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なぜ法務を外注すべきなのか

というタイトルでnoteを書き始めたら延々と悶々として書き終えることができませんでした。翌朝に見直さなかったラブレターとしていったん投稿します。

先端領域の開拓の一環で、法律事務所forkは、3年前から「法務受託」と題したパッケージを持つようになりました。企業の法務部門の外注を引き受けるというのがその内容となります。最近ではいくつかの事務所が法務の受託を始めたと聞きますし、他事務所との情報交換も積極的に行っております(共同受任で他事務所の弁護士さんと受託を担当することも増えています。)。以下、「法務受託」のポジティブな要素を、うちの2歳児がやがて3歳児になったときにわかるような言葉で個人の感想としてゆるっと書きます。

1 「常駐」ではなく「法務受託」が選ばれる理由

forkが「法務受託」を始める前から、顧問契約の一形態として「週に何日か常駐しますよ」というプランを持っている事務所は少なくなかったと思われます。このような「常駐」と「法務受託」との違いはどこにあるでしょうか。

クライアントからのポジティブなフィードバックを受ける中で、大きな違いだなと気がついた点は「仕事の範囲」です。「仕事の範囲が定義されていないこと」「会社のメンバー扱いができてなんでも頼めること」に使いやすさを見出していただいている印象があります。

外部弁護士とは異なり、与えられた課題を打ち返すのではなく、メンバーの一員として自ら課題を拾い、日々の暮らしの中で事業部の方々とコミュニケーションをとるのが「法務受託」です。当然「契約書はみます。プライバシーポリシーはみます。労務の相談は受けます。しかしこれはやりません。」といった形で作業内容を定義することはあり得ません。価値が提供できる範囲においてなんでもやります。メンバーとして日々会社の活動に参加していきます。

また、「仕事の範囲」の問題は、おそらくマインドの問題です。単に仕事の範囲を定義しなければ良いという話ではなく、「常駐する外部弁護士」と「会社員として働く弁護士」の「当たり前」は大きく異なりそうです。

会社員であれば、会社のメンバーとして必要なことをやっていくのは当たり前のことです。それは自分自身の仕事であるからです。会社員は、どのように役に立てるかを考えながら社内をうろうろします。数字をつくることの大変さや重要さがわかります。「リスクを指摘する」のが仕事ではなく「リスクテイクを支える」のが仕事だと痛感します。会社員は、案件に応じてどの程度の時間をかけるべきかを考えて動くことができるようになります(なぜなら自分のアウトプットが社内でどのように扱われていくかが分かるため)。自分の動きの遅さで事業を止めることはできないということが心の底からわかります。異論もあるかもしれません。

という経験則はやはりあると思いますので、「会社員として働く弁護士」さんに法務受託を依頼することにはメリットがありそうですし、このメリットをしっかり確保するためには、やはりインハウスロイヤーとしての勤務経験のある弁護士さんに依頼されるのが良いのではないかというのが今のところの感想です。きっと異論もあるでしょう。

なんであれ現状をみますと、リモートワークも進み、内外の境界は相対化されつつあります。テックの整備も進んでいく中、必要となるのはテックのオペレーターであり内部の決裁機能に組み込まれた人員、ということにもなっていきそうです。外部の人員がこれを担うことはできないため、やがては「外部弁護士の常駐」という関わり方は消滅する運命にありそうです。と個人的には思います。異論もあるでしょう。

2 「正社員」ではなく「法務受託」が選ばれる理由

forkでは「法務受託」を「いつでも月末限りで解約できる」仕組みにすることにこだわっています。半年契約、年契約にすることは、「お互いが望んでチームメイトでいる」という「法務受託」の最も重要な前提に反するからです。この結果を重視したドライな切り離しやすさがまず、正社員との違いといえそうです。

もうひとつの違いもシンプルです。法務のノウハウの蓄積、属人化について課題を感じている会社は少なくないです。「法務受託」をお勧めする大きな理由はここにあります。人ではなく組織が法務を引き受けるのが「法務受託」です。

法務のノウハウの重要部分は、法的知識ではなく会社のヒストリーを知ることにあります。「これまで会社にどこに問題があったか。」「監督官庁からどのような指摘を受けたか。それに対してどのようなロジックで説明し、社内をどう変えたか。」「会社のバリューはどの部分を大事にしているか。」「どの部分はリスクを取れるか。」「この分野の話は社内の誰にすればいいか。」…法務として良い仕事をするためには、そういった会社のヒストリーを深く知ることが必要になります。

どれだけ優秀な方を採用した場合であっても、このような意味でのノウハウは1から蓄積していく必要があります。法務のノウハウはそもそも「人に蓄積していく」ものだといえます。法務のノウハウは、そもそも属人化せざるを得ません。異論もあるかもしれません。

属人化を防ぐべく、wikiを構築したり、tipsをまとめたり、さまざまな試みを行うことがありますが、結局のところいたずらに工数を増やすだけで終わってしまうことが多いと聞きます(仮にそれなりの文章の束ができたとしても、これを参照する手間はかなりのものになります。)。また、確かにtipsの蓄積はめちゃくちゃ重要ですが、本質的部分はそもそも言葉にならないものであり、そもそも言語化してまとめることに無理があるノウハウも多そうです。

とはいえ、属人化は、そもそもこれほどまでに避けるべきものなのでしょうか。属人化はとりもなおさず業務の習熟です。個人の頭の中にノウハウが入っていることは、参照の手間が省かれ作業の効率化を進め、判断の精度を高めます。属人化はまったく悪いことではないはずです。問題があるとすれば、属人化した法務メンバーが会社を離れる場合です。主要メンバーの転職によって多くの部分がリセットされた事例はよく耳にします。

これに関連して、私がいつも「法務受託」について、企業サイドにも弁護士さんサイドにも最低限確保することをお勧めしているのは、複数の弁護士が法務受託を担当することです。これにより、法律事務所が外部装置として機能し、クライアントにおける法務のノウハウを「人」ではなく「組織」に蓄積させることができます(仮に法律事務所内で引き継ぎが発生する場合も、クライアント企業ではなく法律事務所内のコストで引き継ぎを行ってもらうことができます。)。異論はあると思いますし、ドライな切り離しやすさとの相克もあるでしょう。

このような理由で、「法務受託」を依頼する場合には2名の弁護士が担当する法律事務所に依頼することをお勧めしています。2名が担当することにより対応速度も早まります。多すぎると見合ってしまうロスが発生したり当事者意識が薄れたりします。

もう一点、よくあるのが、「同様の経歴をもっている弁護士を正社員で採用したいんだよね」という話です。上場に向けて正社員の法務部長がほしいというケースを除いてはこれまで書いてきたように外注も魅力的な選択肢であるとお勧めしたいところですが、むしろこの話を聞いてよく思うのは、魅力的な経歴を重ねてきた人は、価値提供できる場を広く求める傾向があり、外部からも引っ張りだこであり、正社員として働くことを望んでいない場合が多いのではないかということです。そのような優秀な弁護士さんたちを社内に置く方法として今後よりいっそう「法務受託」が機能していくのではないかと予測しています。きっと異論はあるでしょう。

3 まとめ

以上のようなメリットが法務受託にはあります。と、ポジティブな面をまとめましたが、ネガティブな話も聞くようになってきましたので次はネガティブ編もよろしくお願いします。「常駐時間長めの外部弁護士」と「法務受託弁護士」はまったく違います。

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