【虚偽日記】夜中の3時が朝になった時、君は きっと仕事を休むだろう

 結露する程激しいセックスは、体に熱を持たせ中々逃げては行かない。
 季節は冬。
 重い服を着て、人工的に体温をあげなければいけないが、今は薄着がちょうどいい。

 時間も深まり、瞼が重くなる。
 並んで座って、触れる君の体は暖かくて気持ちが良い。
 意識が朦朧とし、天井を見上げる僕は何だか天井に星が映った様に見てきて、夜空を見ていようだった。
 すると君が言う。
「なんだか、星空が見えるね。暗いせいかな」
 虚ろ虚ろ、君が言う。
 君も眠いんだね。
 
 僕は君が同じ事を考えている事が、眠い頭ながらも、とても嬉しく感じた。
「だったら本物をみればいい」

 僕の口から無意識に出た言葉。
 君はおもむろに立ち上がって、窓に手をかける。

「見てコウさん、窓が濡れてる」
「少し、やりすぎたね」
 そう言うと、
 君は恥ずかしそうに、はにかんで笑う。

 彼女が窓を開けると激しく風が吹いて、冷気が部屋に充満した。

 バサバサと靡く君の髪。
「早く閉めて。寒いから」
「・・・」
「ミミちゃん?」
「ねぇ、コウさん。こっち来て」

 眠い目を擦りながら僕は、フラフラと君の輪郭を頼りに歩く。
 ほんの数歩で着く距離の途中、メガネを拾ってかけておく。
 
 君の細くて柔らかい体を後ろから抱きながら、頬に顔を擦りつけながら、体温を感じ重い瞼を少し開ける。

 満点の星。
 しかし、時間が時間で夜が明けかけ、本当に少しだけ日が昇りかけ顔を覗かせている。

 気味が悪い程の形容し難い美しい景色に僕は言葉がでなくなった。

「綺麗だね、コウさん」
「うん」

 君の方が綺麗だ。
 そんな浮ついた言葉はでなかったけど、
「君とこれの景色が見れた事が幸せだな」
「嬉しい事を言うんだね」
「本当の事だから」
「そっか・・・」
「そうだよ」

「ミミちゃん、結婚しようか」
「いいよ」

 この景色を君と見て、いつまでも見ていたいと思ったから。

「コウさん。今、何時?」
「夜中の3時を回った所だね」
「そっか、明日は仕事を休もう」
「そうだね。眠いからね」
「怒られるちゃうかな、社会人なのに」
「今日ぐらいいいだろうさ。結婚するんだ。特別な日にしよう」
「そうだね」
「そうだよ」
「このまま起きてて、朝一でお休みの連絡をしなきゃね」
「うん、けど。今はこの景色をまだ見ていたな」

 なんとも無い日、なんとも無い日常に、ポツンと落ちてきた、ちょっとだけ変わった日。

 そんな、どうでも良い事を大切にして僕らは今日も生きて行くのだ。

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