created equal: Differences in frequency and satisfaction of orgasm experiences by sexual activity in same-sex versus mixed-sex relationships. The Journal of Sex Research, 55(6), 719-733.
・Ellsworth, R. M., & Bailey, D. H. (2013). Human female orgasm as evolved signal: A test of two hypotheses. Archives of Sexual Behavior,42(8), 1545–1554.
・Fahs, B., & Swank, E. (2017). The Other Third Shift?: Women’s Emotion Work in Their Sexual Relationships. Feminist Formations, 28(3), 46–69. https://doi.org/10.1353/ff.2016.0043
・Goldey, K. L., Posh, A. R., Bell, S. N., & van Anders, S. M. (2016). Defining Pleasure: A Focus Group Study of Solitary and Partnered Sexual Pleasure in Queer and Heterosexual Women. Archives of Sexual Behavior, 45(8), 2137–2154.
・Herbenick, D., Reece, M., Schick, V., Sanders, S. A., Dodge, B., & Fortenberry, J. D. (2010). Sexual behavior in the United States: Results from a national probability sample of men and women ages 14–94. Journal of Sexual Medicine,7(Suppl. 5), 255–265.
・Herbenick, D., Fu, T.J., Arter, J., Sanders, S., & Dodge. B. (2018). Women’s Experiences With Genital Touching, Sexual Pleasure, and Orgasm: Results From a U.S. Probability Sample of Women Ages 18 to 94. Journal of Sex and Marital Therapy, 44(2), 201-212.
・Laumann, E.O., Gagnon, J.H., Michael, R.T., & Michaels, S. (1994). The social organization of sexuality: Sexual practices in the United States. Chicago: University of Chicago Press.
・Lloyd, E. A. (2005). The case of the female orgasm: Bias in the science of evolution. Cambridge: Harvard University Press.
・McLelland, S.I. (2011). Who is the “self” in self reports of sexual satisfaction? Research and policy implications. Sexuality Research and Social Policy, 8, 304-320.
・Nagoski, E. (2015). Come as you are: the surprising new science that will transform your sex life. New York: Simon & Schuster Paperbacks.
Opperman, E., Brain, V., Clark, V.. & Rogers. C. (2014). “It feels so good it almost hurts”: Young adults’ experiences of orgasm and sexual pleasure. Journal of Sex Research, 51, 503-515.
・Perel, E. (2006). Mating in Captivity. Unlocking Erotic Intelligence. New York: HarperCollins Publishers.
・Salisbury, C. M. A., & Fisher, W. A. (2014). “Did you come?” A qualitative exploration of gender differences in beliefs, experiences, and concerns regarding female orgasm occurrence during heterosexual sexual interactions. Journal of Sex Research,51(6), 616–631.
・Shirazi T., Renfro, K.J., Lloyd, E. & Wallen, K. (2018). Women’s Experience of Orgasm During Intercourse: Question Semantics Affect Women’s Reports and Men’s Estimates of Orgasm Occurrence. Archives of Sexual Behavior, 47(3):605-613.
・Wade, L. D., Kremer, E. C., & Brown, J. (2005). The incidental orgasm: The presence of clitoral knowledge and the absence of orgasm for women. Women and Health,42, 117–138.


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