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【Dear Evan Hansen】孤独でない人はいない #私のスタンディングオベーション

SNS上の人々は、いつだって楽しそうだしキラキラしている。イケてる友達やインフルエンサーの投稿はいつも眩しくて、”こんな世界もあるのかあ”と思いながら、毎日指を滑らせる。
私が思春期の頃は、前略プロフやmixiの全盛期であり、「親しい友達」の「文章」の投稿が主だったと思う。インフルエンサーという言葉さえありませんでした。
だけど、今はTiktok、Instagramなどで「一度もあったことのない世界の裏側の人」の「写真や動画」を容易に見ることができますよね。技術の進歩は目覚ましい。

一方で、よく言われることですが、華やかなSNSにも暗い側面はあって。FaceBookやTwitter、最近ではYouTubeも、自作自演、炎上騒ぎはよくある話になりました。
私のおすすめミュージカル『Dear Evan Hansen』は、そんなSNSに翻弄される少年が主人公なのです。

#私のスタンディングオベーション は、ミュージカル好きな人達が、それぞれに”思わずスタンディングオベーションしたくなった、大好きなミュージカル作品”について、自由に書いたミュージカル紹介エッセイです。
扱うのは、日本で舞台化した作品・日本にはまだやってきていない作品、映画のみの作品、アニメで有名になった作品など様々。単なる批評や紹介ではなく、個人のエピソードも交えた一種の愛を語っていただきます。


主人公の嘘、その中に光る切実さに泣ける!

(あらすじ)
人と接するのが苦手な17歳のエヴァンは、友達もおらず、母親との会話もぎこちない毎日。ある日、「エヴァンは、自殺したクラスメイトの親友だった」と勘違いされてしまったことをきっかけに、彼の交友関係に変化が訪れる。勘違いを否定できず、嘘に嘘を重ねてしまうエヴァンだが、SNSを通じてどんどん話が大きくなっていき…

本作は、2017年のトニー賞(ミュージカル界のアカデミー賞のようなもの)で、ミュージカル作品賞を含む6部門を受賞し、ミュージカル界で一躍話題作となりました。
オリジナルキャストのベン・プラットを主役に、映画化も決定しています。(監督は『ウォールフラワー』(2012)、『ワンダー 君は太陽』(2017)のスティーヴン・チョボスキーなので、個人的にとても楽しみ!)

そんな大人気ミュージカルですが、いわゆる「THE・ブロードウェイミュージカル」と言われるような、ダンスや演出、衣装などの面での華やかさはありません。ダンスらしいダンスはほとんどないし、あっと驚く舞台転換もなければ、キャストの衣装も普段着のまま。もちろんフィナーレでドレスアップすることもありません。(ミュージカルあるある…)
そういった華やかさがない分、大胆で骨太な作品とも言えるかもしれません。

では何がそこまですごいのかというと…!それはドラマ性・物語の力!そして、楽曲の素晴らしさ、です。私は初めてサウンドトラックを聴いた時、話の大筋しか知らなかったにも関わらず、全編聴き終えるまでに何度も咽び泣きそうに。電車の中だったので、かなり変な顔になりながら必死に堪えました…。

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物語には、自殺、離婚、コンプレックス、嘘など、胸を抉るような重たいテーマがたくさん出てきます。そして、主人公「エヴァン」が嘘をつき、それが大ごとになっていく、というストーリーなので、”このままだとまずいよ!”、”いつバレちゃうんだろう”というハラハラ感と罪悪感が終始付き纏います。
みんなの気持ちがわかる分、正直、観ていて辛い場面の方が多いのですが、それでも嘘の中にある真実があまりにもキラキラとしていて、目を逸せませんでした。

一幕終わりの「You Will Be Found」は、自殺した親友「コナー」を忘れないで、と「エヴァン」が訴えかけるスピーチの曲です。自分の感じてきた”忘れ去られることのつらさ”を、死者が忘れ去られていくことへ託します。そして、”だからどうか彼を忘れないで、あなたも忘れられていい存在じゃない”と繋げる、救済への祈りとも言えるスピーチの曲です。
そのスピーチ動画がSNSでどんどん拡散され、感動した何万人もの人々が「エヴァン」を認識します。祈りが届いた瞬間であり、”自分の感じていた孤独は、自分だけのものではなかった”ということに気付き、孤独から解放される瞬間でもあります。間違いなく前半のハイライトであり、いくつもある嗚咽ポイントの一つです。
しかし一方、そのスピーチは、「エヴァン」が「コナー」の親友であるという嘘に基づいているので、土台は嘘であるわけです。それを知っている観客は、大きな感動と、少しの後ろめたさを抱えたまま、一幕を終えるのです。
どうですか、ゾクゾクしませんか?

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そして作詞作曲は、大ヒットミュージカル映画『the Greatest Showman』(2017)で作詞作曲を手掛けた、ベンジ・パセックとジャスティン・ポールのコンビです。『LA LA LAND』(2016)の作詞も担当するなど、今や引っ張りだこの二人ですが、実はその二作の前に、ブロードウェイでこの大ヒット作を手掛けていたのです。
『the Greatest Showman』で”これでもか!”というほど発揮された、メロディラインのキャッチーさと、比喩表現の映像的美しさと巧みさが、本作でもバッチリ魅力を放っています。(『the Greatest Showman』の比喩表現の多さ、そしてその表現全てが、絵本や、それこそサーカスのようにキラキラと美しいこと、もっと知られてもいいはず!)
アレンジは、絢爛豪華な『the Greatest Showman』とは真逆の、アコースティックベースです。『the Greatest Showman』をギラギラ・ゴリゴリと表現するなら、『Dear Evan Hansen』はキラキラ・サラサラというかんじ。心に染み込む、繊細で時に残酷なまでの美しさのある楽曲揃いです。丘の上の木に登って、朝日に光る朝露を見た時のような、爽やかで澄んだ表現が、とにかく美しいのです。

この、重たいテーマと爽やかな楽曲とのバランスが、この作品の肝であり、胸をグッと掴まれるパワーの源ではないでしょうか。 


ポップスの世界から見る Dear Evan Hansen

序盤の名曲「Waving Through a Window」(このWindowは、文字通りのガラス窓と、スマホ越しという意味での画面(ウィンドウ)がかかっています。巧み!)は、実は様々なアーティストにもカヴァーされています。
「Owl City(Carly Rae Jepsenとのアゲアゲ(古い)コラボ曲、「Good Time」が有名)」や、「Katy Perry(キュートで毒のあるファッションとエモーショナルな歌声が最高)」、「Pentatonix(エレクトロも歌いこなす、5人組アカペラグループ。大好き)」など、
どれもストリーミングやYouTubeにあるので、それぞれのアーティストの個性豊かなアレンジを聴き比べても面白いかもしれません。

映画化されていない作品で、ここまでポップスのアーティストにカヴァーされているブロードウェイミュージカル曲は、あまりありません!それほどまでに、若者をはじめ、孤独を感じる多くの人から絶大な支持を集めている作品と言えるでしょう。そのパワーに、この楽曲からぜひ、触れてみてください。
希望と救いに溢れた『Dear Evan Hansen』の世界は、きっとあなたの孤独に寄り添い、光のなかへそっと踏み出す勇気を与えてくれるはずです。

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■最近嘘ついちゃった人。
■ ボロボロに泣いて爽快な気分になりたい人。
■ アコースティック系のポップスが好きな人。

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minamisaki
声量ある歌手に惹かれがち。
トニー賞作品が気になりがち。
雷とミステリーと梅水晶が好き。


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