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アリさんとキリギリス

青年は、あの人に読んでもらうための物語を書き始めました。

それは、このようなお話でした。

あるところに、「キリギリスの男の子」と「アリの女の子」が住んでいました。
キリギリスは、子供の頃に母親から無理やりに勉強させられ過ぎたために、大人になってから遊んでばかり。
逆に、アリさんは子供の頃に伸び伸びと育てられたおかげで、大人になってから一生懸命に働いて暮らします。

30歳を過ぎて、アリさんは結婚することになりました。周りの人たちみんなが「素晴らしい!」といってくれるスペックの高い人でした。
「お父さんもお母さんもお友達も、みんな『その人にしなさい』って言うの」
キリギリスは、特に反対もしません。
「君がそうしたいなら、すればいいんじゃない?」と言うばかり。
ただ、「結婚ってそういうものかな?誰かが喜んでくれるからとか、そういうものなろうか?」とつけ加えました。
アリさんは、心のどこかでキリギリスに反対してもらいたかったのです。そうして、「自分と結婚して欲しい!」と言って欲しかったのです。
でも、キリギリスは全く働く気はありませんでしたし、残りの人生も自由気ままに生きていくと決めていました。自分の好きな音楽に没頭して、曲を作ったり演奏したりして暮らしています。
どう考えても、結婚には向いていません。

アリさんのお相手は、カブトムシくんでした。
仕事もできるし、アリさんを雰囲気のよいお店に連れて行ってくれたり、素敵な贈り物をたくさんしてくれます。
キリギリスは、その姿を遠くから眺めながら「もしかしたら、アリさんは相手を間違えているかもしれないな…」と思いながらも、何も言わずその場から立ち去ってしまいました。

数年後…
キリギリスは、遠い昔のアリさんとの思い出を曲にして発表します。曲は大ヒットし、キリギリスは悠々自適な暮らしを続けるのでした。
心のどこかで、「もっと別の人生もあったのではないだろうか?」と思いながら…

途中の過程やエンディングは、いくつか違うバージョンがあるのですが、おおむねこのようなストーリーでした。

「これは、あの人には見せられないな…」と、青年は思いました。

あまりにも2人の人生に似通り過ぎていたからです。こんなものを読んだら、あの人は傷つくに決まっています。もしかしたら、この物語の通りに未来が確定してしまうかも…

なので、結局、見せることはありませんでした。

でも、「ディケンズの分解メス」の能力って、未来の可能性を人に語ることによって、未来を変化させてしまう能力。語らなければ、余計に予測通りの未来に確定してしまうのです。

なので、おおむねこの通りに進んでいきます。細かい部分はいろいろ違っていても、「当たらずとも遠からず」といった感じで。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。