見出し画像

【ヘアスプレー】モテるってなんだ#私のスタンディングオベーション


人生で初めて飛行機に乗ったのはいつですか。
私は中学2年生の時でした。行き先はアメリカ。とにかく何でも“大きい”国だと授業で聞いていました。

不安ながらの初搭乗でしたが、機内は快適。エコノミークラス万歳! ラジオは聞けるし、まあまあ狭いけどリクライニングシートだし、食事も非日常的で楽しい。それになにより一人一台のテレビ! スマホはなく、ケータイもごく限られた人しか持っていなかった当時、自分だけの画面があることに興奮しました。思いのほか映画の選択肢も多く、寝る間を惜しんで何作品も観たことを覚えています。

何本も観たはずなのに、何の作品を観たかはほとんど覚えていません。ただ、唯一強烈に覚えているのが、ミュージカル映画『ヘアスプレー』。”BIG”という言葉がやたら飛び交うこの映画、アメリカ行きの機運が高まりました。

#私のスタンディングオベーション は、ミュージカル好きな人達が、それぞれに”思わずスタンディングオベーションしたくなった、大好きなミュージカル作品”について、自由に書いたミュージカル紹介エッセイです。
扱うのは、日本で舞台化した作品・日本にはまだやってきていない作品、映画のみの作品、アニメで有名になった作品など様々。単なる批評や紹介ではなく、個人のエピソードも交えた一種の愛を語っていただきます。

形を変え表現され続ける ハッピーストーリー

(あらすじ)
舞台は1960年代のアメリカ、ボルチモア。歌とダンスが大好きなぽっちゃり女子高生のトレイシー、一番の楽しみは放課後に放送される音楽番組「コーニーコリンズショー」を観ること。流行りの歌とダンスをお届けするショー番組です。人種差別が色濃かった当時、番組は白人デーと月に一度きりの黒人デーとに分けられていました。どちらも大好きだったトレイシー。ある日レギュラーメンバーの募集を知り、一目散にオーディション会場に向かいます。スラリとした白人メンバーたちにばかにされながらも、トレイシーは持ち前の明るさであっという間に人気者になり、やがてテレビで繰り広げられる人種差別にも切り込んでいきます。
アメリカの社会問題をテーマにしながら、天真爛漫な主人公と物語をド派手に彩る音楽・演出で、ノリノリ気分で一息に楽しめるミュージカル作品。

『ヘアスプレー』の物語は、舞台、映画と、さまざまな脚色を加えられながら愛され続けています。
始まりは1988年、ジョン・ウォーターズ監督の映画『ヘアスプレー』。この映画を皮切りに、2002年にブロードウェイでミュージカル化、トニー賞を8部門受賞します。

その後2007年にアダム・シャンクマン監督の映画が日本で公開。ジョン・トラヴォルタの女装姿が話題を呼びました。主人公と恋に落ちる「リンク」を演じるのはザック・エフロン。『ヘアスプレー』上映の一年前、2006年に日本でヒットしたディズニー映画『ハイ・スクール・ミュージカル』で人気を博した俳優です。豪華な顔ぶれは日本で人気になる一助となりました。

その後2007年にはアメリカで、生放送ミュージカル『ヘアスプレー・ライブ!』放送されました。こちらは個人的にお気に入り。画面の中で舞台演劇が繰り広げられますが、テンポよくダイナミックに切り替わるステージに心震えます。瞬きするのが惜しい作品。主人公の親友「ペニー」を演じるアリアナ・グランデの歌声もしびれます。

2020年6月、タレントの渡辺直美さん主演でミュージカルが日本で公演される予定でしたが、新型コロナウィルスの影響で急遽休演となってしまいました。抽選は当たらないし、先着は3分で終了するというチケットの人気ぶり。注目度の高さもあり残念な結果です。リベンジできる日を待ちたいと思います。

物語冒頭の楽曲「Good Morning Boltimore」は、YouTuberのKemioさんが動画の最初に流すお決まりの一曲。自分を愛しながら時代を切り拓こうとするKemioさんと主人公の「トレイシー」は少し通じるものがあるように思えます。また、タレントのりゅうちぇるさんとぺこさんの愛息子は、「トレイシー」の恋人役に由来し「リンク」と名付けられました。


モテる人って、海も世代も時代も越える


この作品、どうしてこんなにウケるのか。
物語・音楽・衣装・演出……。愛される理由はたくさんあると思いますが、なんといっても主人公のキャラクターがよいのです。“ぽっちゃり”というか、正直“太っちょ”な「トレイシー」は、JKという人生一おませな時期にしては珍しく、自分の体型を卑下することがありません。スタイル抜群の美女たちに「デ●!」と後ろ指を差されても気にとめず、「今のあたし最高!」という調子でスター街道をずんずん駆け上がっていきます。

それでも、見る側を置いてけぼりにしないのが、ポジティブなトレイシーとは対照的な大きな体型を極度に気にするママの存在です。トレイシーとパパは「BIGでなにが問題なの!」と、しきりにママを激励します。「美しさ=白い肌・ブロンド・スリム」という常識を真正面からぶち壊そうとする言葉の数々は、ママ=ジョン・トラヴォルタ(ヘアスプレーではママ役を男性が演じるのが鉄板の演出なのです!)や、自信の持てない観客にクリティカルヒットします。

この作品、終盤にかけて物語は最高潮に盛り上がり、見終わってしばらくは余韻でウキウキしてしまいますが、時間が経つにつれ傷口がじわじわ痛んでくるように、強いメッセージが見えてくるような気がします。

…あ、「モテない人」って
自分に自信を「もってない人」なのかも。


おあとがよろしいようで。


■ ここ最近ゆううつな人。日曜の夜とか。
■ 今よりハッピーになりたい人。
■ 自分に自信が持てない人。

KIE

26歳にして未だ友達と交換ノートを回しています。平日はオフィスカジュアルとして、トップス3種とボトムス3種を着回しています。いつか、ワンピースを着て出社したいです。非常に小心者です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?