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「僕の改革 世界の改革」 第44夜(第7幕 11 ~ 12)

~11~

ザッザッザッザッザッ!!!
「やるぅきい~~~~!!じゅうじぃつう~~~~~!!!」
一心不乱に前進し続ける巨大な人の塊の先頭に立つ人物が大声で叫ぶ。

『やる気!やる気!やる気!やる気!やる気!やる気!やる気!やる気!やる気!』
あとに続く全員が、かけ声を一致させて進み続ける。
まるで、ナチスの行進だ。

「おお~い!おお~い!」と、僕は負けじと声を上げる、
そこで、また先頭の司令官が大声で叫ぶ。
「きりょ~く!じゅ~じつ!!」
僕の声など全く聞こえていないようだ。

再び、あとに続く数千・数万の軍隊が一斉にかけ声。
『やる気!やる気!やる気!やる気!やる気!やる気!やる気!やる気!やる気!やる気!』

僕は、必死になって止めようとした。
しかし、行進に参加している1人が、こう言っただけであった。
「止められないんだよ。どうしても」
別の1人も叫ぶ。
「止まらないんだ!勝手に足が…足が…」

どうにかして前進する行軍を止めようとする僕。
すると、最前列の司令官が顔を真っ赤にして怒鳴った。
「貴様!何をしておる!我々の邪魔をするな!!」
その顔には見覚えがあった。懐かしきあの『学生服君』ではないか。もはや学生服は着ておらず、立派な軍服に身を包んでいたが、忘れるはずはない。

「オオ~イ!オオ~イ!学生服君や~い!」

僕は大声で声をかけるが、学生服君は全く気づくそぶりも見せない。

「私が誰かわかっているのか?」
そう言おうと思って、僕はやめた。そうだ。僕はもう『ポルトーテス』ではないのだ。もはや隊長でもなければ、革命家ポルトーテスでもない。
「僕は、ただの『名無し』なのだ。名前を失った僕に向かって誰も振り向いてはくれない」
そう悟った。

ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!と、足並みをそろえて眼前を進み続ける巨大な軍隊。ただ、真っ直ぐに。ひたすらに真っ直ぐに行進を続けていく。まるで、アリの行列のごとく。真っ黒な広く大きなじゅうたんのごとく。

学生服君は、司令官となって何万人もの軍隊を率いて行進を続ける。どこに向かっていくともなく、なんのためという理由もなく。ただ、ひたすらに、ひたすらに歩き続けるのだ。
彼らにとっては『歩く』という行為そのものが大切だった。心の底からやる気を出し、ただひたすらに努力を続ければ、それで幸せになれると信じて言る。いや、幸せなのだ。
彼らは、努力するという行為そのものに愉悦を感じ、恍惚とした表情で進み続ける。世界の果てから、反対側の世界の果てまで。

では、もしも、世界の果てまで到達したら?

きっと、その時には折り返して、反対側に進み続けるのだろう。その先にあるものがレミングスの群れと同じ末路でないことを願おう。


~12~

その後も、僕は旅を続けた。この世界の行く末がどのようなモノかを確認するために。

旅の途中で、僕は1人の女性と出会った。『恐怖の絵を描き続ける女性』だ。

人々は、花の蜜に惹かれる昆虫のように、彼女の描く絵の周りに集まっていた。
「決して見たくはないんだ!見たくはないのだけど、なぜだか気になって見に来てしまう」
「ああ~!ほら!怖い!怖いよ!」
「でも、やめられないんだよ~」
絵を取り囲むように集まった群衆は、口々にそう叫ぶ。

「何がそんなに人々を引きつけるのだろうか?」と気になって、試しに僕も絵をのぞき込む。すると、その瞬間、全身を何かが駆け抜けるような悪寒が走った!
「確かに、眺めているだけで空恐ろしくなってくる。だけど、絵の前から離れられない。そのような不思議な魅力がある…」
僕がそんな風に考えていると、絵の創作者である女性画家が姿を現した。
それは、世界中の何もかもに絶望し、精も根も枯れ果てたというような表情をした女性だった。

「私はね。決して、こんな絵が描きたいわけじゃないの…」
「じゃあ、描かなければいいじゃないいですか」と、僕は答える。
「いいえ、描かないわけにはいかないの。だって、描けてしまうのですもの。私にはそれができる。できてしまう。他の誰にもできないコトができてしまう。だったら、やらないともったいないと思わない?」

「それはそうかも知れないな…」と、僕は思った。
世界中の自分だけに与えられた才能。それを使わないのはもったいないかも。たとえ、与えられたのが『負の才能』であったとしても、それでも…

別れ際に恐怖の絵を描く天才女性画家は言った。
「私、別の世界で、人々を幸せにする絵を描いていたはずなのに。どうして、こんなコトになってしまったのかしら…」

別の世界?
一体、なんのコトだろうか?

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。