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【ジャージー・ボーイズ】喜怒哀楽を越えた涙を流したい人へ #私のスタンディングオベーション

「No Music No Life」なんて言葉があります。
私は学生時代の音楽の成績はよかったし、コーラス部に入っていたくらい音楽は好き。
でも特定の歌手の新譜を欠かさず買うなんてことはほとんどないし(とあるアイドルグループのもののみ)、音楽的な知識もなければ、イヤホンを忘れたってイライラせずに通勤できる。私にとっての音楽はその程度のもの。

そんな私でも、音楽を聴いた瞬間、なぜかわからないけど涙がこぼれてしまうことがあります。その時の自分の感情や周りの状況、色んな要因があるとは思うけど、音楽には理屈では語れないパワーがある。そんな宇宙的な結論を、本来理屈っぽい私から引き出してしまった作品が『ジャージー・ボーイズ』です。

#私のスタンディングオベーション は、ミュージカル好きな人達が、それぞれに”思わずスタンディングオベーションしたくなった、大好きなミュージカル作品”について、自由に書いたミュージカル紹介エッセイです。
扱うのは、日本で舞台化した作品・日本にはまだやってきていない作品、映画のみの作品、アニメで有名になった作品など様々。単なる批評や紹介ではなく、個人のエピソードも交えた一種の愛を語っていただきます。

悲しくもうれしくもない、それでも涙が止まらない

(あらすじ)
アメリカ・ニュージャージー州。
“天使の歌声”を持つフランキーは、兄貴分のトミー、ニックのバンドに迎え入れられる。
鳴かず飛ばずの日々が続く中、作曲の才能溢れるボブが加入。下積み生活を経て、ついにボブの楽曲と4人のハーモニーが認められる。
彼らは「ザ・フォー・シーズンズ」としてレコード会社と契約。次々にヒットを飛ばす。
しかし輝かしい活躍の裏では、莫大な借金やグループ内の確執など、様々な問題に直面していた。


春夏秋冬、季節ごとに4人のメンバーがそれぞれの視点からグループの経歴や音楽、そして思いを明かしていくドキュメンタリーテイストなこのミュージカル。楽曲はもちろんフランキー・ヴァリ&ザ・フォー・シーズンズのものです。
その時の感情に沿った楽曲を歌ういわゆるミュージカル的な場面もあれば、ヒット曲を歌いついで、単純にこんなに素晴らしい楽曲があるんだぜ!というショー的な場面もあります。


その2つを一気に感じられる場面が主人公・フランキーが名曲「Can't Take My Eyes Off You」を熱唱するシーン。
「トミー」も「ニック」もグループを脱退。そんなとき「ボブ」が「フランキー」のために作った楽曲で、邦題は「君の瞳に恋してる」。のちに数多くのアーティストがカバーし、日本では月9の主題歌にもなりました。
乗り気ではないレコード会社の社長を”絶対にヒットするから”と「ボブ」が説得。そしてこの曲が世に放たれるのです。
この「ボブ」の説得は歌唱でしか裏付けることができない。「おお?どれだけのいい曲なんだい?」という期待でいっぱいの観客の前に満を持して「フランキー」が登場。そのパフォーマンスは観客の期待を大きく超えるのです。

👏

日本で上演されたすべての公演で「フランキー」を演じている中川晃教の圧倒的な歌声はもちろん、ここのシーンに至るまでの流れ、芝居、そして客席からの拍手。毎回起こるショーストップ。
私は、特に音楽的な知識を持っているわけではないので、具体的に何がいいのかは分からないけれど…この瞬間って一生忘れられないなって直感的に思うのです。自分の体に「フランキー」の歌声が染みわたってくる。感情移入とかそんなもんじゃない、自分のすべての気持ちがフランキーを通して劇場に響いてる感じ。自分が客席に居ながら舞台にも立っていて、物語に存在している。自分の中に細胞レベルで「ジャージー・ボーイズ」が刻まれていく感覚。
作品全体に“劇場で舞台を観る醍醐味ってこれか…”、そして理屈抜きに“音楽ってすげぇ…”なんて空気が漂っているのですが、それを一番感じるのがこのシーンです。やっぱり何回考えても理由はわからないけど、私は何度も何度も観るたび泣いてます。

この作品の最後のピースはお客様です


個人的なことで恐縮ですが、私は小学3年生の頃からミュージカルが大好きで、それからほぼ毎月劇場に通っていました。その記録は29歳で途切れました。新型コロナウイルス感染拡大の影響で。
「ジャージー・ボーイズ」は2017年に日本で初上演されて以来、コンサートバージョンなどを含め何度も様々なところで上演されてきました。そして2020年の夏、初めて日本のミュージカルの殿堂・帝国劇場で上演される予定でした。
待ち望んでいた帝国劇場での再演の中止が発表され、その後、コンサートバージョンとしての上演が再決定。その初日は3月に帝国劇場で作品が上演されなくなってから、実に148日ぶりの有観客公演でした。
上記に書いたように、作品の特性上、他の作品よりも観客の存在が大きなこの作品。コロナうんぬんの前から、演出の藤田俊太郎さんや出演者の方は「この作品の最後のピースはお客様です」というようなことをおっしゃっていました。
あの場面だけじゃない。この作品にとって、劇場という場所で上演されるすべての作品にとって、最後のピースは観客なんです。そして音楽にとっても、聞き手は最後のピースなんですよね。

👏

また、必ず上演する。いつになるか分からないけど、この作品は上演します。「ジャージー・ボーイズ」に出会わず人生を終えていく人はたくさんいると思うし、あなたの好みにはハマらないかもしれない。でも1度最後のピースになってみたら、人生豊かになるかもしれません。


■ フォーシーズンズの楽曲に思い入れのある人。
■なんとなく楽しくなりたい人。
■ 音楽に詳しくはなくても好きな人。


YOSHIMO
祖母、母、私と脈々と続く宝塚ファンの血筋。
ミュージカルも歌舞伎もストプレも見る雑食系。
最近はかわいいマスクとエコバッグ、タオルハンカチに目がないです。

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