見出し画像

「僕の改革 世界の改革」 第41夜(第6幕 26 ~ エピローグ)

ー26ー

長き旅の果てに、僕は『白き夢』の本拠地である神殿にたどり着く。
全ての扉は手にした鍵で開いた。誰も邪魔するコトはできない。邪魔しようとする意志すら感じられはしなかった。その鍵を彼らが、神のように崇めていたからか?それとも…

最後の扉を開いた時、神殿の最深部に立って居たのは1人の女性だった。
そこにいたのは、まぎれもなく『彼女』だった。

ずっとずっと僕が探し続けていた彼女。並木さやかなどではなく、家を出ていく前のままの姿の彼女だった。
ただ、彼女は全身に真っ白な衣装をまとっていた。
「私は…白き夢。あなたは?」
「僕は革命家ポルトーテス。いや、違う…僕は僕だ!!かつて、君と一緒にいた僕だ!!」
そのまま彼女は何も答えない。
「忘れたとは言わせない!迎えに来た!今度こそ!!」
「なぜ?追ってきたの?」
「君が世界で一番大切な人だからだ!!」
「もう、追わないでって言ったでしょう?」
「関係ないね」と、僕は答える。
フッ~と一息ついてから、ゆっくりとゆっくりと彼女は話し始めた。


ー27ー

「人々は擦り切れ、すさんでいく…
 心は少しずつ少しずつ、風化していく…
 長い長い時間をかけて、少しずつ…」
白き夢と名乗る彼女は続ける。
「『白き夢』世界が風化していく作用を、私たちはそう呼んだわ。そうして、いつしか私自身それになった。夢は何もかもを取り込むの。人々は現実の世界から消えてゆく。イヤなコトは全て忘れて。私もいつかその夢の中に自然と取り込まれるの。きっと、最後にはこの世界中の何もかもが真っ白な夢の中へと…」
「違う!そんなの違う!!」と、僕は反論する。
「じゃあ…何が正しいの?」
「え?」
「そんなに言うんだったら、ほんとうに正しいコトって何?」
「それは、わからない…」
「わからないんだったら、そんなセリフはくもんじゃないわよ!!」
僕は何も言い返せなかった。
「『自然消滅という理想的な死』それのどこがいけないの?生き物は全て滅んでいくのでしょう?なら、これほどに理想的な終わり方など存在しはしないんじゃないの?病気で苦しんで死ぬよりも、事故にあって亡くなるよりも。それどころか、老衰なんかよりも、ずっとずっと理想的な死に方なんじゃないの?だって、それらはみんな死にたくもないのにこの世界から消えていく人たちでしょう。でも、私たちは違う…自らの意志で、苦しむこともなく自然と死んでゆく。それは『消えていく』と表現してもいいくらいだわ」
そう語ると、彼女はこうつけ足した。
「この理想が叶わぬならば…
 無理にこの世界で生きていくコトはない…
 それよりも、夢の中の世界で自然と消えていった方が、ずっとずっと幸せじゃない?
 どうせ滅ぶ運命ならば、静かに自然に消えていった方がいいでしょう?」
「違う!違う!違う!!そんなの違う!!君らしくない!!」
「じゃあ、私らしさって何?あなたらしさって何?そんなの誰が決めたの?」
「君は君さ」
「あなたは、ずっとそうだった。ほんとうの私がどんな人間かも知らずに。ただ、自分の理想を押しつけ続けた。あなたが見ていた私は、ほんとうにほんとうの私だったの?そう断言できる?」
「それは…」
「何度も同じコトを言わせないで。もう、私を追わないで。私はこのまま消えていくの。私だけじゃない。この世界も、そしてあなたも。いつか消えていく運命なのよ」
「そうかも知れない。でも、それは今じゃない」
「………」
「君は消えちゃいけない。この世界も君も!消させはしない!!この僕が!!必要だと言うなら変えてみせる!何度だって変えてみせる!!」
「道は…道は違えてしまったのよ…」
「それでも、いつか再び交わる時が来る!!」


ー28ー

それから、もう1度彼女はフ~ッと深くため息をついた。
「わかったわ。でも、時間をちょうだい。私も、もう1度考えてみる。その間にあなたも考えて。そして、やり残したコトを終わらせてきて。それから、もう1度会いましょう」
「ありがとう」
「今度こそ最後よ。今度こそほんとうに…」
「わかった」
そう言って、僕は『白き夢』のリーダーとなった彼女と別れた。


ー29ー

その後、僕は『革命都市ガダメポートレス』へと帰った。
何をすればいいのかはわからなかったが、とりあえずこの街へと戻ってくる必要があると感じたから。
そこで再び、心の声を聞いた。


ー30ー

『意識化の声』が、僕の心に響き渡る。

「人は生きることをあきらめた時、人形と化す。
 たとえ、その人生が物理的に存在していたとしても、それは『人』の生き方ではない。ただ、淡々と流れる時間…
 そんなモノは、ミジンコにだって、ゾウリムシにだってできる。単なる生物や家畜と同じだ。
 人の人生とはそういうものではない。自らの意志で生きてこそ、人の人生だと言えるのだ。
 『ただ流れに身をまかせて生きながらえているような人間』と『人形』と、どこに違いがある?
 違いなんて、ありはしないんだよ。自らの頭で考え、自らの足で行動し、自らの意志に従って生きてこそ、人は『生きる』というコトを知るんだ。
 どうだ?違うか?

 時は戻らない。なら、より先に進むだけだ。
 何者にも頼らず、依存せず、自らの意志に従い、自らの道を歩むのだ。

 さあ、わかったら先に進みな。
 お前には、まだやるコトがあるだろう」


ーエピローグー

何もしなくとも人形。
懸命に生き過ぎても人形。
その末に見い出した僕の生き方。でも、それはとても不安定なモノかも知れない。

それでも、僕は生きていく。誰の生き方でもなく自分の生き方を。
ある意味でとても不安定、ある意味でとてもつらい人生を。


   ~第6幕 完~

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。