子供の頃の思い出

子供の時の思い出の中で「あの時は凄かったなぁ……」と思う思い出がある。
私が小学校低学年くらいの話だ。
私には三歳年の離れた姉がいる。
兄弟や姉妹がいる人で、なおかつ上に兄弟がいる人ならわかるかもしれないが、学校で流行っていて、同級生にされたどっきり系のいたずらを家に帰って下の妹や弟へ行うという、学校からいたずらを輸入する儀式があった。

私もそのいたずらを輸入された経験が何度もあり、小学校低学年の時は姉からのいたずらを頻繁に受けていた。
そのいたずらのひとつに、いきなり相手の顔に指を指して
「あっ! 鼻血!!」
と驚いた声をあげ、それに対して言われた方が驚く、というなんとも微妙でくだらないいたずらがあった。

当時このいたずらを姉から頻繁にされたのだが、まだ子供だった私は何度も同じいたずらをされて引っかかっていた。
流石に何度もされると引っかからないだろうと思われるだろうが、私は子供の頃かなりの頻度で鼻血を出していたのである。

何もしなくても突然鼻血が出ることが多く、歩いている時、寝ている時、信号待ちで立っている時……。
色んな場面で鼻血を出していたのだ。
鼻の粘膜が薄かったのかわからないが、毎月は平気で出ていた気がする。
何もしてなくても突然出ていた状態は今思えば異常だ。
成長するとともに鼻血は出なくなっていたが、今思えばなぜ子供の頃はあんなに鼻血を出していたんだろう……。

姉からの「あっ! 鼻血!!」という驚きの声を、毎回真に受けては笑われることが続き、私も一緒になって笑っていた。
そしてこのいたずらが日常の定着となりつつあった頃だった。

ある日私が友達の家に遊びに行っていた日に、姉が友達の家まで迎えに来てくれた。
友達の家は私の家から近く、歩いて行ける範囲にある。
姉が迎えに来てくれたので、二人で歩いて家に帰る時だった。

私は姉に今日学校であったこと、友達の家で何をして遊んだかとかを話していたと思う。
姉は途中でいつもの「鼻血!!」というどっきりを言い、私はちょっとびっくりしたが、「またか」というスタンスで流したのだ。
いたずらを交えて家まで笑いながら歩いて帰っていたのだが、家の付近に近づいた時だった。

「おい!!!!! ぽにゃにゃにゃん!!!!!! 鼻血!!!!!」

今までにないくらいに驚いた顔の姉が叫んだ。
迫真の演技で、いつもの「鼻血!!」のいたずらをしてきたのだ。

さっき一回「鼻血!!」コールは発令されているので、二回目は流石にないだろ~と思い「いやいや、引っかからんから~」と、驚きの顔を崩さない姉に対して軽くかわした。

姉「いや!! 本当に鼻血!! ぽにゃにゃにゃん鼻血出てる!!!!!」

あまりにも迫真の演技すぎる……。
使い古したいたずらに引っかからなくなった妹をそんなに驚かせたいのか……。
姉のくだらないいたずらをスルーしようとしていたが、姉は急に立ち止まり

「止まって!! 服見て!!!!!」

と私の肩をつかんだ。
姉に言われるがまま、自分の服を見た。

すると、服が血で染まっていた。
本当に鼻血が出ていた。
それも綺麗にまっすぐに出ていたのか、履いていた靴のつま先まで鼻血で染まっていたのだ。

正面を向きながら肩を並べて歩いていたので、すぐには気が付かなかったが、ふと顔を見たら大量の鼻血を出している妹に心底驚いたのだろう。
姉はかなり焦っていた。
今まで何度も言っていた「鼻血!!」が予行演習ならば、今回は本番となる。
今まで以上の「鼻血!!」と姉は叫べていたと思う。

大量の鼻血は出ていたものの、気が付いた時にはすでに出きって(?)いたために、顔と服には乾燥した鼻血が残っているだけだったのだが、大量の鼻血を出している妹を目の前にした姉が
「上を向いて!! 上向いて走って帰ろう!!」
と、鼻血は出ていないのだが、あと少しで家に着くところで、私は上を向いて走らされた。
実は鼻血が出た時に上を向くというのは、間違った処方らしいが、当時は鼻血が出たら上を向けというのが主流だった。
すでに鼻の中の鼻血は止まっているものの、すでに乾燥してカピカピになった顔で家まで走った。

姉の「オオカミ少年」ならぬ、「鼻血少女」の行動があってからか、この一件以来、姉はもういたずらに「あっ!鼻血!!」といういたずらをすることはなくなった。
あの時どうしてあれほど大量の鼻血を出していたのかはわからないが、仮説を立てるとなると、普段鼻血を出していない時に鼻血が出ているという嘘の指摘に脳が反応し、「鼻血を出さなくては」という脳から信号を受けて鼻血を出したんじゃなかろうか……とすら思った。
異常な頻度の鼻血は成長すると共になくなったが、私の子供の頃の衝撃な思い出の中の鉄臭い記憶だ。

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