この地球に生まれたことを、大きい青が抱きしめる

2年半ほど前、私は所謂どん底にいた。
毎日何もする事がない。何もしたくない。
部屋で時計の針をひたすら眺めてはベランダに出てみたり、寝転んだり、ギターを弾いたり、携帯をなぶったり。
何も手につかないので、身支度をして外に出る。

優しい両親のおかげで、私は車を所有出来ている。
蛙色のパッソは私の移動式ワンルー厶だ。
その時期は部屋に篭っていると塞ぎ込んでしまうのでよく車の中にいた。

向かう先は海だ。私は海のない所で生まれ育ったので、人より尚更海が好きな自信がある。
愛知の行ける海は、ひとしきり行った。

思いつきで片道1時間くらいの海が見える場所を探す。海の近くには大抵公園があるので有難い。

1時間ほどのドライブを経て着いた海は、私が起床してから数時間しか経っていないのにいつも夕暮れだった。でもいい。夕暮れの海って、とても良いから。

波が毎秒形を変えて畝り、緩やかに波音がリズムを刻む。日が暮れるにつれて不思議なことに赤くなり、沈んでいく太陽。それに比例して暗くなっていく空、濃さを増す海。遠くの夜光の光がはっきりとしてくる。潮風に身を震わせながら、ただその移ろいをぼうっと眺める。

私はこんな所で何をしているのだろう。
今私がここで、しゃぼん玉のようにパチンと消えても、誰も気づきやしないのだろう。

こんなことばかりを本気で考えていた。
冗談じゃなく、本当に本気で考えていた。
死ぬ勇気も無ければ生きる気力も無い。
しかし、こんなことを本気で考えたところで、意味が無いことも分かっていた。
だから海に行くのである。

海はあまりに大きい。深い。
美しい。恐ろしい。
私が生まれた地球は丸く、青いらしい。
そんなことは知っているけれど、何回聞いても分からない。
分からないけれど、生きている。
分からなくても、生きていられる。

私は確かに生きている。
否が応でも生きてやる。
この地球に生まれ、この青い地球で生きていく。

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